「ハードルの高いチャレンジでした…」映画「マエストロ!」小林聖太郎監督・シネマズ独占インタビュー
小林聖太郎監督が語る、映画「マエストロ!」
ーー映画『マエストロ!』は、オーケストラを舞台とした作品という事で「音」という要素が大きな柱になっていますよね。特に終盤のコンサートシーンでは、コンサートホールでオーケストラの演奏を聞いているような錯覚に陥ってしまいました。昨今の映画館は、最新鋭の音響設備が整っていますので、より音をリアルに体感して頂けると思いますが、その点で何か工夫されたことはありますか?
「音も画も、いわゆるオーケストラ演奏会の中継という感じにはしたくなかったですね。カメラの位置やレンズ選び、音の作り方も、映画の観客が楽団の一員として舞台にいるように感じられるよう工夫しました。でも実際の舞台上にいると、良く聞こえる楽器もあれば、聞こえにくい楽器の音もあって、バランスが悪いんです。」
ーーどうしてですか?
「オーケストラの演奏は、客席に音が届く時にはじめてバランスが取れるようになっているんです。なので、映画の観客が楽団の一員として舞台にいるように感じられるために、そのちょうど中間…舞台上の息吹を感じさせつつ、バランスを整えすぎず、みたいなところを意識して作りました」
ーーコンサートシーンでは、クライマックスに向かって音が立体度を増してきたのが印象的でしたね。
「何か仕掛けを作ったわけではないのですが、俳優さんやスタッフなど、色んな方々の総合的な力が影響したのだと思います」
ーーエネルギーが響き合ったということでしょうか?
「映画のクライマックスであるコンサートシーンの撮影は、撮影期間の終盤に行われたんです。そのため、他のシーンを撮っていても、楽器の練習をしていても、みなさんの頭の中にはこの『コンサート』のことが常にあったのだと思います。映画のストーリーと同様に、撮影現場も『コンサート』に向けて進んでいるわけで、その緊張感やプレッシャーも、作品と現実がうまくシンクロしたのでしょう」
ーー俳優さん達も、コンサートが「本番」という意識だったのですね。
「ちょっと面白いのですが、練習場の撮影現場(セット)の向かい側に、楽団の控え室としてもうひとつセットを借りていたんです。例えば、第一ヴァイオリン向けのカットを撮るとなったら、普段ならフレーム外の人たちは控え室に戻ったり、外の空気を吸ったり思い思いに過ごすのですが、隣のセットに移動して、その楽器奏者の雰囲気を盗んだりコンサートシーンの練習をする、みたいな。それくらい、本番を成功させようと皆さん頑張られていました」
ーーつまりそういった努力や緊迫感が、臨場感溢れる演奏に繋がっていると。臨場感と言えば『マエストロ!』はコミックが原作となっていますが、紙であるコミックでは音を鳴らすことができません。原作は、イメージ描写や効果音、心の声(モノローグ)を駆使して、2次元の中に音楽を表現しようと挑戦されていました。その原作を音の出る「映画」で表現するというのは、逆にレアなパターンだったのではないでしょうか?
「ええ、ハードルの高いチャレンジでした(苦笑)。原作では、音を視覚のみで表現していますから、コンサートシーンでは龍が飛んだり地鳴りがしたりするんです。でも映画では龍を飛ばすわけにはいかないし、『何だこの一体感は?!』とか『渦に呑み込まれる!』とか、心の声を音声で展開するのも恥ずかしい」
ーー読み手によって想像するイメージや音も違ってきますしね。
「マンガだと、その人の記憶の中で、一番いい音が聞こえてくるんですよ。そういう意味で映画というのはやはり不利ですよね。想像力には勝てませんから。ですから佐渡裕さんが指揮指導と演技監修を引き受けて下さって本当に助かったなと。最終的には『音』で観客を説得させないといけないということで、旧知のベルリン・ドイツ交響楽団のスケジュールをすぐに押さえて下さったんです」
いつか自分の作品に出てもらいたいと思い真っ先に声をかけた俳優
ーー指揮者である天道役の西田敏行さんですが、「こういう指揮者、絶対いる!」と思うほど、ビジュアルも演技も指揮者として完成されていました。原作では、線の細いおじいさんとして描かれていましたが、実際の西田さんはどっしりとした印象ですよね?
「西田さんだけでなく、キャストについてはあまり原作の絵をなぞろうとは思いませんでした。原作とたまたま似ている人もいますが、絵づらとして似せるというよりも役の必然と役者の肉体が合わさって醸し出す現実味を重視した結果だと思います。西田さんを起用したのは、僕の希望が大きかったです。昔、助監督で参加した『ゲロッパ!』という作品がありまして…」
ーー大阪弁のヤクザの親分がジェームス・ブラウン好きという映画ですね。
「西田さんとは、2ヶ月一緒にダンスの練習をしたり、僕が大阪弁の指導を兼任したのですが、この年代でこれだけのキャリアがある俳優さんが、その時、本当にもう全力で取り組んで下さったんですよ。そのお人柄と役者としての底力に感動し、いつか自分の作品に出てもらいたいなとずっと思っていました。しかも西田さん、音感や音楽的センスが素晴らしいんです。今回はオーケストラの映画でしたので、真っ先に西田さんにお願いすることにしたのです」
ーー他の方も、音楽にゆかりのある方を選んでキャスティングされたと拝見しました。
「絶対条件ではなかったものの、そういった方にお声を掛けさせていただきました。例えば一丁田役の斉藤暁さんですが、市民オーケストラでトランペットを吹いてらっしゃるそうで、ホルンも難なくマスターされていました。同じくホルン担当の嶋田久作さんは、管楽器は未経験ですが、前職がピアノの調律師だったそうです。そのせいか、楽譜にこだわりを見せていましたね。役が決まったら、台本よりも先に『運命』と『未完成』の総譜を楽器店で買ってきて、研究していたくらいです」
ーー他に何かエピソードはありますか?
「西田さん演じる天道の風貌ですが、原作と同じように白髪まじりの長髪で行くことにしました。でもそれは、必ずしも原作のイメージを再現しようとしたわけではないんです」
ーーどういうことでしょうか?
「天道は指揮者でもありますが、倉庫で金づちを振るう大工さんでもある。そして、鬱陶しくてうさん臭い酒場のオヤジでもあるわけです。ツナギ姿にも似合う、怪しさも出せる、でも指揮者に変わった時に指揮者らしくも見える…となると、やっぱり長髪でないとダメだったのです。機能的に物事を追求していった結果、あの髪型に落ち着いたわけです。決して、話題になった自称作曲家に似せようとしたわけじゃないんですよ(笑)」
ーーおっと!ビックリ発言出ました(笑)今回はご貴重な時間を頂きありがとうございました。
映画「マエストロ!」絶賛全国ロードショー中
様々な制作秘話をお聞かせ頂いた小林聖太郎監督の最新作・映画「マエストロ!」は、本日2015年1月31日より絶賛公開中です。
まだ映画をご覧頂けていないみなさまは、インタビューでの撮影秘話などを踏まえて観ていただくと、さらに映画「マストロ!」の魅力が深まるかもしれません。ぜひ映画館へ足をお運びください。
映画「マエストロ!」公式サイト
(インタビュー/編集部公式ライター・大場ミミコ)
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