仲代達矢84歳、『海辺のリア』主演しました!

■「キネマニア共和国」

(C)「海辺のリア」製作委員会

日本国内で映画ファンを自認する人の中で、仲代達矢を知らない人など恐らくは誰もいないでしょう。

日本の映画演劇界を半世紀以上にわたってリードし続けてきた名優も、現在84歳。

しかしながら、演技に対する意欲は衰えるどころか、ますます盛んであり、今年また彼の最新主演映画『海辺のリア』が作られました……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.237》

海辺で繰り広げられていくシェークスピア劇『リア王』の現代版、これこそ人生のキャリアを誇る名優にしか成し得ない貫録とみずみずしい力強さにあふれた、まさに奇跡のような名演に圧倒される作品です!

シェークスピア劇の現代版を
海辺を観客に見たてて再現!

『海辺のリア』の主人公は、かつて一世を風靡した映画スター、しかし今は認知症の疑いで、長女ら(原田美枝子、阿部寛、小林薫)の企みで老人ホームに送り込まれてしまった桑畑兆吉(仲代達矢)です。

その彼が、老人ホームを抜け出して、海辺をさまようところから、この映画は始まります。

シルクのパジャマ姿にコートを羽織り、スーツケースをひきずって、一体彼はどこへ行こうとしているのか?

まもなくして長吉は、次女(黒木華)と再会します。

彼女は妻とは別の女の間にできた娘ですが、成長して私生児を産んだことから、家を追い出されていました。

次女に『リア王』のコーディーリアの幻影を見た兆吉は、次第に自分がリア王であるかのような狂気に囚われ、やがて演じ始めていくのです……。

本作の最大の魅力は、やはり何と言っても仲代達矢84歳の名優としての圧倒的存在感と、それに裏打ちされた見事な演技、これにつきます。

まずは前半、すっかり呆けてしまった主人公に次女が激しくぶつかっていくシーンに圧倒されますが、それを経ての中盤、あたかも海辺を観客にみたてるかのように主人公が繰り広げていく『リア王』の芝居は、もうこれを見ているだけで今年の映画観賞はOKなのではないかというくらいのカタルシスをもたらしてくれています。

ユニークなのは、主人公は本当に認知症なのか、それとも認知症を演じているのかが次第にあやふやになっていくところで、そのあたりも名優ならではの妙味といえるでしょう。

(C)「海辺のリア」製作委員会

名優がすっぴんで挑んだ
二度目の『リア王』

仲代達矢自身、舞台でシェークスピア劇には幾度も取り組んできていますが、実は未だに『リア王』だけは演じたことがありません。

それは、映画で『リア王』を黒澤明監督が翻案時代劇として描いた超大作『乱』(85)に主演し、そのインパクトゆえに、舞台でやる気にはまだなれないのだそうです。

しかし今回は、仲代達矢と『春との旅』(10)『日本の悲劇』(12)でコンビを組んだ小林政広監督の意を受けて、再び映画の中でリア王を演じてみようという気に自然となれたとのこと。

また『乱』はほとんど本人と見分けがつかないほどの濃いメイクだったのに対し、今回はスッピンで海辺に立ち、延々とリア王の長台詞を唱え続けていく姿からは、生身の役者・仲代達矢としての魅力が引き立つ結果にもなっています。

正直、これはストーリーやドラマ性などがどうこうといった類の作品ではなく、ただただ仲代達矢という名優の素晴らしさを再確認するための映画といっても過言ではありませんし、またそのために原田美枝子をはじめとするキャストたちも進んで共演を果たしているように思えます。

黒澤明や小林正樹、木下惠介、成瀬己喜男、市川崑、岡本喜八、五社英雄などなど、錚々たる名監督たちと組んで映画史上に残る名作に出演し続けてきた仲代達矢。

これは、そんな彼をリスペクトするための映画であり、観客もまたその意思をもって接するべきでしょう。

もっとも、こういった大仰な物言いなどどこへやら、現実の仲代達矢は今も自身が主宰する無名塾で若手俳優たちの育成に熱意をもって取り組んでいるかと思うと、今年から「仲代達矢84歳、ツイッターはじめました」のアカウントでツイッターを始めるなど、飄々とした姿勢ながらも意欲的に新しいことにチェレンジしています。そして今はギターを習って、みんなでリサイタルをやりたいのだとか!

老いてかくありたい。誰もがそう思うであろう名優の名優による名優ならではの最新主演映画『海辺のリア』、ぜひ大きなスクリーンで堪能してください。

そして、次は舞台で仲代達矢主演『リア王』を見てみたい。そんな気にさせられることも必定でしょう。

■「キネマニア共和国」の連載をもっと読みたい方は、こちら

(文:増當竜也)


    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

    ピックアップ

    関連記事

    新着記事

    WP Facebook Auto Publish Powered By : XYZScripts.com