『タロウのバカ』今年最大の問題作に隠された「3つ」の見どころ!

©2019「タロウのバカ」製作委員会

若手人気俳優の菅田将暉、仲野太賀、更に本作が俳優デビューとなるモデルのYOSHIの3人が競演する話題作『タロウのバカ』が、いよいよ9月6日から劇場公開された。

その非常にシンプルなタイトルと、3人の登場人物が並んだポスターのビジュアルからは、青春ドラマの雰囲気が強く感じられる本作だが、実は内容的にかなりの問題作に仕上がっているとのこと。

気になるその内容と出来は、果たしてどのようなものだったのか?

©2019「タロウのバカ」製作委員会

予告編

ストーリー

主人公の少年タロウ(YOSHI)には名前がない。戸籍すらなく、一度も学校に通ったことがない。
そんな”何者でもない”タロウには、エージ(菅田将暉)、スギオ(仲野太賀)という高校生の仲間がいる。
エージとスギオは、それぞれ”やるせない悩み”を抱えているが、なぜかタロウとつるんでいる時は、心を解き放たれる。
大きな川が流れ、頭上を高速道路が走る、空虚なほどだだっ広い街を3人はあてもなく走り回り、その奔放な日々に自由を感じていた。しかし、偶然手にした一丁の拳銃をきっかけに、彼らはそれまで目を背けていた過酷な現実に向き合うことになる…。

見どころ1:本作で俳優デビューを飾る、YOSHIの存在感が凄い!

タイトルにも登場する、本作の重要なキャラクター”タロウ”を演じるのは、これが俳優デビューとなるモデルのYOSHI。

戸籍が無く、自分の名前すら分からない少年という難しい役柄を、16歳という年齢ながら見事に演じて鮮烈なデビューを飾った彼の存在こそ、本作最大の見どころであり日本映画界にとっての収穫と言っていい。

役者が演じていることを忘れさせ、正にタロウそのものがそこに存在している! そう観客に思わせる彼の強烈な存在感は、これからの日本映画界の希望であり、彼が次にどういう役を演じるのか? について、早くも観客に期待を持たせてくれるからだ。

©2019「タロウのバカ」製作委員会

母親からも愛されず、誰からも教育を受けられなかったタロウは、野良犬が子犬から成犬へと成長するかのように、本能や衝動のままに行動して周囲と衝突し傷つけながら学習し、自分の力で成長しなければならない。

その過程で、助けや教えを乞うべき存在や人生の助言を与えてくれる人々が周囲にいない彼の境遇は、一見自由奔放で好き勝手に生きているように見えるが、実は同時に想像を超える恐怖や不安と闘いながら生きていることが、次第に観客にも分かってくるのだ。

そんな中、心を通わせていたダウン症の藍子や勇生に見せるタロウの悲しみや優しさが描かれることで、次第にタロウを生み出した社会の問題や、彼らが社会から押し出されてしまう理由について観客も考えさせられるのだが、ここでもYOSHIの存在感は映画に抜群の説得力を与えている。

まるでタロウがそこに存在するかのような、YOSHIの鮮烈なデビューは、是非劇場で!

見どころ2:タイトルに隠された意味が深い!

本作で描かれるのは、社会や学校からドロップアウトして、次第に追い詰められていく3人の若者の姿。

中でも中心人物のタロウは、名前や戸籍を持たず、学校にさえ一度も通ったことがない少年として登場する。

タロウが実の母親にさえ全く関心を持ってもらえないことは、少ない彼の家庭描写からもよく分かるのだが、彼の衝動的な行動の理由の一つが、大声で叫んでも自分を見ようともしない母親の注意を引くためであることが、次第に観客にも分かってくることになる。

思えば人の”名前”とは、生まれて初めて親から子供に与えられる愛情の証であり、その名前によって個人の存在が認識され、個性や生き方にも影響を与える重要なもの。

その呼び名すらなかったタロウに名前を付けたのはエージであり、いわばタロウにとってエージは生きる意味を与えてくれた”名付け親”とも言えるのだ。

©2019「タロウのバカ」製作委員会

実の母親に名前を付けてもらえず、その名を呼ばれずに育ったという環境の過酷さ・壮絶さは想像を絶するものに違いない。

何故なら、タロウは物を知らない代わりに偏見や先入観も持たない存在であり、そこにあるのは純粋な好奇心と知識欲に他ならない。人が死ぬということ、人を愛するという感情すら知らない彼にとって、周囲の人々の持つ常識が堅苦しい”檻”や”足かせ”のように感じられたとしても、なんら不思議はない。

そんなエージもまたスポーツ推薦で高校に入学したが、膝を壊して柔道を辞めてしまったため、顧問の先生や大学で柔道を続けている兄から偏見と失望の目でみられている。そんな彼だからこそ、社会のレッテルから離れて自由に行動するタロウに興味を抱いたのではないだろうか。

3人の中で一番理性的で社会的良識を持っているスギオは、すでに戻るべき場所や社会との接点を失っている二人とは違い、ギリギリのところで社会とのボーダーラインを保っているように見える。

そのボーダーラインの象徴として登場するのが、二人との関係が与える悪影響を心配し、スギオを仲間から抜けさせようとする彼の父親の存在だ。

実はこの”子供と向き合おうとする親”の存在こそ、タロウとエージに足りなかったものであり、それだけにスギオが父親よりも二人との絆を最終的に選ぶ展開が、彼の最後の一線を飛び越える瞬間として非常に深い意味を持つことになるのだ。

