スペシャル対談:『リップヴァンウィンクルの花嫁』岩井俊二監督インタビュー<前編>
岩井
「結婚式」とは、新郎新婦の二人が一緒になることを肯定する儀式。
親戚や友人、職場の人たちが集まって、みんなから「おめでとう!」って祝福されて。
でも実際どれだけの人が、なんの負い目もなく新郎新婦の席に座れるんだろう。なかなかそうでもないんじゃないか…とか、あれこれ考えてしまうんですよね。
ほら、よく結婚披露宴の定番で、新郎新婦の幼少期から現在までを感動的にまとめた映像を上映するじゃないですか。
絶対に言えないコトはカットされていたりするワケでしょ(笑)。
八雲
(笑)、そうですね。劇中の台詞でもありましたね。
「結婚式でいちばんのタブーは、不幸な部分をさらけ出すこと。キレイな思い出だけをつないでいくことが結婚式なんだ」って。
岩井
そうそう。だから人生の美しい部分だけを不自然なまでに凝縮した「結婚式」に象徴されるような“息苦しさ”が、日本の現代社会には蔓延している気がして。
八雲
七海はインターネットの出会い系サイトで知り合った男性と結婚します。
劇中でのSNSの在り方も、これまた現代社会の象徴のように感じました。
岩井
まぁ、SNS的なつながり方がどうなのか…という議論は、いろいろありますけどね。
新しく出てきた文明だから、賛否両論あるのはもちろん分かるんですよ。
じゃぁ、現代よりも以前の文明や社会の成り立ちというのが健全だったのかと言えば、これもいろいろあるわけで。
もしこれが“インターネットを介して知り合った彼氏”ではなく、電車の中で知り合ったとしたら…。
また、マンションの隣人として知り合ったとしたら…。
それで、その人と付き合ってたかと言ったら…。
八雲
付き合ってないですよね。
岩井
うん。電車の中のようにお互いが干渉し合わず、言葉も交わさない、目も会わせないような社会空間ってのは沢山あるわけで。
昔だったら“近所の良しみ”みたいなのがあったけど、いまでは都会のマンション事情のように完全に隔離されて、
むしろ他人である方が居心地がいいという現実もあって。
同時に、都会の孤独感みたいなものも存在するわけですね。
そこに登場したSNSには、その孤独感を癒す効果があった。
まったく顔を合わせたことがない他人同士がある場面で突然、言葉を交わし合ったんですよ。SNSを通じて。
八雲
考えてみれば歴史的な出来事ですよね。
しかも「顔見知りでないからこそ、気軽に話すことが出来る」なんて、これまでの文明では起こりえなかった発想ではないかと思います。
岩井
不思議な現象が生まれてるんですよね。
だって映画館ですら、せっかく同じ空間で同じ映画を共有しているのに、観終わって出て行くときはみんな他人じゃないですか。
八雲
まぁ、「この映画、良かったよね」とか、知らない人同士で会話をすることはないですね。
岩井
そこはみんな、うつむきながら去って行く…という(笑)。
八雲
(笑)。
岩井
それくらい他人同士が仲良くなるコトって難しいはずなのに、SNSはそれをいともあっさりと、易々とハードルを越えてしまった。
八雲
そうですね…。
岩井
だからSNSというものだけを見つめてその是非を考えるんじゃなくて、元々あった世界そのものから疑ってみると、SNSというモノがどういう位置にあるのかが分かるような気がしたんですね。
それも、この物語を借りて描きたかったひとつのような気がします。
つづく…。
次回は、岩井俊二監督と共に映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』の世界を構築したキャスト陣の魅力に迫ります。
リップヴァンウィンクルの花嫁
2016年3月26日(土)公開
監督・脚本:岩井俊二
出演:黒木 華、綾野 剛、Cocco、原日出子、地曵 豪、毬谷友子、和田聰宏、佐生有語、夏目ナナ、金田明夫、りりィ ほか
原作:岩井俊二『リップヴァンウィンクルの花嫁』(文藝春秋刊)
©RVWフィルムパートナース
岩井俊二プロフィール
1963年生まれ。1988年よりドラマやミュージックビデオ、CF等多方面の映像世界で活動を続け、その独特な映像は“岩井美学”と称され注目を浴びる。
映画監督・小説家・作曲家など活動は多彩。
監督作品は『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』(93)『Love Letter』(95)『スワロウテイル』(96)『四月物語』(98)『リリイ・シュシュのすべて』(01)『花とアリス』(04)
海外にも活動を広げ、『New York, I Love You(3rd episode)』(09)『ヴァンパイア』(12)を監督。
2012年復興支援ソング「花は咲く」の作詞を手がける。
2015年2月に長編アニメーション『花とアリス殺人事件』が公開し、国内外で高い評価を受ける。
八雲ふみね fumine yakumo
大阪市出身。映画コメンテーター・エッセイスト。
映画に特化した番組を中心に、レギュラーパーソナリティ経験多数。
機転の利いたテンポあるトークが好評で、映画関連イベントを中心に司会者としてもおなじみ。
「シネマズ by 松竹」では、ティーチイン試写会シリーズのナビゲーターも務めている。
八雲ふみね公式サイト yakumox.com
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