『サムライマラソン』「5つ」の魅力を解説!極上の時代劇エンタメだ!



©”SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners GAGA.NE.JP/SAMURAIMARATHON


本日2月22日より映画『サムライマラソン』が公開されています。先に結論を申し上げておきますと……もう!これは!めちゃくちゃ面白かった! 超豪華な俳優陣の共演と、“一風変わった時代劇エンターテインメント”を期待すれば最高に楽しめるのではないでしょうか。その魅力を以下にたっぷりとお伝えします!

1:マラソンなのに人が死ぬ!
三池崇史監督版『十三人の刺客』×マンガ「スティール・ボール・ラン」な内容だ!


本作では、サムライの時代が終わろうとしていた1855年の幕末に、日本で行われた最初のマラソンと称される安政遠足(あんせいとおあし)の過程と顛末が描かれています。その走行距離は7里(約27.5キロ)、タイムが残っていないため現代のマラソンと単純比較はできないものの、着順はしっかり記録されていたのだとか。現在も群馬県安中市では毎年5月の第2日曜日にその名前を冠したマラソン大会が開催されており、サムライをはじめとした様々な仮装での参加が認められているのだそうです。

気になるのは、映画のキャッチコピーに「行きはマラソン 帰りは戦(いくさ)」とあること。「え?お侍さんがマラソンするんでしょ?なんで戦になるの?」と思われるところですが……本編を観るとそれに嘘偽りは全くありませんでした。サムライたちがマラソンに参加しただけのはずなのに、思いっきり人が死に、戦争のようなとんでもない事態になっていくのですから!

本作の印象を例えるのであれば、“三池崇史監督版『十三人の刺客』×マンガ「スティール・ボール・ラン」”な印象でした。

『十三人の刺客』は1963年の同名映画のリメイクで、残虐非道の限りを尽くす暴君に選りすぐりの刺客たちが立ち向かい、血みどろの死闘が繰り広げられるという内容でした。『サムライマラソン』とは時代劇かつ多くの人物が錯綜する群像劇であること、PG12指定(12歳未満の鑑賞には成人保護者の助言や指導が適当)納得の残酷描写があること、プロデューサーのジェレミー・トーマスと中沢敏明がタッグを組んで製作をしていることなどが共通していました。

「スティール・ボール・ラン」は、絶大な人気を誇る「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズの第7部であり、乗馬による北米大陸横断レースが描かれています。ただレースをするだけでなく、その過程では多くの策略がめぐり、参加者同士への襲撃や殺人も行われていました。『サムライマラソン』での“ゴールを目指す競争だけでなく殺るか殺られるかの極限バトルにもなっていく”様相はかなりにこちらに似ているのです。

他にも「サムライがマラソンをしていただけのはずなのに、いつの間にか『レザボア・ドッグス』みたいに連鎖的に人が死にまくっていた」「サムライがマラソンをしていただけのはずなのに、いつの間にか『300(スリーハンドレッド)』みたいな殺し合いになっていた」などとも例えられます。良い意味で「こんな内容だとは思わなかったよ!」と驚ける内容になっているので、普通の時代劇にはもう飽きたという方にこそおすすめできるのです。



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2:佐藤健の眼光に釘付け!
超豪華キャスト全員が最高だ!


本作の目玉と言えるのは、日本を代表する豪華俳優陣が結集しているということでしょう。特に注目は佐藤健、小松菜奈、森山未來の3名で、そのハマりっぷりと熱演は半端なものではありませんでした。

何よりも凄まじいのはやはり主人公格の佐藤健。彼が演じるのは親の世代からスパイとして潜り込み“目立たないように”生きていた冷静沈着な人物……だったのですが、手違いの文(ふみ)を送ってしまったことにより、誰も知られずに単独で奔走することを余儀なくされます。全力疾走しているのに(だからこそ)その眼光は鋭く、「いつ人を殺してもおかしくない」と思わせるほどの狂気をも見せていました。“秘めた想い”があると同時に、“忍びとしての身体能力”を合わせ持つ役として、佐藤健以上の人選は考えられないでしょう。



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小松菜奈が演じるのは、お姫様でありながら、ある理由により“男装”してマラソンに参加するという特殊な役です。彼女は決して知名度だけを優先して選ばれたというわけではなく、“男装した姿が男性に見えること”、“藩主である父親に反抗するという強い自立心を表現できること”、“美しい姫としての説得力があること”という3条件をクリアーしていたのだとか。その男装姿の凛々しさとたくましさは「リボンの騎士」のようでもあります。時代劇にもマッチする佇まいは『沈黙 -サイレンス-』、走る姿の美しさは『恋は雨上がりのように』で証明済みですし、小松菜奈のファンという方は是が非でも観なければならないでしょう。



