2021年12月09日

<新作レビュー>『さよなら、ティラノ』坂本龍一の音楽が子どもたちに生命の尊さを伝える

<新作レビュー>『さよなら、ティラノ』坂本龍一の音楽が子どもたちに生命の尊さを伝える




■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

『おまえうまそうだな』(10)『あなたをずっとあいしてる』(15)に続く、宮西達也の大ヒット絵本(「ずっとずっといっしょだよ」ほか)原作の長編アニメーション映画です。

弱肉強食や食物連鎖の実態に基づく生命の尊さを、はるか昔の恐竜たちの生きざまを通して子どもたちに巧みに訴え得る宮西ワールド。

今回挑戦したのは『劇場版名探偵コナン』で『沈黙の15分(クオーター)』(11)から『から紅の恋歌(ラブレター)』(17)まで登板し続けて、シリーズに007のごとき冒険アクション的エンタメ要素を加味させ、アニメ版『GODZILLA』3部作(17~18)でも異彩を放ち続けた俊英・静野孔文。



一見、意外な抜擢のようですが、可愛らしい恐竜たちの世界観に冒険要素であったり、生きものは生きものを喰らうことでしか生きていけないシビアな現実をきちんと盛り込むなど、その語り口は俄然達者で、現在ワールドワイドに活躍し続ける彼ならではの、全世界的な老若男女に真摯なメッセージを訴え得るエンタテインメントとして見事に屹立しています。

さらに今回特筆すべきは、音楽を坂本龍一が担当していること!



本作は日本=韓国=中国の合作映画で、制作は日本の手塚プロダクションが請け負っていますが、坂本“教授”は手塚治虫の大ファンということで、最初はうっかり手塚原作作品のオファーと間違えてしまったものの、その後宮西原作を読んで手塚ワールドとも共通する死生観(まさに「ジャングル大帝」などと相似しているところもあります)に大いに共鳴し、改めてオファーを快諾。

結果として『王立宇宙軍 オネアミスの翼』(87)以来のアニメーション映画音楽の登板となった“教授”ではありますが、荘厳かつ美麗な響きの数々は一方では子どもたちにも優しく親しみやすいもので(情操教育にもうってつけの曲ばかり!)、我らが勝手知ったる坂本音楽の真髄みたいなものを驚嘆と感動を伴いながら体感し続けることが出来ます。



三木眞一郎、石原夏織、結城碧などヴォイス・キャストも秀逸で、ちなみに韓国や中国など海外版キャスト陣は彼らの音声を聞きながらアフレコに臨ませたとのこと。

つまりは全世界に届く声の基軸として日本語版制作を非常に重要視していたという事実からも、単にPRのため顔出しタレントをキャスティングしがちな国産アニメ映画のキャスティング事情の中、実に頼もしい存在の作品であったことも理解していただけるのではないでしょうか。

こういった気骨ある美しい作品こそは、ぜひ多くの小さなお子さんたちに見せてあげたい!

今はそういう気持ちでいっぱいです。

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(文:増當竜也)

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