©2019「タロウのバカ」製作委員会

そんな彼らが半グレ集団のボスである吉岡から偶然手に入れた一丁の拳銃が、彼らのパワーバランスを崩し、やがて破滅へと導くことになる。

『タロウのバカ』というシンプルだが挑戦的なタイトルからは、”バカ”という言葉が一度も学校に通ったことのない主人公タロウの行動や性格を指すように思えるかもしれない。

だが、タロウの存在は相手の内面を映しだす一種の鏡のようなものであり、人が死ぬということ、人を愛するという感情すら知らない彼が、それがどういうものなのか分からないので知りたい、誰か教えてくれ、そう苦しんでいるように見える。

本編中にもタロウが公園で女性に話しかける印象的なシーンがあるが、最初は穏やかに話しかけていたタロウが、自分が常識と思っていたことに共感してもらえず、相手から拒否・拒絶される恐怖から声を荒げて狂暴な行動に出るまでの変化は、演じるYOSHIの好演もあって、彼が今まで味わってきた孤独や疎外感を表現する名シーンとなっていて必見!

親から何も教わっていない無知ゆえの純粋さに気付かず、彼の存在を見て見ないふりをしてきた周囲や社会の人々の”無関心”こそ”バカ”なのではないか?

この映画は、そう観客に問いかけてくるのだ。

果たしてタロウはタイトルの通り”バカ”なのか、それとも愛に飢えた悲しい犠牲者なのか?

タイトルに込められた意味について、是非ご自分なりの答えを見つけて頂ければと思う。

見どころ3:R15指定を受けた、攻めた演出・内容が凄い!

最近のコンプライアンス問題や、攻めた表現に対する自粛傾向の流れの中で、よくぞこの内容に挑戦した! との思いが強かった本作。

残念ながら今回はR15指定となったが、その理由は残酷過ぎる描写や過激な性表現ではなく、現代が抱える問題を描くために避けては通れない部分に対し、正面から向き合おうとした結果のように思える。

例えば本編中では、タロウが家庭内で母親から育児放棄や精神的虐待を受けていることが描かれるが、親から他者とのコミュニケーションを学べなかった彼にとって、外界に出て他者と交流することは不安や恐怖、そして試行錯誤の連続だったであろうことは想像に難くない。

そんなタロウに声をかけてくれたエージこそ、外見や学力・社会的地位といった部分ではない、タロウという個人そのものに興味を持って迎えてくれた唯一の存在だったのではないだろうか。

©2019「タロウのバカ」製作委員会

更に、他者を思いやる心の余裕さえ持てず、すでに自分一人が生きるのに精一杯というところまで行き着いた現代社会の姿は、映画冒頭のシーンで奥野瑛太演じる吉岡が、金を払って障がいを持つ家族の世話を他人に丸投げする人々への不満を吐き捨てるセリフにも象徴されており、それはまるで未来への希望や人間関係への信頼を打ち砕くかのように思える。

このように、決して現実の問題から目を逸らさず、安易なハッピーエンドを拒否する姿勢が素晴らし過ぎる本作。

それだけに、タロウたち3人と見事な対比を見せる重要なキャラクターとして、実際にダウン症のある男女をキャスティングした勇気ある決断に対しては賛否が分かれると思うが、映画冒頭の衝撃的なシーンと合わせて、製作側の真摯な意図と強いメッセージをきっと感じ取って頂けるはずだ。

特にダウン症の藍子が劇中で歌う印象的な歌「あいこでしょ」は、鑑賞後にいつまでも観客の耳に残る素晴らしさなので、是非お見逃しなく!

最後に

すでに多くの方が、「これこそ今年最大の問題作!」との感想をネット上にアップしている本作。

正直、決して万人に受け入れられる作品とは言えないが、注目の若手演技派俳優たちの素晴らしい演技と、攻めた演出の裏に隠された重要なテーマには、R15指定ながら一人でも多くの観客にこの世界を体験してもらいたい、そう思わずにはいられなかった。

エージに対する部活顧問の先生や仲間の態度が象徴するように、一度周囲の期待を裏切って評価が定まってしまったら、そこから抜け出すことは難しいということや、冒頭のシーンやタロウの母親に象徴されるように、家族や肉親という最も身近な人間関係の崩壊と、他者への無関心が現代社会の問題の奥底にあるというテーマは、絶対に今描かなければならないものであり、常にスクリーン上に漂う緊張感と、次第にその色を濃くしていく”死の影”は、まるで観客側に真剣勝負を挑んでくるかのような迫力に満ちている。

少し前なら、タロウのキャラクターは現実にはあり得ない架空の存在として受け取られたに違いない。

だが、連日のニュース報道で目にする児童虐待や育児放棄、そして社会から孤立した者が引き起こす周囲を巻き込んだ大事件に慣れた現代では、タロウの存在が非常にリアルなものとして認識されるのも事実。

多くの観客が楽しめるエンタメ作品とは大きく異なるが、同じ菅田将暉の出演作『ディストラクション・ベイビーズ』にハマった方は、きっと心に感じるものがある作品なので、全力でオススメします!

(文:滝口アキラ)

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    ライタープロフィール

    滝口アキラ

    滝口アキラ

    滝口アキラ 映画ライターにしてブルース・リー研究家。主な著書に、「ブルースリー超全集」「俺たちのジャッキーチェン」「俺たちの007」などがある。映画のコミカライズや、日本オリジナル映画主題歌などの、「失われた映画カルチャー」にも造詣が深く、TBSラジオ「ウイークエンドシャッフル」へのゲスト出演、今関あきよし監督作品への声優出演、更には「実際に映画に出演する映画ライター」として、現在「毎月1本必ず映画に出る」をノルマに活動中。その抜群の企画力と、交友関係の広さには定評がある。

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