映画「スモーク」を彩る人々(後篇)

■「役に立たない映画の話」

スモーク 03

(c) 1995 Miramax/N.D.F./Euro Space

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231日間のロングランで興収1億4400万余円を計上。

恵比寿ガーデンシネマ1(232席)で公開された「スモーク」は、初日だけで入場者数1009名、興行収入164万6200円、オープニング4日間で3623名、590万5400円と、好調な出足を見せる。

公開当時発行されたプレスリリースでは「客層はオープニング作品『ショート・カッツ』に似て幅広く、各時間帯ごとの的確な動員に成功している。平日の動員は『ショート・カッツ』よりも強く、一週目の興収としては7日間で900万円が予想され、ロングランが見込まれている。『都会のファンタジー』という訴求が功を奏し、男女比は35:65。マスコミの評価も高く、アメリカではアカデミー賞へのノミネートが確実視されている」としている。

第1週入場者数は5333名、興収860万4100円とリリースにあった900万円には及ばなかったが、2週目に入った10月14日には1038名、171万1900円と初日を上回る勢いを見せている。

このヒットに対して、製作総指揮を務めた井関惺は、次のようにコメントしている。
「当時のガーデンシネマは、自由定員制、つまり座席の分しかチケットを売らない、お立ち見なしというやり方を採用していました。初日から10週間の稼働率が90パーセント。当初は232席のガーデンシネマ1で上映され、その後116席のガーデンシネマ2に移ったのですが、ガーデンシネマ1の次の上映作品の入りが思わしくなく、『スモーク』が再びガーデンシネマ1で上映されることもありました」。

恵比寿ガーデンシネマの「スモーク」上映は年を越えて1996年3月29日まで続き、さらに4月13日から6月7日までモーニング上映として続映され、計175日間+56日間(モーニング)で入場者数8万9146名、興収1億4440万1300円を記録した。

この成績は96年の単館興行作品中3番目にあたるものだが、2番目にはアメリカでミラマックスが配給し、ヒットした「イル・ポスティーノ」(ブエナ・ビスタ配給/シャンテシネ1/96年5月28日~9月27日/入場者数9万5227名、興収1億4800万3500円)があった。

メイキングの予定だった「ブルー・イン・ザ・フェイス」。

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「スモーク」のヒットに続いて、その続篇的存在の「ブルー・イン・ザ・フェイス」が96年3月2日から、同じく恵比寿ガーデンシネマで公開された。

「『ブルー・イン・ザ・フェイス』は、本来『スモーク』のメイキングとしてスタートしたんです。『スモーク』のためにポール・オースターが書いたシナリオは全部で3時間分ぐらいあり、いくつかのエピソードをカットしましたが、面白いものもあったんですよ。それで『スモーク』の撮影が終わってから、まだあの煙草店が3日間借りられる。ポール・オースターとウェイン・ワンが共同で監督してメイキングを作ろうとしたら、それを聞いたミラマックスが“もったいない”と。ただし製作費はもうない。『スモーク』ですべて使ってしまったからね。それで5日間の追加撮影をすることにして、後のことはミラマックスに任せたら、マドンナを呼んできたり、ああいう作品になったわけです」(井関)。

幻の「クローム・ドラゴン・プロジェクト」。

またウェイン・ワンとフランシス・フォード・コッポラ、ふたりの監督が手を組むプロジェクトも、この時期存在した。

「ウェイン・ワン監督とフランシス・フォード・コッポラ監督がタッグを組んで、複数の作品を作ろうとした『クローム・ドラゴン・プロジェクト』という試みが1997年頃、日本ビクターが出資して企画されます。ですがコッポラは名前を貸しただけのようで、実際には何も作品を作らずに立ち消えになりました。この頃日本ビクターに在籍し、『クローム・ドラゴン・プロジェクト』の仕事をしていた木藤幸江さんは、その後もワン監督と交流を続け、今年2月に公開された彼の『女が眠る時』でプロデューサーを務めています」(井関)。

新しい時代、新しい観客に向けたデジタルリマスター版。

スモーク 02

(c) 1995 Miramax/N.D.F./Euro Space

 ユーロスペースの堀越謙三社長から紹介されたウェイン・ワン監督のために、映画製作を決意した井関惺。

ワン監督のオファーに応じてシナリオを執筆したポール・オースター。

紆余曲折を経て決定したハーヴェイ・カイテル、ウィリアム・ハートら絶妙な出演者たち。

そして編集時における、ハーヴェイ・ “シザーハンズ”ワインスタインとの激しい戦い。

ベルリン映画祭での銀獅子賞受賞。

日本でのヒットと若い女性宣伝プロデューサーの奮闘。

番外編「ブルー・イン・ザ・フェイス」の製作、幻の「クローム・ドラゴン・プロジェクト」とそれに関わった女性スタッフとワン監督の交流を経て実現した「女が眠る時」に至るまで、すべてのエピソードは「スモーク」という1本の映画がきっかけであった。

「スモーク/デジタルリマスター版」は、12月17日からYEBISU GARDEN CINEMAで公開される。

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(取材・文:斉藤守彦)

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    ライタープロフィール

    斉藤守彦

    斉藤守彦

    斉藤守彦(さいとうもりひこ) Morihiko Saitoh 静岡県浜松市出身。映画館、ビデオ会社でのアルバイトを経て、映画業界紙「東京通信」記者 (後に編集長)に。1996年からフリーの映画ジャーナリスト/アナリストとなり、以後多数の劇場用パンフレット、「キネマ旬報」「HiVi」「ザテレビジョン」「日経エンタテインメント!」「宇宙船」「スターログ日本版」「INVITATION」「東京カレンダー」「アニメ!アニメ!」「フィナンシャル・ジャパン」「Pen」などの雑誌・ウェブメディアに寄稿。2007年秋に「日本映画、崩壊 -邦画バブルはこうして終わる-」を、08 年「宮崎アニメは、なぜ当たる -スピルバーグを超えた理由-」、09 年「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」、 10 年に「『踊る大捜査線』は日本映画の何を変えたのか」(共著) を上梓。 他の著書に「図解でわかるコンテンツ・ビジネス」1〜4(共著)、「ソノラマ MOOK/ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」(構成・執筆) 、電子書籍「日本映画、飛躍と困惑の過去・現在・未来」等があり、ここ数年は「映画宣伝ミラクルワールド」「80年代映画館物語」と、独自の視点による書籍を執筆。2016年3月には新作「映画を知るための教科書 1912−1979」が世に出る。現在、水道橋博士編集長のメールマガジン「メルマ旬報」で「2016年映画館物語」を連載中。また「BOOKSTAND映画部!」で、「映画を待つ間に読んだ、映画の本」と「映画惹句は、言葉のサラダ」の2つの連載を行っている。

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