「殿、利息でござる!」「海よりもまだ深く」、「共感シンドローム」の次に来るのはどんなタイプの作品なのだろう?

殿、利息でござる! (C)2016「殿、利息でござる!」製作委員会

「殿、利息でござる!」は「武士の家計簿」路線の作品。

先輩 ようやく見たよ。「殿、利息でござる!」。土曜日の夕方、新宿ピカデリーで。

後輩 あれ? まだ見てなかったんですか?

先輩 時代劇ってぇのが先天的に苦手でね。ほら、ヅラかぶってると誰が誰だか分からなくなるだろ。

後輩 そうでもないと思うんですが。で、どーでしたか?映画の出来は?

先輩 いや、もー驚いちゃったよ。最初は「超高速! 参勤交代」の、あのお笑い路線かと思ったら、「武士の家計簿」の路線だったんだなあ・・。

後輩 どういうことですか?

先輩 つまりだ。重い年貢の取り立てに苦しむ宿場町の町民たちが、逆にお上に金を貸して、その利息を生活に役立てようという映画なんだけど、それぞれのシチュエーションが面白おかしく描かれる映画と思いきや、この時代の年貢取り立てや金融システムなどが、きちんと説明されていて、とても勉強になる。

後輩 まさに「武士の家計簿」が、侍一家の台所事情を克明に解説したのと同じじゃないですか! 単に面白おかしいだけの映画じゃないんですね。

先輩 その上、今の貨幣価値で言うと3億円になるんだけど、お上に貸し付けるためのこの資金をどうやって集めるか。それもまた細かなディテイルを積み重ねる形で描かれるんだけど、そのプロセスである謎が解けたり、感動的な出来事があったりで、見終わった後はちょっとうるうるしちゃったよ。

後輩 ポスターから受ける印象と、全然違うじゃないですか!?

先輩 まあ、そうなんだよなあ。ただしこの場合は、観客をミスリードしたとは言えないな。笑いの要素も少なからずある映画だし、何と言っても見終わって凄いお得感がある。

後輩 笑える映画だと思って見に来たら、ほろっとしてしまった。それは想定外でしょうから、儲けた感じがしますね。

先輩 笑いの要素を前面に出さなかったら、これだけの数のお客さんは来なかったと思うよ。16日間で入場者数73万2189名、累計興収8億7486万5500円と、同日公開の「世界から猫が消えたなら」の59万5530名、7億7275万5500円を1億円以上上回るペースだからね。大したものだ。

後輩 主な観客層は、やっぱりというか30代以上からシニアにかけての人たちだそうで。

先輩 わかった。とにかくそのご婦人たちがこぞって来場し、皆で画面に一喜一憂しているのは、昨年の「超高速!参勤交代」といい、この春予想を上回るヒットになった「家族はつらいよ」と同じ現象だと言えるね。

「共感」を求めているのは、高年齢層も同じ?

後輩 やっぱり「共感」なんじゃないかと思うんですよ。

先輩 またそのフレーズかよ?

後輩 共感を求めているのは、若い人たちだけじゃないってことですよ。皆で映画館に行って、楽しい映画をゲラゲラ笑いながら見る。「殿、利息でござる!」の場合も、やっぱり笑いを求めて来たのだと思いますし。あるいはちょっと感動的な映画に、隣の人と一緒にしんみりしたり。そういう体験を求めているのは、若い観客も中高年の人も一緒だと思いますね。

先輩 確かに、21日から公開された是枝裕和監督の「海よりもまだ深く」も、中高年のご婦人がたがメインで、リアクションも抜群に良いらしいし、何と言ってもこういうお客さんは土日だけじゃなくて平日にも来てくれる。だから平日の成績が通常の作品より良いらしいよ。

後輩 「海よりもまだ深く」は、先輩も共感している部分、多々あるんじゃないですか(笑)?

