驚かされるところにカタルシスがある―映画『残穢』中村義洋監督インタビュー
――主演の竹内結子さんは、ホラーが苦手だそうで、リングに出演して以来だそうですが、どうして竹内さんを選ばれたんですか?
直感ですかね。竹内さんとは何本もやっているので、彼女の暗いトーンとかを見てきたので、原作の"私”にちょうどよくハマるなというのが見えたんです。
――実際に撮影してみていかがでしたか?
年齢設定とかは原作と若干違うんだけど、ハマりましたね。小野さんと会う前に決めちゃってたんだけど、実際、小野さんに会ってみて、正解だなと思いました。雰囲気が実によく似ている。
――年齢設定が違うというと、橋本愛さんも原作では学生じゃないですよね。
そうですね。僕自体が若い子がいいと言ったわけじゃないんだけど、キャスティングを決める最初の段階で提案があって、やってみたいと思った。あと、竹内さんとの2人の並びを観てみたかったんです。
――それはどうしてですか?
美しいから。
――監督はこれまでも菜々緒さんなど、若手の女優さんを開花させるのが得意だというイメージがあるのですが、橋本さんとやってみて見立てた通りでしたか?
想像していた以上ですよね。すごく越えてきました。
――脚本をされた鈴木謙一さんとは、ホラー作品時代にタッグを組んでいた旧知の仲ですよね。
そうですね。ホラーは鈴木と一緒にやっていたし、小野さんもそれを知っていたからというのもありますね。
――やはり安心感があるという感じでしょうか?
普通に原作通りにやったら6時間ぐらいになるんですよ。何を落とすかとかそういうのを理論的に受け止めてくれるので、鈴木との仕事は楽しいですよ。
――まだ観ていない方には詳細が話せないのが悔しいのですが、特にラストに向かっていくあたり、あれはもう…ほんとうに嫌で嫌で(笑)
原作自体も途中から「見ても聞いても」というのが出てくるんです。読んでてやだなって思って。映画もそれと同じ感じにしたかったので、ああなった感じですね。実際には、その後の話みたいなのも脚本段階では用意していたんですよ。でも、色々考えた結果、あの終わり方が良いなと。
――監督は、原作の編集者よりも自分のほうが原作自体を好きだと、過去の作品で発言しているのを見たのですが、今回もやはりそうですか?
そうかもしれない。脚本の初稿が書き終わったあとに読んだり、クランクインのギリギリ前に読み直したりして、これに限らずだけど「自分の思っていたものを落としてないか?」ということを確認する。無意識で落としていたりするんだけど、その無意識も信じないといけないから、落としたことが結局正解だったりするんで。その再確認というのは毎回やるかな。そうこうしていくうちに、この原作の事を一番知っているのは俺?みたいに錯覚してくる(笑)
――今回観させていただいて、何が嫌だったって、ありとあらゆる事象が恐怖につながるじゃないですか。ほうきの音とか、もう二度と聴きたくないですよ…。
ほうきの音は、ものすごい何度も録りなおして、いくつかパターンを用意した中でのあれなんですよね。
――音には特にこだわったと?
特にほうきの音はずっとやっていましたね。何度も駄目だしして。
――あれって後から入れたものなんですか?
まず撮影に入る前に録音部が適当にほうきを使って録ったんです。それは役者さんに現場で撮影する時に聴かせるものとして。それで、最終的な音のミックス作業の時にあらたに作り、何種類かあるなかで、結局一番はじめのものをちょっと加工したものに決めました。
――録音部の方が適当に録ったやつですか?
そう。他のがなぜいけなかったかというと、怖がらせようと色々手を加えているんですよね。それをどんどんやっていくと、キャラクターというか、人というか、霊の意思みたいなものが見えちゃうんですよ。そもそも、あれは"ほうきの音”ではないしね。
――そうでした。ほうきの音ではなかったですね。
あくまでも単調が一番怖いというのに結構時間が経ってから気づいて、だったら一番はじめの音をもってこようとなり、再度聴いたら本当に単調で、まったく意思が感じられなくて、それが怖かった。
――監督がいつも言われているように、無理に作りこむんじゃなくて、自然なまま出すのがいいということに繋がるお話ですね。
それとは別かな(笑)
――あら(笑)
幽霊がなんで怖いかって、無差別とか理不尽とかってやつに近いからですかね。ホラー作品って、ヒロインと主人公がいて、自分が住む家とか行った先とかで襲われたりするじゃないですか?それをどう逃げるか、対処するかって話ですよね。
――ホラーをあまり見ない僕としては、完全にそのイメージですね。
それなら恐怖は向かってくるわけなんだけど、これは全然違う。心霊がその部屋に元からいるわけだし。何が怖いかって「こっちに向かっているのかどうか」が、わからないところなんですよね。だから、キャラクターを消して、人がやっている感じを廃してやったんです。
――作品を通していわゆる幽霊みたいな存在の印象が少なかったのが逆に怖くなったわけですね。
けれど、白い服とか長い黒髪とか、この作品には全然出てこないから難敵でしたよ。
――今後もホラー作品はまた撮りますか?
うん、やりたいと思いました。これは、昔は気が付かなかったことなんだけど、自分ひとりじゃないし、録音部とかスタッフのコントロールのさじ加減でこれだけ変わるって、普通の映画じゃできないですよね。もうちょっと役者さんに委ねたり、役者さんの気持ちとか空気感を求めたりするけど、そうじゃないですからね。どこまでくるか、どこでカットを切るかとかで、怖さとか仕上がりが違ってくる。なんというか、趣味の域というか、コツコツコツコツやっていく感じがすごく面白かったですね。またやりたいと思います。
――ホラー苦手な僕でしたけど、不思議とまた観たいと思いました。いや、観たくないけどまた観たいというか…。ホラーってまさにザ・エンターテイメントなんだなって。
ホラーが苦手で、観に行かなきゃいけない状態になって、それで観に行って怖くなかったら、それはそれで損した気分になりますよね?
――そうですね(笑)
僕は観るのが好きなんで、驚かされたりとかっていうところに、爽快感まではいかないけど、そこのカタルシスっていうのはあるんですよ。それをやらずに終わっちゃうと、僕はムッときますね。
――観終わったあと、正直ちょっと動けなかったです。最高に怖いホラー作品でした!
ありがとうございます。
映画『残穢【ざんえ】 ―住んではいけない部屋―』は2016年1月30日より全国ロードショー。
(C)2016「残穢-住んではいけない部屋-」製作委員会
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