日本映画のオリジナル率は、どうなっているんだろう?(前篇)

湯を沸かすほどの熱い愛 01

(C)2016「湯を沸かすほどの熱い愛」製作委員会

原作のない、オリジナル作品はどれだけの興収をあげたのか?

後輩 先日もTVで、「昨年公開された日本映画のヒット作のうち、かなりの作品がコミックの映画化だったらしい」という話題になったらしいのですが。

先輩 そうだけど、その件を逆に見てみないか?つまり、このご時世にオリジナルの映画がどれだけあって、それがどれだけの興行成果を上げているか?という。

爺 そうだな。「結局日本映画はコミックが頼りなんですねえ」とため息ついてても始まらないからな。

女の後輩 昨年の数字から行ってみますか?

先輩 はい。昨年興行収入10億円以上あげた日本映画は、正月映画を含み38作品。その興収トータルは898億円でした。で、そのうち原作が存在しないオリジナル作品は・・・。

後輩 じらさないでくださいよっ!!

先輩 ・・・オリジナル作品の数は、たったの5本でした。

爺 38作品中5本しかないのか?そりゃ確かに嘆きたくなるわなあ。

女の後輩 作品タイトルで言うと?

先輩 興収が多い順に言っていくと、「バケモノの子」58.5億円、「龍三と七人の子分たち」16億円、「バンクーバーの朝日」14.2億円、「ギャラクシー街道」13.2億円、「心が叫びたがってるんだ」11.2億円となります。

後輩 はあああ・・・・58.5億円の「バケモノの子」と16億円の「龍三と七人の子分たち」の間の、この差。

先輩 ちなみに、オリジナル作品5本の興収トータルは113.1億円となりますので、これは10億円以上の作品を100パーセントとした場合、12.59パーセントを占めていることになります。

爺 まあそうだけど、原作のない映画がどれだけ作られているかということが肝心なのだから、本数をカウントするだけで良いんじゃないか?

女の後輩 いえいえ。オリジナル作品がどれほど観客に望まれたかを測る上で、興収は重視すべきじゃないですか?

先輩 ともかく、本数的には38本中5本。興収的には全体の12.59パーセントがオリジナル作品というわけですが、これを健闘と見たものか、それとも低調としたものか。

シナリオの面白さが突破口になった「湯を沸かすほどの熱い愛」

湯を沸かすほどの熱い愛 yu-sub1s

(C)2016「湯を沸かすほどの熱い愛」製作委員会

後輩 思ったよりオリジナル作品、多いですよね。

爺 そうかな?

先輩 繰り返しますが、これは興収10億円以上あげた作品だけを対象にしていますから、そうじゃない作品、あるいは中小規模で公開された映画の中にも、オリジナル作品は多数存在すると思われます。

女の後輩 つか、そっちのほうが多いんじゃないですか?ヒット作の場合、製作する側も「商品」として作る意識でかかるわけですから、その場合当然ヒットに繋がる要素は確保しておきたい。故に原作の知名度や実績をその担保として考える。

後輩 例えば中小規模のマーケットで公開されたオリジナル作品が、興収10億円以上あげるヒットになれば、面白い事態になりますよね。最近の映画ですと、10月29日から90スクリーンでスタートした「湯を沸かすほどの熱い愛」。これが商業映画デビューとなる中野量太監督の作品ですが、宮沢りえ、オダギリジョーといった俳優たちが、皆監督の書いたシナリオの面白さに惹かれて出演をOKした。作品の出来もすこぶる良く、見た人は絶賛しています。

女の後輩 あんた、最後に号泣してたもんねえ。

後輩 ・・でへ。

先輩 その通りなんだ。昨年のヒット作のうちオリジナル作品の顔ぶれを見ていくと、監督が何らかのバックボーンを持っていることに気がつかないか? 例えば「バケモノの子」の細田守監督は、制作会社スタジオ地図があり、スタジオ地図は日本テレビのバックアップを得ています。

爺 「龍三と七人の子分たち」の北野武監督もオフィス北野があるし、「バンクーバーの朝日」は実話をもとにフジテレビが幹事会社を務め、石井裕也が監督した。フジテレビといえば「ギャラクシー街道」もフジと東宝の共同製作作品だ。