先輩 阿部寛のダメ男ぶりは共感を超えて、もはや「身につまされる」レベルだよ。

後輩 あははは。そういうお客さんも来てるんじゃないですかね。

先輩 だから「50代ダメ男割引」を設定してくれと言ったんだ、オレは(笑)。皆、お金ないんだから。

後輩 それはともかく、「殿、利息でござる!」の場合も「海よりもまだ深く」も、皆映画を見て「あるある。こういうことって」と、身近な体験を思い出しているんじゃないですかねえ。「うちの息子も、こういうところがダメで・・」みたいな。

先輩 確かに映画がテレビドラマ的な見方をされているとは思うけど、それって映画が身近になった証拠だからな。

後輩 でも、この間アップされた対談にあるように、監督とか映画の作り手たちにとって、共感ばかり求められるのは、もううんざりといった傾向も否定出来ない。

先輩 それはそうだよ。面白い映画を作ろうと思っているのに、「共感出来ないからダメ」と言われたら、モチベーションは下がるばかりだ。

「映画を作るのは君たちだ!! 出資者じゃない!!」

後輩 今、映画が製作委員会方式で作られるようになったじゃないですか。複数の出資者から資金を募って。そうなると出資する人たちの意見ばかりが尊重されるようになる。そういう傾向って大いにあるんじゃないですかね?

先輩 具体的な事例を挙げることは出来ないけど、それもあると思う。映画はお金がかかる商品だから、お金を出してくれる存在はありがたいと思うよ。でも、出資者が映画を作っているわけじゃあない。

後輩 人間が作っているわけですよね。

先輩 NHKで以前オンエアされた、ディズニー・スタジオのドキュメント番組があったんだけど、そこではジョン・ラセターがあの巨体を揺らしながら、「君たちが映画を作っているんだ!! 出資者が作っているんじゃない!!」と、「ベイマックス」のスタッフに檄を飛ばすんだよ。あれは感動的な光景だった。

後輩 共感を求める映画がたくさん出てきているということは、やはりそれがヒットに結びつくから。当たっている作品に文句を言うつもりはありませんが、そればかりというのは不健全な気がします。

先輩 というより、共感を目指す作品ばかりじゃあ、飽きられるのも早い。何本かに1本ぐらいは、監督や脚本家、俳優といった作り手たちが「やりたい!!」という作品を作らなくては。やる気のある作り手と、儲けたい出資者を結びつけるのもプロデューサーの大きな仕事のはずなんだがな。

後輩 さて、この「共感シンドローム」の次に来るものは、果たしてどんなタイプの作品なんでしょうか?

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(企画・文:斉藤守彦

    ライタープロフィール

    斉藤守彦

    斉藤守彦

    斉藤守彦(さいとうもりひこ) Morihiko Saitoh 静岡県浜松市出身。映画館、ビデオ会社でのアルバイトを経て、映画業界紙「東京通信」記者 (後に編集長)に。1996年からフリーの映画ジャーナリスト/アナリストとなり、以後多数の劇場用パンフレット、「キネマ旬報」「HiVi」「ザテレビジョン」「日経エンタテインメント!」「宇宙船」「スターログ日本版」「INVITATION」「東京カレンダー」「アニメ!アニメ!」「フィナンシャル・ジャパン」「Pen」などの雑誌・ウェブメディアに寄稿。2007年秋に「日本映画、崩壊 -邦画バブルはこうして終わる-」を、08 年「宮崎アニメは、なぜ当たる -スピルバーグを超えた理由-」、09 年「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」、 10 年に「『踊る大捜査線』は日本映画の何を変えたのか」(共著) を上梓。 他の著書に「図解でわかるコンテンツ・ビジネス」1〜4(共著)、「ソノラマ MOOK/ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」(構成・執筆) 、電子書籍「日本映画、飛躍と困惑の過去・現在・未来」等があり、ここ数年は「映画宣伝ミラクルワールド」「80年代映画館物語」と、独自の視点による書籍を執筆。2016年3月には新作「映画を知るための教科書 1912−1979」が世に出る。現在、水道橋博士編集長のメールマガジン「メルマ旬報」で「2016年映画館物語」を連載中。また「BOOKSTAND映画部!」で、「映画を待つ間に読んだ、映画の本」と「映画惹句は、言葉のサラダ」の2つの連載を行っている。

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