ヴァイオレンス映画の巨匠サム・ペキンパー監督 その真実の姿が明るみに!
大の日本びいきでもあった
傷つきやすいラフ&タフ
本作はドイツ生まれのマイク・シーゲル監督が、2002年からペキンパー映画ゆかりの俳優やスタッフらのインタビューを敢行し、05年に完成させたもの。
「血まみれサム」とも、「粗野で無頼(ラフ&タフ)」とも言われたペキンパーの赤裸々な人物像を、それぞれが豪快に吐露していきますが、こちらの予想をはるかに上回る狂気的言動の中から、実は気が小さくも優しい傷つきやすい彼の本質が見え隠れしていきます。
中でも圧巻なのは、『ワイルドバンチ』『コンボイ』に出演したアーネスト・ボーグナインの談話で、何を語っているかは見てのお楽しみとして、本当に狂気の沙汰としか思えないエピソードを、あの豪快な笑い声を交えながら語ってくれています。
本作の中では語られていませんが、サム・ペキンパーは大の日本びいきで、黒澤明監督の『羅生門』(50)を生涯の名作と讃え、また岡本喜八監督の時代劇『斬る』(68)などに魅せられ、自身も現代劇『キラー・エリート』(75)の中で何とニンジャ・アクションを披露してしまったほど。
黒澤監督の『影武者』(80)プレミア上映に招かれて来日もしていますが、そのときは上映中ずっと酔いつぶれて爆睡し、上映終了後「俺のためにもう1回フィルムを回せ!」と叫んだといった逸話も伝え聞くところです。
(彼が酒とドラッグでもっとも荒れていた時期でした)
映画評論家の淀川長治氏は『日曜洋画劇場』で『ワイルドバンチ』がオンエアされた際、「私はこの映画が嫌いです」と明言したことを覚えています。TV映画劇場の解説で、こういった否定の弁を発するとは前代未聞ではありますが、そう発言しても差し支えないほどの問題作であったことを、逆に彼は訴え得ていたように思います。
確かに『ワイルドバンチ』は当時の西部劇ファンに大きな衝撃を与えましたし、当時ハリウッドで西部劇に関わっていた映画人の反発も喰らいました。
その中には西部劇の王者ジョン・ウェインもいましたが、彼は何とその後サム・ペキンパーとの仕事を切望し続けていました。彼のヴァイオレンス演出そのものは否定しながらも、監督としての力量は高く評価していたのです。
またペキンパーは『砂漠の流れ者 ケーブル・ホーグのバラード』(70)『ジュニア・ボナー 華麗なる挑戦』(72)で、暴力描写を一切廃した西部への哀悼劇も披露しています。
時あたかもヴェトナム戦争の影響もあって、アメリカ国内のフロンティア・スピリットの思想が崩壊し始め、マカロニ・ウエスタンやアメリカン・ニュー・シネマの到来で本場西部劇のアイデンティティが崩れ落ちようとしている時期でもありました。
そういった状況下で彼は西部劇にこだわり続け、また一方ではメキシコをこよなく愛し、それが昂じて『ガルシアの首』(74)なる現代アクション映画の傑作をものとしています。
これは個人的意見ですが、今のハリウッドは監督の個性がどんどん失われていく傾向にあると思いますが、そういった中で往年のペキンパー作品などを見ますと、映画はやはり監督の個性の賜物と唸らざるを得ないところもあります。
あたかも同時期に、ロバート・アルトマン監督のドキュメンタリー映画『ロバート・アルトマン/ハリウッドで最も嫌われ、そして愛された男』も公開されますが、かつての映画監督の個性というものに着目しながら、これらの作品に接していただけたら、また改めて映画の面白さとは何かを体感できることと思いますし、ひいては彼らの遺した作品群にも目を向けていただけたら、彼らのファンのひとりとして、こんな嬉しいことはありません。
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(文:増當竜也)
『サム・ペキンパー 情熱と美学』は2015年9月26日(土)公開!
公式サイト http://www.doc-peckinpah.com/
https://www.youtube.com/watch?t=30&v=qSCp2_yv-2g
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