国産インディーズ映画の未来を示唆する意欲的ファンタジー大作『ユートピア』

(C) UTOPIA TALC 2018 

デジタル技術の発展とともに誰でも映画を撮れる時代が到来し、それとともにインディーズ映画界もすこぶる盛況を呈するようになって久しいものがありますが、こと特撮などを駆使したSFやファンタジー作品に関しては、どうしても製作費や日数などの問題もあり、なかなかうまく発展しないまま現在に至っている感があります。

しかし、今ここにインディーズ映画界だからこそ成し得た、奇蹟的ともいえるファンタジー映画の意欲作が登場したのです!
構想から完成までおよそ10年の月日をかけた(インディーズ映画としては)超大作……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.304》

映画『ユートピア』が4月28日から東京・下北沢トリウッドで堂々公開されます!

機能停止した東京で勃発する
『ハーメルンの笛吹き』事件

映画『ユートピア』の舞台となるのは、真夏の東京です。

ある朝、まみ(松永祐佳)が目を覚ますと、街に雪が降っていました。

同時に、電気や水などのライフラインも途絶してしまいます。

そしてまみの部屋の二段ベッドには、突然謎の少女ベア(ミキ・クラーク)が……⁉

一体どこの国の言葉をしゃべっているのかまったくわからないベアでしたが、まみは彼女に奇妙な愛着を抱き、行動を共にするようになります。

その中で、まみが持っていた古い絵本『ハーメルンの笛吹き』がきっかけで、何とベアは1284年のドイツのハーメルンで笛吹き男にさらわれた130人の子どもたちのひとりだったことがわかります。

まもなくしてベア同様に、かつてさらわれた仲間たちも東京へ集結。

しかも時同じくして、街から少しずつ子どもたちの姿が、笛の音とともに消えていきます。

都市としての機能を停止した東京で、おとぎ話の続きを繰り広げようとしているかのような笛吹き男“マグス”に対して、まみやベアたちは立ち上がるのですが……。

本作は『ハーメルンの笛吹き』を基に、現代の東京でその惨禍が再び始まる危機と、それに立ち向かう少女たちの勇気を描出していく、ダーク・テイストのファンタジー作品です。

今回監督・脚本・VFX・編集を手掛けた伊藤峻太監督は、高校3年生のときに撮ったファンタジックな青春群像劇『虹色★ロケット』(06)が高く評価されて、2007年に下北沢トリウッドでロードショー。

同時期に彼は本作の企画を発案し、2013年に撮影を敢行。VFXにじっくりと時間をかけて、2018年GW、堂々完成させた、いわば執念の作品ともいえるでしょう。

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VFXから言語まで
徹底した独自の世界観の構築

本作を鑑賞しながら特に圧倒させられるのは、実に秀逸な独自の世界観の構築です。

13世紀、ドイツから連れ去られた子どもたちが住む“ユートピア”の描出もさながら、むしろ本作は真夏に雪が降り、都市機能が停止していくことで、どこかしら不可思議な異空間と化していく東京の街の切り取り方が実にお見事です。

もちろんVFXを用いてはいますが、あまりそこに気を囚われないような見せ方に腐心しているあたりも好感が持てます。

またユートピアからやってきた面々が使う言語“ユートピア語”をオリジナルで作り上げているあたりも(ちょっとドイツ語っぽい響きが感じられるのがミソ)、ファンタジーとして徹底した世界観にこだわる作り手の真摯な姿勢として、実に心強いものがあります。

衣装や音響なども可能な限りのこだわりを示しており、「浦島太郎」の童謡の用い方に至っては、なるほどと思わせるものもあります。

ファンタジー映画に一番必要なのは、やはり何といっても世界観の構築なわけですが、こと日本のメジャー作品の場合、予算や時間といった壁にぶちあたってナアナアになってしまうケースも少なくありませんし、逆に割かし余裕があったりするとそれを弄んでしまい、フルに使い切れていないもどかしさを画から感じることもしばしばです。

本作の場合、やはり10年という月日をかけて、粘りに粘って納得のいくものを作り上げていこうという気概が功を奏しているものと思われますし、それを実践できたのもインディーズの強みでしょう。

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ただし10年分の想いが強すぎたか、ややストーリー・テリングの弱さを痛感させられるなど、ぎこちない部分もありますが、そういったものは今後場数をこなしていくことで十分クリアできることでしょう(その意味では、この監督は次は数か月で手早く完成できるような小品を何本か撮るといいような気もします)。

高校時代に『虹色★ロケット』にも主演したヒロイン役の松永祐佳は、卒業後は看護師の道をめざし、現在ナースとして就業中とのことですが、どうしても本作の主演を務めてほしいという伊藤監督らの懇願を受け入れて参加しただけあって、やはりキャメラ・アイのあ・うんの呼吸みたいなものを大いに感じます。

いや、彼女だけでなく、登場するキャラクターすべてになにがしかの想いをこめて撮影しているのが初々しいほどに画面から伝わってきます。

こういった姿勢をいつまでも保持していける限り、こちらも応援し続けていきたくなる、そんな監督の作品なのです。

最後に、本作を製作&配給、そして上映する下北沢トリウッドは、これまでにも新海誠や入江悠などアニメ&実写を問わず、若手気鋭の映画人を多数発掘してきたインディーズ映画界の聖地とも呼ばれる映画館ですが、今回ついにファンタジーという未曽有のジャンルに挑戦したことも特筆しておくべきでしょう。

おそらくはこの作品、こういったジャンルを手掛けてみたいと常々思っている、もしくはこれから映像制作に勤しんでみようかと思っている若い世代などに、大いに刺激と希望と勇気を与えてくれることでしょう。

国産SFファンタジー映画の未来を担う、これからの世代にエールを送る意味においても、ぜひ『ユートピア』をご覧いただければと切に願う次第です。

公開初日から不定期にスタッフ&キャストなどのトークショーなどもありますので、詳細は下記まで。

http://tollywood.jp/next.html

(文:増當竜也)


    ライタープロフィール

    増當竜也

    増當竜也

    増當竜也 Tatsuya Masutou 鹿児島県出身。映画文筆。 朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、フリーの映画文筆業に就く。 取材書に『十五人の黒澤明』(ぴあ刊)、『特撮映画美術監督・井上泰幸』(キネマ旬報社刊)など。 編集書に『40/300 その画、音、人』(佐藤勝・著)『神(ゴジラ)を放った男/映画製作者・田中友幸』(田中文雄・著)『日記』(中井貴一・著)『日記2』(中井貴一・著)『キネ旬ムック/竹中直人の小宇宙』『同/忠臣蔵映画の世界』『同/戦争映画大作戦』(以上、キネマ旬報社刊) その他、パンフレットやBD&DVDライナーノートへの寄稿、取材など多数。 ノヴェライズ執筆に『狐怪談』『君に捧げる初恋』『4400』サードシーズン(以上、竹書房刊) 現在『キネマ旬報』誌に国産アニメーション映画新作すべてのレビューをめざす『戯画日誌』、『衛星劇場プログラムガイド』誌に、毎月オンエアされる松竹映画名作群の見どころなどを紹介する『シネマde温故知新』を連載中。

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