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森山未來は(小松菜奈演じる)お姫様と結婚するという野心を持つ高慢な男に扮しています。彼はマラソンで1着になるためにほかの参加者の邪魔することはもちろん、手下を利用してこっそりカゴに乗るなど反則行為を連発するという、『苦役列車』の最低最悪な性格の青年とはまた別ベクトルの、『怒り』の時にも似た凶暴性も併せ持ったクズ野郎にハマりまくっていました(もちろん褒めています)。その一方で、森山未來本人が「一言で“悪者”とは言い切れない人間味溢れる魅力がある」と分析している通り、ある点においては応援もできる二面性も持つ人物にもなっています。そのダンスや舞台で期待上げられた身体能力を生かしたダイナミックな殺陣や、乗馬からの…(ネタバレになるので自粛!)…も必見です。



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そのほか、その俊足のために1着になることを期待される親しみやすい性格の青年を染谷将太、腰痛持ちのせいで仲間からおいてかれてしまう中年を青木崇高、開国を急ぐ幕府重臣を豊川悦司、カリスマ性があるもどこか胡散臭い藩主を長谷川博己、頼りになる風格がある一方で間が抜けている竹中直人と……隅から隅まで実力派ばかり。さらには、小関裕太や中川大志や門脇麦など本来は主役を張れる人気若手俳優も脇を固めていました。スケジュールや作品規模を考えてもこれ以上の配役は望めないと思うほど、「どこまで豪華なんだ?」と驚けるこのキャスティングは賞賛されてしかるべきでしょう。



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3:原作は『超高速!参勤交代』の脚本の方!
シリアスであると同時にブラックコメディだった?


『マラソンサムライ』の原作小説『幕末まらそん侍』を執筆したのは、『超高速!参勤交代』で脚本を手がけた土橋章宏です。こちらは興行収入15.5億円というヒットを記録し、第38回日本アカデミー賞では最優秀脚本賞を受賞、好評を受けて続編『超高速!参勤交代 リターンズ』も公開されていたので、知っている方も多いでしょう。

その『超高速!参勤交代』はコメディというジャンルのように宣伝がされており、実際に本編ではクスクス笑えるシーンは多いのですが……一方で「これはかなりイヤな話なのでは?」と思うところもありました。劇中の参勤交代は冒頭から“苦行”と揶揄されるほどブラックな行事であり、陣内孝則演じる藩主の性格は最低最悪で、種々のエピソードも良い意味で不快に感じるものもあり、けっこう人死にもでていました。

今回の『サムライマラソン』の物語も、よくよく考えてみれば“滑稽”とも言える勘違いや、私利私欲による策略のために、あれよあれよと事態が悪い方向に転がってしまって、ただマラソンに参加していただけのサムライたちが“理不尽”に翻弄されてしまう……という内容であり、コメディとして売り出された『超高速!参勤交代』と共通しているところも多いのです。例えば、前述した主人公格の佐藤健の行動原理は……公式の文言では「走れ!“勝つ”ためではなく“守る”ために」とありますが、下世話な感じに言い換えれば「やべ!謀反の動きかと思ったらただのマラソンじゃん!間違った文(ふみ)を送っちゃった!このままだと刺客が来てみんな殺されちゃうから何とかしなきゃ!」ということだったりもするのです。

『サムライマラソン』で何よりも面白いのは、そんなふうに物語だけを切り取れば“ブラックコメディ”とも呼んでも過言ではない内容であるのに、全体のトーンがかなり“シリアス”というギャップがあることなのかもしれません。冒頭のシーンから「え?これ笑うところかな?」と良い意味で困惑できますし、マラソンの最中に起こるとあるハプニングも酷すぎて(褒めています)「フフッ」と思わず笑ってしまいますし、竹中直人演じる男の終盤のアレは「お前は笑わせにかかっているだろ!」とツッコミたくなるほどでした。

そんなわけで、『サムライマラソン』は人死にが多いことも含めて不謹慎ギリギリ、黒〜い笑いに包まれている作風であり、ギョッとする残酷描写も挟み込まれるという……良くも悪くもクセが強い内容と言える、ある程度は拒否反応を覚えてしまう方もいるかもしれません。

しかし、この“イヤな話”をコメディ然として描くのではなく、シリアスなトーンに落とし込むことで、黒い笑いと生真面目さが両立しているという奇妙な印象になっている、それこそが『サムライマラソン』の味わい深さに繋がっているとも言えます。それを期待するのであればすぐにでも劇場に駆けつけてほしいですし、“意地の悪い話”が好きという方であれば存分に楽しめると保証しますよ。

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4:海外の監督を起用したことによる“科学反応”があった!
その他のスタッフも超一流だ!


