俳優・映画人コラム

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2017年03月03日

大竹しのぶは名作『事件』で、何と日本アカデミー賞主演&助演女優賞の両方を受賞していた!

大竹しのぶは名作『事件』で、何と日本アカデミー賞主演&助演女優賞の両方を受賞していた!

■「キネマニア共和国」

後妻業の女


(C)2016「後妻業の女」製作委員会


3月3日、第40回日本アカデミー賞授賞式が開催されます。既にさまざまな国内映画賞の結果が発表され続けていますが、だいたい日本アカデミー賞の結果発表で、その年度の主な賞レースは一区切りといった印象があります(あとは日本映画プロフェッショナル大賞くらいかな?)

個人的に日本アカデミー賞授賞式のTV中継は、最近はともかくとして、その初期の頃は割かし見ていました。

映画人の姿を見られる機会が、当時はそうそうなかったからです。

俳優にしましても“映画”ということで壇上に登り挨拶をする姿は、通常のテレビドラマとは違う空気を感じたりしていたものです。

そんな中、1978年度の第2回授賞式がひときわ印象的に残っています……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.208》

若き日の大竹しのぶさんが、野村芳太郎監督作品『事件』で、何と主演&助演女優賞をW受賞したからです。

主演でもあり助演でもあり、どちらもトップの評価を得た天才




(C) 1977 松竹株式会社


野村芳太郎監督作品『事件』は、スナック「カトレア」の若きママ・ハツ子(松坂慶子)が殺害された事件で、犯人として逮捕された年下の恋人・宏(永島敏行)の裁判を通して、人間の業を描いた社会派問題作です。

裁判ではさまざまな証人がふたりの関係性や生い立ちなどを語るとともに、回想形式を採りながら事件の真相に迫っていきます。

そんな中、やがてハツ子とその妹ヨシ子(大竹しのぶ)の、宏をめぐっての愛の確執が明らかになっていきます。

姉と妹は、同じ男を愛していたのでした……。

『事件』は第2回アカデミー賞の作品・監督・脚本(新藤兼人)・主演女優・助演女優・助演男優(渡瀬恒彦)・技術(撮影/川又昂)賞を受賞しましたが、やはり不思議なのは、この主演&助演賞を同じ作品で、同じ女優がW受賞していることでしょう。

これは『事件』の大竹しのぶを主演とみなすか助演とみなすかで票が割れたことを意味しているのですが(実際『事件』は群集劇であり、主人公を断定できないところにも面白さのある映画でした)、ノミネートされた後の最優秀賞を決める投票(日本アカデミー賞は第3回までノミネート方式。第4回以降は優秀賞を決めて、そこから最優秀賞を選出する方式に変わりました)普通は主演か助演のどちらかに偏りそうなものですが、要は彼女を主演と思う人の中でもトップ、助演と思う人の中でもトップになったわけです。
(もっとも助演女優賞のほうは、森谷司郎監督『聖職の碑』も対象作品に含まれています。もちろん、こちらの彼女も好演していました)

私はちょうどTVで授賞式を見ていましたが、最初助演女優賞受賞の報を受けたときは素直に喜んでいた大竹しのぶが、しばらく経って主演女優賞まで受賞した際の、嬉しいけど困ってもいるような、喜んでいいのかどうかすら自分でわからなくなっている戸惑いの表情が今なお忘れられません。

テレビと映画、双方の『事件』で同じ役を演じ分けた奇跡


もともと大竹しのぶはデビューして間もない時期から、既に《天才女優》と呼ばれていました。

1973年にテレビ・ドラマ「ボクは女学生」で主演・北公次の相手役として芸能界デビューした彼女は、75年のNHK朝のテレビ小説「水色の時」ヒロインに抜擢されてお茶の間の顔になるとともに、同年、五木寛之原作・浦山桐郎監督の青春大河映画『青春の門』で薄幸の少女・織江を演じ、これが高く評価されていきます。
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77年には『青春の門 自立篇』でさらに女優として成長した存在感を示すとともに、斎藤耕一監督の松竹映画『季節風』にも助演。

こうした功績が評価されて、77年末に公開されたシリーズ20作『男はつらいよ 寅次郎頑張れ!』では、中村雅俊とともに恋人役で出演し、初々しくも可憐な印象を数多くの寅さんファンにも残してくれました。


(C)1978 松竹株式会社


そして実は彼女、何と78年にNHK《ドラマ人間模様シリーズ》「事件」で映画版と同じ妹役を熱演していたのです(こちらは若山富三郎扮する弁護士を主人公にしたもので、後にシリーズ化されました)。

要するに、『事件』は同じ年にテレビドラマ(4月9日~4月30日の全4回)が作られ、その後映画化(6月3日公開)され、どちらにも大竹しのぶが同じ役で出演していた。

つまり、それだけ彼女は『事件』という作品における象徴的存在でもあったわけです。

大竹しのぶのTV&映画『事件』における熱演は、もう「百聞は一見にしかず」としかいいようのないもので、また双方のテーマに応じて微妙に演技のスタンスを変えているあたりもお見事としか言いようがなく、この時点で彼女を「天才女優」と讃える声が完全に定着したといっても過言ではありません。

あれから数十年の月日が経ち、大竹しのぶも今や大ベテラン女優として日本の映画演劇界に君臨し続けているわけですが、その天才としての演技も存在感も何らすたれることなく、むしろ迫力を増してきていると言ってもいいかもしれません。

ここらでまた映画のほうでも、これぞ天才女優! の器に見合った企画とめぐりあっていただきたいものです。

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(文:増當竜也)

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