『TUNAガール』は『トクサツガガガ』小芝風花ファン必見の“映画”だ!

(C)吉本興業/NTTぷらら

2019年の初頭を大いに賑わせてくれたテレビドラマとして、NHKで1月から3月にかけて放映された『トクサツガガガ』が挙げられます。

特撮オタクであることを隠しつつ、健気に特撮道を邁進してくヒロイン叶(小芝風花)とその友人たちの日常に、日本中のオタク=何かの事象に熱いこだわりを持ちながら生きている人々は大いに共感し、励まされたものでした。

3月には「遊び心あふれる上質なエンタメ」として月間ギャラクシー賞テレビ部門を受賞し、4月には早くも一挙再放送がなされたこの作品、主演の小芝風花にとっても大きなステップアップになったことと思われます。

しかし『トクサツガガガ』の直前に彼女が主演した『TUNAガール』というスペシャルドラマが、現在「ひかりTVチャンネル+」および吉本興業が提供する「大阪チャンネル」で配信されていることをご存知でしょうか?

実はこの作品こそは……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街378》

『トクサツガガガ』に至る小芝風花のオタク道(?)を開花させた先駆的“映画”なのでした!

やる気なしの女の子が
マグロオタクに!

『TUNAガール』のTUNAとはツナ、つまりマグロのことです。

そう、本作はクロマグロの完全養殖に成功した和歌山県の近畿大学水産研究所を舞台に繰り広げられる、ウェルメイドな青春群像劇なのです。

近畿大学農学部水産学科3回生の美波(小芝風花)は、春から夏までの半年間、研究合宿のために研究所を訪れます。

もっとも彼女はマグロなどにはほとんど興味ない様子で、研究に身を入れる気もなく、そのせいもあってかやることなすこと失敗ばかり。
(おそらくは将来の目標とか特にないまま近大を受験し、合格したって感じなのでしょうね……)

しかし、研究熱心な他の同級生たちのひたむきさに触れ、それぞれの悩みを聞いていくうちに、もともとポジティヴ・シンキングな美波も感化され、次第にやる気を出していくのですが……。

簡単に言ってしまえば、本作はマグロに興味なかった女の子がだんだんマグロ・オタクになっていく過程を微笑ましくも繊細に、そしてさわやかに描いた青春“映画”で、およそ1時間半の流れの中でヒロインの表情が次第に生き生きと変わっていくのを目の当たりにしながら、ここでの経験が続く『トクサツガガガ』の演技にも活かされていったのだなあと、非常に納得できるものがあるのです。

つまり『TUNAガール』がなければ『トクサツガガガ』の成功もありえなかった!

また内容も、養殖に対して「天然ものではないんでしょ?」みたいな巷のマイナスイメージを覆すものが大いにあり、マグロを完全養殖させるに至った人間の叡智といったものまで、決して大仰ではなくごく自然に感じさせてくれます。
(教授役の星田英利が実に良い味出してくれています)

(C)吉本興業/NTTぷらら

本作の安田真奈監督は“リサーチ大好き監督”として自作の対象への探求心を怠らないことで知られていますが、本作でもマグロ養殖について徹底的に調べ上げ、それが高じてか、本作と並行して『海を耕す者たち~近代マグロの歴史と未来』なるドキュメンタリーも監督しています(こちらも『TUNAガール』と共に現在配信中)。

また、そもそも対象に向けて限りなくヒューマニスティックかつ微笑ましい愛情を注ぐことでも知られる安田監督のキャメラ・アイは、養殖の研究に従事る人々へのリスペクトも醸し出しつつ、やがてはその一員となっていくのであろう若者たちへの期待のエールも送り得ているのです。

(C)吉本興業/NTTぷらら

ドラマか? 映画か?
ネット作品の未来やいかに

さて、現在配信中の『TUNAガール』ですが、これまで幾度か“映画”と記させていただきました。

それは安田監督自身、この作品をあくまでも“映画”とみなして作りあげているからです。
(私、直接ご本人からうかがいました)

ネット配信技術の進化により、現在多くの作品が配信されるようになっていますが、それはドラマなのか映画なのかという点で、世界各地の国際映画祭やアカデミー賞など多くの場で議論となっています。

スティーヴン・スピルバーグ監督は「ネット作品はアカデミー賞(映画賞)ではなく、エミー賞(テレビ賞)の対象とするべきだ」と唱えました(その彼が若き日に撮ったテレビ・ムービー『激突』は、まさに映画そのものであると評価されたことで、現在の栄光へ至るのですけどね)。

もっとも、そのとき議論の的として採り上げられたアルフォンソ・キュアロン監督のネット配信作品『ROMA/ローマ』は、ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞やアカデミー賞監督賞&撮影賞などを受賞。

さらにこの作品、日本では劇場公開され、多くの観客から「これは“映画”そのものだ!」と高く評価されました。

要するに、作る側がそれを銀幕に映すことを主目的とする映画とみなして作るのか、テレビモニターを意識して家庭内で楽しむテレビドラマと思って作るのか、PCやスマホの小さな画面でも楽しめるネット映像のフットワークを生かしたネットドラマとして取り組むのか、どれが上でどれが下といったことではなく、あくまでも作る側の意識によって大きく変わるものなのかもしれません。

『TUNAガール』に関して言えば、安田監督はスマホでもテレビでも楽しめて、その上で映画館の大画面に十分映える“映画”をめざして演出しているのが一目瞭然です。

引きの画や長回しなどを駆使しつつ、多少画面が小さくなってもそこに映し出される俳優の魅力が損なわれることがないよう常に腐心している演出姿勢は、この監督ならではの美徳でしょう。

これからもネット配信作品はますます増加していくものと思われますが、そういった作品を劇場公開できる間口の広さも映画界には求めたいもの。
(それこそスピルバーグの『激突』も、日本では劇場公開されているのですから!)

少なくとも、マグロ相手に奮闘(?)する『TUNAガール』の小芝風花ちゃんを銀幕の大画面で見たいと思う『トクサツガガガ』ファンは、私だけではないはずです!

(文:増當竜也)

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    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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