本作は日本を舞台にした時代劇でありながら、バーナード・ローズというイギリスの映画監督を起用していることも大きな特徴です。プロデューサーのジェレミー・トーマスは『ラストエンペラー』で中国を舞台にした皇帝の物語をイタリア人監督に、インドネシアを舞台にした4カ国合作の『戦場のメリークリスマス』を日本人監督に任せていたりと、“異文化をミックスさせた”、“海外展開も見越した”映画の製作に定評がある人物です。今回の『サムライマラソン』も“時代劇を撮ったら面白くなる監督”ということで、ローズ監督に白羽の矢が立ったのだとか。

そのローズ監督は『不滅の恋/ベートーヴェン』や『パガニーニ 愛と狂気のヴァイオリニスト』などの伝記映画も手がけているので、なるほど『サムライマラソン』のように史実を元にした作品にマッチすると納得できます……が、そのキャリアでは『キャンディ・マン』や『セックステープ Sx Tape』のようなバリバリのホラー映画も手がけていたりします。

『キャンディ・マン』は大学院生の女性が都市伝説の謎を突き止めるというスタンダードなホラーであると同時に、かなり血なまぐさいショッキングなシーンがあることも特徴でした。『サムライマラソン』にあるホラーのような演出やPG12指定納得の残酷描写に手を抜かなかったのは、ローズ監督の作家性が大きく影響しているのでしょう。

そのローズ監督は『サムライマラソン』において、『キセキ -あの日のソビト-』などの斉藤ひろし、『一命』などの山岸きくみと共同で脚本を執筆しています。原作にわずかにしか登場しなかった(小松菜奈演じる)お姫様の活躍を大きく膨らませたこと、物語のオープニングとエンディングのシークエンスはローズ監督によるアイデアであり、“当時の日本の歴史”をも見出した、よりシリアスな脚本へと変更が加えられていったのだそうです。同時に、劇中では複雑な人間関係が過不足なくわかりやすく描かれており、しっかり伏線を回収するカタルシスも用意され、上映時間は106分とタイトにまとまっています。脚本そのものの完成度も、存分に高いと言えるでしょう。

さらに、ローズ監督の演出は独特で、脚本通りに一言一句そのまま喋らせるということを“しなかった”そうです。俳優陣とはクランクイン前にディスカッションをしておいて、現場ではアドリブを推奨、テスト段階からいきなりカメラを回すなど、“偶然やハプニングを全て取り入れる”という撮影をしていたのだとか。果ては“天候待ち”をせず、雨が降ればそのまま雨のシーンに変更し、よりマラソンが過酷なドラマとして盛り上がるように撮影をしていったのです。(つまり本編中に降る雨は本物!)

そのような臨機応変な撮影がされていながら、実際の映像はどのカットを見ても美しく、統制が取れているというのも驚異的です。それは、衣装をヨーロッパやアジアの大作で活躍するワダ・エミ、撮影監督を『るろうに剣心』や『マンハント』の石坂拓郎、美術監督を『モテキ』や『スキヤキ・ウエスタン・ジャンゴ』の佐々木尚、編集にはバイリンガルでもある(ローズ監督との連携も取りやすい)上綱麻子と、海外展開も見据えた映画を手がけてきた超一流のスタッフが集結していることも大きな理由でしょう。

山形県で全てのロケが行われたという自然風景はとにかく美しく、サムライの時代が終わりつつあるからこその“西洋文化”も取り入れられている世界観はそれだけで魅力的です。製作が“多国籍”の体制であり、それが見事な“化学反応”を起こしている……これこそが、本作が(一風変わったクセの強い作品であると同時に)極上の時代劇エンターテインメントとして成功した大きな理由なのです。



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5:エンドロールに抱く感情は唯一無二?


