インタビュー

2015年11月05日

語り継がれない戦争の真実を描いた映画『野火』トークイベント

語り継がれない戦争の真実を描いた映画『野火』トークイベント



ひとつの真実を描いた映画


「最後のシーンはいろんな受け取り方があると思うんですけど、意識の方の変容のかたちとして、儀式的に神にも似た何かに彼の意識が変容していくという受け取り方をしたんですが、何か付け加えることはありますか?」

トークセッションの最後に、塚本監督は「最後は何してたんですか?とよく聞かれるんです。頭をぶつけてるんですか?とか、自分を刺してるんですか?とか」と自身に寄せられる疑問について、「原作ではごはんを見ると、異様なお辞儀をする、と書いてあったんですね。異様なお辞儀というのはどういうものだろう、と自分でも考えて。すごい映像は浮かぶんですけれども、所詮自分の身体で、当日現場でその動きをしなかったので、これはいかんと思いまして。ただあることを考えながら、一生懸命お辞儀をしたんです」と現場での様子を交えながら回答していました。

また、「ごはんというものが映画全編を貫くテーマ」と提示し、塚本監督が10年前に戦争を体験した方へのインタビューをした経験などから「自分の口では肉を食べたとは言いませんけど、何があったかわかるギリギリの話まで聞いて。上映先でも、すぐに映画の感想を言えない代わりに身内の経験や聞いた話をしてくれて、それを積み重ねていくうちに劇中で描かれたような世界があったことがはっきりと浮かび上がってくるんです」と話し、「戦争をこれから語り継ぐことは大事なんですけれども、語り部の方は減っていて、特に加害者側の方というのはなかなかいない。「語るものではない」と、お墓まで持っていこうと口を閉ざしたまま亡くなられてしまっているわけです。これだけ恐ろしいことがあったのが、まるでなかったかのように葬り去られるのをいいことに、戦争の方向へ動いているように思えてならないんですね。だから、それをなかったことにさせない、という映画です。口を無理矢理開けさせて話させるというのもよくないことだと思うので、ドキュメンタリーではないけれど、まぎれもなくあったことをひとつの真実の形として作って、それを観ていただくということは必要だと思います」と、今作を作った意義を伝えていました。

『野火』につながる過去作品についての質問も


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イベントの後半には客席からのQ&Aも行われ、今作をより深く知ることのできる機会として、さまざまな質問が飛び出しました。

質問「敵が誰か見えてこないところや主人公の精神世界が錯乱している感じが、クリント・イーストウッドの『アメリカン・スナイパー』に似てるところがある気がして、敵の描写についてはどのような意図があったのでしょうか?」

塚本監督「もし潤沢な予算があったとしても、最初からこの撮り方をするべきだと思っていて。向こうの兵隊さんが敵というわけではなくて、それはどこか上の方から戦争をさせてる人なんですね。闇の中から突然弾が飛んでくるという表現にしたのは、戦争をさせている人間から飛んできているというシンボルにしたかったのが一番。あとは戦争の現場にいる主観で戦争の怖さを映したかったから、相手はとにかく映さないようにしました。『アメリカン・スナイパー』は僕も観たんですが、やっぱりクリント・イーストウッドはすごいと思いましたね。いろんな捉え方がある映画ですけど、主人公の家族に「ちゃんと撮りますから」とご挨拶をしながらも、ヒーローを描いているフリをして、破綻するひとりの人間を描いているので、すごい監督だなと思いました」

質問「市川崑監督の『野火』も観たと思いますが、それはどう思いましたか?」

塚本監督「僕は高校生の時に観たんですけど、本当に堪能して。そもそも大好きな監督で、当時8ミリ映画を作ってたんですけど、露骨に影響を受けたような映画を作ったんですね。山上たつひこさんの『光る風』という劇画をモノクロで撮ったんですけど、これがものすごく影響を受けたような作品で(笑)。『野火』に関していうと、僕は自然の風景と人間の対比を描きたかったんですけど、市川監督の『野火』はあくまでも人間のありようについてカメラが接近している映画なので、かつてこんなにすばらしい名作があっても、作るのをやめようという気にならなかったですね」

質問「塚本監督の『バレット・バレエ』には都市と銃と生と死といった部分のテーマがあって、『野火』はフィリピンの風景などまったく真逆のシチュエーションでありながら、やはり生と死を描いていたり、銃撃シーンなどかなり共通点が見られたんですが、意識されていたのでしょうか?」

塚本監督「『バレット・バレエ』を撮ったのは今からもう17、18年前なんですけど、僕はあの頃から日本の風潮が少しきな臭いと思い始めていて。元々アンテナを立てていないので感じにくい方だと思うんですけど、それでも「ん〜?」と思い始めたのがその頃で、戦争というのを映画の中に感じ始めた時期の作品ですね。あれは戦争ということをまったく知らない僕ら世代と戦争をSFにしか感じない若い世代が、本当の痛みを知らないもの同士で抗争をしていて。最後に井川比佐志さんという戦争体験者が「君たち、何遊んでるの?本当の暴力はこれだ」と来るんですけど、彼が来たときに戦争の影が来る、という風にしたかったんです。今回は、痛みを感じることができなかった都市の生活にいた人たちがモロに原野の中に投げ込まれたっていう話にしたかったので、自分の中ではつながっているところがありました。そこで中村達也さんに出てもらったり、『バレット・バレエ』に出てもらった若者ふたりが戦争にいく形で『野火』に出てるんですけど、都市の閉塞感の中で現実を現実として捉えられなかった人たちに対して、「本当の暴力はこういうことなんだ、分かったか!」という意味合いのつながりを考えながら作りました」

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(当日会場に訪れていた、キャストの森優作さんもフォトセッションに参加)

塚本監督が今作にかけた思いや、過去作品との関連性も明らかになるなど、興味深いトークイベントとなっていました。
映画『野火 Fires on the Plain』は下高井戸シネマ、ポレポレ東中野ほか公開中です。

(文・取材:大谷和美)

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