女の後輩 三谷幸喜を映画監督として育てたのはフジテレビの大きな功績だと思いますが、正直「ギャラクシー街道」は…。

爺 それはさておき、「心が叫びたがってるんだ」の場合も、アニメ制作会社A-1 Picturesがあり、長井龍雪監督ら「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」のスタッフが再度結集したケースだ。

先輩 要するに監督個人の才能だけではなく、それを形にするための「組織」や「場」を持っている。あるいはその「場」が監督の才能を引き出し、育成する役割を担っている。これが最近のオリジナル作品での特徴だったりします。

「いい企画、ない?」ではなく「いい原作、ない?」と聞かれる時代。

先輩 こうして見ると、監督が個人の着想や裁量で企画を立ち上げたり、誰かが書いたオリジナル・シナリオを映画会社がピックアップしたケースはほとんどないことが分かります。

爺 つまり、個人の才能ではなく企業の戦略が優先されているんだよ。それが悪いというわけではなく、日本テレビだって細田守監督を育てようという姿勢で「バケモノの子」をピックアップしただろうしな。フジテレビが三谷幸喜を映画監督として育てたことと同じじゃよ。

女の後輩 それでも「ギャラクシー街道」は…。

先輩 しつこいな。

女の後輩 しつこいですよ。

先輩 今、映画会社が一番困っているのが、良い企画がないことだそうです。つまり「良い企画」とは、「ヒットする、当たる企画」を意味するのですが、僕が映画会社に行ったりすると「何かいい企画ない?」と、よく聞かれます。そういう人には「ない!! あっても君には教えない。それを考えるのが、君の給料の元だろう!!」と言ってあげますけど(笑)。

後輩 いや。最近では「いい企画ない?」じゃないんですよ。「何かいい原作ない?」と、よく聞かれます。

爺 もう映画会社の人たちの頭には、原作ものしかないんだな。ある映画会社の人間が売れ線のコミックを映画化すべく、出版社に行って企画意図などを説明したところ、「つまりあなたたちは、我々のコミックをそのまま映画にして、ただそれだけで金儲けをしようと言うのですね」と言われて、「思わず拳を握りしめた」と言ってたけど、それは出版社の人のほうが正しい。

先輩 商品を作っているわけですからヒットを求めるのは分かりますが、あまりにも他力本願な気がしますね。

後篇に続く!

(企画・文:斉藤守彦)

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    斉藤守彦

    斉藤守彦

    斉藤守彦(さいとうもりひこ) Morihiko Saitoh 静岡県浜松市出身。映画館、ビデオ会社でのアルバイトを経て、映画業界紙「東京通信」記者 (後に編集長)に。1996年からフリーの映画ジャーナリスト/アナリストとなり、以後多数の劇場用パンフレット、「キネマ旬報」「HiVi」「ザテレビジョン」「日経エンタテインメント!」「宇宙船」「スターログ日本版」「INVITATION」「東京カレンダー」「アニメ!アニメ!」「フィナンシャル・ジャパン」「Pen」などの雑誌・ウェブメディアに寄稿。2007年秋に「日本映画、崩壊 -邦画バブルはこうして終わる-」を、08 年「宮崎アニメは、なぜ当たる -スピルバーグを超えた理由-」、09 年「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」、 10 年に「『踊る大捜査線』は日本映画の何を変えたのか」(共著) を上梓。 他の著書に「図解でわかるコンテンツ・ビジネス」1〜4(共著)、「ソノラマ MOOK/ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」(構成・執筆) 、電子書籍「日本映画、飛躍と困惑の過去・現在・未来」等があり、ここ数年は「映画宣伝ミラクルワールド」「80年代映画館物語」と、独自の視点による書籍を執筆。2016年3月には新作「映画を知るための教科書 1912−1979」が世に出る。現在、水道橋博士編集長のメールマガジン「メルマ旬報」で「2016年映画館物語」を連載中。また「BOOKSTAND映画部!」で、「映画を待つ間に読んだ、映画の本」と「映画惹句は、言葉のサラダ」の2つの連載を行っている。

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