本作は前述した通り、「行きはマラソン 帰りは戦(いくさ)」「マラソンしていただけなのに人が死にまくる」という内容です。このとんでもない物語の顛末がどうなるのか……ということはもちろんネタバレになるので書けないのですが、エンドロールで示される“あること”とのギャップがあるということはお伝えしておきましょう。

このエンドロールでは、「あの…意図も志(こころざし)もよくわかるんですけど、なんていうか…その、あの、複雑だよ!」な感じの、言語化が不可能なモニョモニョとした気持ちにならざるを得ませんでした。

しかしながら、この「エンドロールでモニョる」というのも本作の味わい深さを一段と増している、良い意味で唯一無二の映画体験になっていると断言します。現在も行われているマラソンに対して、より一層の興味、参加意欲が芽生えるかもしれませんよ?(疑問形)

ちょっと真面目に語るのであれば、『サムライマラソン』はシニカルなブラックコメディにも思える物語(およびラストとエンドロール)を通じて、サムライという古来の制度の理不尽さや欺瞞を描き、相対的に今の平和な世の中がいかに幸せか(限定的に言えば平和にマラソンという行事が行えることの喜び)を訴えている、やはり志も存分に高い映画とも言えるでしょう。

また、原作小説『幕末まらそん侍』を読んでみたところ、マラソンの規則が明確に書かれていている他、策略の思惑がより詳細にわかるようになるなど、より深く楽しむことができるようになっていました。同時に、映画では物語が上手く換骨奪胎され、構成も巧みに変えられているなど、映像作品として面白くするための工夫も随所にあったことに感服しました。映画の後に、ぜひ読んでみることをおすすめします。


おまけ:『引っ越し大名!』と、この最新ブラックコメディ映画も要チェック!


実は、『超高速!参勤交代』で脚本を手がけ、『マラソンサムライ』の原作小説の作者である土橋章宏による最新作が、2019年8月30日に早くも公開予定となっています。それは、『ジョゼと虎と魚たち』の犬童一心が監督を務め、星野源、高橋一生、高畑充希、濱田岳、小澤征悦、西村まさ彦、松重豊と、これまた豪華俳優陣が結集している『引っ越し大名!』です。(原作小説のタイトルは「引っ越し大名三千里」)



ⓒ2019「引っ越し大名!」製作委員会


前述した通り、『超高速!参勤交代』と『マラソンサムライ』は、比較をすると似たような滑稽さがありながら、作品のトーンはかなり異なっているという面白みもありました。『のぼうの城』で樋口真嗣監督と共同で時代劇を手がけていた犬童一心監督の“作家性”が、こちらではどのように生かされているのか……星野源が“気弱でコミュ障に見えながらも持ち前の知恵を生かして成長していく”という役に扮しているということも含め、楽しみに公開を待ちたいと思います。

最後に、『サムライマラソン』と同等かそれ以上に、「この話を考えたやつ絶対に性格が悪いだろ!」と言いたくなる(褒めています)ブラックコメディ映画も劇場公開されますので、合わせて紹介しておきます。

1.『女王陛下のお気に入り』(公開中)




(C)2018 Twentieth Century Fox


『ラ・ラ・ランド』とエマ・ストーンと『ナイロビの蜂』のレイチェル・ワイズの豪華共演による、18世紀初頭にフランスと戦争状態にあったイギリス王室での出来事を描いた伝記映画……なのですが、その2人の女性による「女王のお気に入りになろうとする策略」がゲスの極み! 権力争いがエスカレートしていく様はとにかく浅ましく、最後まで“ほくそ笑む”ことができるでしょう。『ロブスター』や『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』でも悪趣味なユーモアを散りばめていた(褒めています)ヨルゴス・ランティモス監督の作家性も全開でした。権威ある賞を数多く受賞し、第91回アカデミー賞では9部門最多10ノミネートなど絶賛で迎えられていますので、ぜひ劇場でこの醜いバトルを見届けてほしいです。

2.『シンプル・フェイバー』(3月8日公開)




(C)2018 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.


シングルマザーが子どもを預かると、その母親の美女が失踪してしまうというおしゃれなミステリー……であると同時に、実際の印象はかなりブラックコメディ寄り! 『マイレージ、マイライフ』のアナ・ケンドリックが地味な役かと思いきやどんどん垢抜けていき、『ロスト・バケーション』のブレイク・ライブリーが…(ネタバレになるので何も言えない!)…になっていくのが恐ろしくも愉快で仕方がありませんでした。悪趣味なギャグ込みで女性が大活躍するという内容には『ゴーストバスターズ』(2016年のリメイク版)のポール・フェイグ監督らしさを感じられるでしょう。原作小説の発売を待たずに映画化が決定したことも納得の面白さで、「意地の悪い話が大好き!」という方はきっと大満足できますよ

(文:ヒナタカ)

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