映画コラム

REGULAR

2016年06月04日

「殿、利息でござる!」「海よりもまだ深く」、「共感シンドローム」の次に来るのはどんなタイプの作品なのだろう?

「殿、利息でござる!」「海よりもまだ深く」、「共感シンドローム」の次に来るのはどんなタイプの作品なのだろう?

■「役に立たない映画の話」

殿、利息でござる!

(C)2016「殿、利息でござる!」製作委員会



「殿、利息でござる!」は「武士の家計簿」路線の作品。


先輩 ようやく見たよ。「殿、利息でござる!」。土曜日の夕方、新宿ピカデリーで。

後輩 あれ? まだ見てなかったんですか?

先輩 時代劇ってぇのが先天的に苦手でね。ほら、ヅラかぶってると誰が誰だか分からなくなるだろ。

後輩 そうでもないと思うんですが。で、どーでしたか?映画の出来は?

先輩 いや、もー驚いちゃったよ。最初は「超高速! 参勤交代」の、あのお笑い路線かと思ったら、「武士の家計簿」の路線だったんだなあ・・。

後輩 どういうことですか?

先輩 つまりだ。重い年貢の取り立てに苦しむ宿場町の町民たちが、逆にお上に金を貸して、その利息を生活に役立てようという映画なんだけど、それぞれのシチュエーションが面白おかしく描かれる映画と思いきや、この時代の年貢取り立てや金融システムなどが、きちんと説明されていて、とても勉強になる。

後輩 まさに「武士の家計簿」が、侍一家の台所事情を克明に解説したのと同じじゃないですか! 単に面白おかしいだけの映画じゃないんですね。

先輩 その上、今の貨幣価値で言うと3億円になるんだけど、お上に貸し付けるためのこの資金をどうやって集めるか。それもまた細かなディテイルを積み重ねる形で描かれるんだけど、そのプロセスである謎が解けたり、感動的な出来事があったりで、見終わった後はちょっとうるうるしちゃったよ。

後輩 ポスターから受ける印象と、全然違うじゃないですか!?

先輩 まあ、そうなんだよなあ。ただしこの場合は、観客をミスリードしたとは言えないな。笑いの要素も少なからずある映画だし、何と言っても見終わって凄いお得感がある。

後輩 笑える映画だと思って見に来たら、ほろっとしてしまった。それは想定外でしょうから、儲けた感じがしますね。

先輩 笑いの要素を前面に出さなかったら、これだけの数のお客さんは来なかったと思うよ。16日間で入場者数73万2189名、累計興収8億7486万5500円と、同日公開の「世界から猫が消えたなら」の59万5530名、7億7275万5500円を1億円以上上回るペースだからね。大したものだ。

後輩 主な観客層は、やっぱりというか30代以上からシニアにかけての人たちだそうで。

先輩 わかった。とにかくそのご婦人たちがこぞって来場し、皆で画面に一喜一憂しているのは、昨年の「超高速!参勤交代」といい、この春予想を上回るヒットになった「家族はつらいよ」と同じ現象だと言えるね。

「共感」を求めているのは、高年齢層も同じ?


後輩 やっぱり「共感」なんじゃないかと思うんですよ。

先輩 またそのフレーズかよ?

後輩 共感を求めているのは、若い人たちだけじゃないってことですよ。皆で映画館に行って、楽しい映画をゲラゲラ笑いながら見る。「殿、利息でござる!」の場合も、やっぱり笑いを求めて来たのだと思いますし。あるいはちょっと感動的な映画に、隣の人と一緒にしんみりしたり。そういう体験を求めているのは、若い観客も中高年の人も一緒だと思いますね。

先輩 確かに、21日から公開された是枝裕和監督の「海よりもまだ深く」も、中高年のご婦人がたがメインで、リアクションも抜群に良いらしいし、何と言ってもこういうお客さんは土日だけじゃなくて平日にも来てくれる。だから平日の成績が通常の作品より良いらしいよ。

後輩 「海よりもまだ深く」は、先輩も共感している部分、多々あるんじゃないですか(笑)?

先輩 阿部寛のダメ男ぶりは共感を超えて、もはや「身につまされる」レベルだよ。

後輩 あははは。そういうお客さんも来てるんじゃないですかね。

先輩 だから「50代ダメ男割引」を設定してくれと言ったんだ、オレは(笑)。皆、お金ないんだから。

後輩 それはともかく、「殿、利息でござる!」の場合も「海よりもまだ深く」も、皆映画を見て「あるある。こういうことって」と、身近な体験を思い出しているんじゃないですかねえ。「うちの息子も、こういうところがダメで・・」みたいな。

先輩 確かに映画がテレビドラマ的な見方をされているとは思うけど、それって映画が身近になった証拠だからな。

後輩 でも、この間アップされた対談にあるように、監督とか映画の作り手たちにとって、共感ばかり求められるのは、もううんざりといった傾向も否定出来ない。

先輩 それはそうだよ。面白い映画を作ろうと思っているのに、「共感出来ないからダメ」と言われたら、モチベーションは下がるばかりだ。

「映画を作るのは君たちだ!! 出資者じゃない!!」


後輩 今、映画が製作委員会方式で作られるようになったじゃないですか。複数の出資者から資金を募って。そうなると出資する人たちの意見ばかりが尊重されるようになる。そういう傾向って大いにあるんじゃないですかね?

先輩 具体的な事例を挙げることは出来ないけど、それもあると思う。映画はお金がかかる商品だから、お金を出してくれる存在はありがたいと思うよ。でも、出資者が映画を作っているわけじゃあない。

後輩 人間が作っているわけですよね。

先輩 NHKで以前オンエアされた、ディズニー・スタジオのドキュメント番組があったんだけど、そこではジョン・ラセターがあの巨体を揺らしながら、「君たちが映画を作っているんだ!! 出資者が作っているんじゃない!!」と、「ベイマックス」のスタッフに檄を飛ばすんだよ。あれは感動的な光景だった。

後輩 共感を求める映画がたくさん出てきているということは、やはりそれがヒットに結びつくから。当たっている作品に文句を言うつもりはありませんが、そればかりというのは不健全な気がします。

先輩 というより、共感を目指す作品ばかりじゃあ、飽きられるのも早い。何本かに1本ぐらいは、監督や脚本家、俳優といった作り手たちが「やりたい!!」という作品を作らなくては。やる気のある作り手と、儲けたい出資者を結びつけるのもプロデューサーの大きな仕事のはずなんだがな。

後輩 さて、この「共感シンドローム」の次に来るものは、果たしてどんなタイプの作品なんでしょうか?

関連記事


どーする? どーなる? 2016年夏休み興行

「ドラえもん」「名探偵コナン」新記録、「ズートピア」尻上がりー日米アニメ映画好調の理由は?

ダメ男の名前は、みな良多なのね。「海よりもまだ深く」VS「歩いても 歩いても」

「名探偵コナン・純黒の悪夢(ナイトメア)」が大ヒットしたのはなぜか?

宇宙は、でかくて強い不気味な昆虫でいっぱいだ!!
「テラフォーマーズ」VS「スターシップ・トゥルーパーズ」


他の記事も読む

■「役に立たない映画の話」をもっと読みたい方は、こちら

(企画・文:斉藤守彦

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

RANKING

SPONSORD

PICK UP!