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「俳優・塚本晋也は、 監督から見て実に良い俳優!」、『野火』Blu-ray&DVD発売記念、塚本晋也監督インタビュー


南方戦線を舞台としながら
ヒンヤリとしたクールな世界観


結果として映画『野火』は、右にも左にもぶれない、極限状況における人間の愚かさや痛みみたいなものを生理的に追求し得た作品になっているように思えます。

「もともと社会的思想がどうこうといったものは自分の中にありませんし、最初からそういうものを入れるつもりもありませんでした。ただし一方で『戦争ってイヤだ!』という想いだけは強く持っていますので、それに関しては誰も文句のいえないところだと思います。あとはご覧になったみなさんそれぞれ自由に感じていただければ幸いですが、僕としてはとにかく大岡昇平さんの素晴らしい原作を読んでインパクトを受けたときの自分と同じ感情を、観客のみなさんにも追体験していただきたかったのです。実際、製作初期には『また日本の兵隊さんを卑下した映画を作ってる』と批判する声もありましたが、見てもいない作品を簡単にカテゴライズして“反日”と叫ぶような行為そのものが、今の社会の一番良くない状況を象徴しているように思いますが、そんな状況に『野火』は一石を投じたかったのだと思います」

昨年は戦後70周年ということで、さまざまな戦争映画が作られましたが、その中で『野火』は戦場での飢餓をはじめとする地獄を描いた点で反戦映画として屹立していますが、一方で人間の肉体が無残に崩壊し、変わっていくさまを隠さず捉えています。これは塚本作品に通底するテーマのようにも思えます。

「そうですね。もともと原作に惹かれたのも、そういったところもあったのかもしれません」

戦闘シーンの残虐さを、また腐乱死体の特殊メイクなども精巧に作られていました。

「戦闘シーンは一度撮り終えて編集していたとき、まだ戦争の恐ろしさが足りないと思って、斃れた兵士の脳みそを踏んづけるなど一連のシーンを追加撮影しました。死体も凝りましたね。ボランティアのスタッフも、結末がどこにあるのかわからないまま、いつまでもこだわり続けてやってくれていました(笑)」

作品の趣向として、南方のフィリピン戦線を舞台にしていながら、登場人物が誰も汗をかいてないのが非常にユニークでした。

「そうですか⁉(笑)実は撮影中、汗とかを気にしている暇もないほど何もしてないんです。今までの僕の映画は汗が非常に大事で、むしろ汗をくっつけてテカテカさせ、さらにその上から霧吹きをかけたりすることも多いのですが、今回はあまり必要を感じなかった。
衣裳も濃い色で濡れているような状態の色合いなので、汗をかいても見えない。あと、実は衣裳の数自体があまりなかったので、撮影が終わったらすぐ乾かすみたいなこともやってたし、とにかくあまり汗をかかれては困るという前提で、現場ではいろいろ加工したんですよ。あまり汗臭くならないようにとか(笑)」

しかし、そういった結果として汗のない世界観によって、南浦戦線を舞台にしながらもどこかヒンヤリした感触の映画になっています。これは塚本映画の特色ともいえるもので、またこれによって灼熱地獄よりも飢餓地獄が際立ち、それがカニバリズムの描出の、より強烈なインパクトに結びついているように思えてなりません。

「不思議なこともあるものですね(笑)。確かに汗とか、灼熱の中で既に蒸発しちゃっているイメージがあったかもしれませんが、とにかく現場ではあまり汗をかかなかったし、無理に軍服に汗じみをつけようという気持ちにもならなかった。むしろスカッとした青い空と明るい日差しの下、美しい緑の大自然の中で全てが赤裸々にさらされ、人がグチャグチャになっていく不快感のほうを重要視していたような気がします」

また原作には何某かの宗教観が描出されていましたが、映画のほうはそういった台詞などを排しつつ、むしろより強く宗教観が醸し出されているように思えます。

「そう思っていただけるとありがたいです。原作に文字で書かれていることを、映画はすべて画に置き換えていますので、ロジカルには宗教的なことは描いてないのですが、大自然の風景とかの中に何か“匂う”ものを普遍的な雰囲気として入れてみたつもりです。また原作の宗教色をそのまま出すと、客層が限定されてしまうような危惧も感じていましたので、それよりは何か苦しいこととかあると『嗚呼、神様!』なんてお祈りとかしながらも基本的には無宗教的な、そんな自分を基準にしてみようと。何よりも主人公の田村が教会の中で人を殺すとき、背景にキリストがいる。それだけで十分ではないかと思いました」

汗が存在しないクールな世界観と宗教色によって、個人的にはスタンリー・キューブリック監督の戦争映画『フルメタル・ジャケット』(87)とも相似する、あたかも神の目線から人間の愚かしさを観察しているような印象も受けます。

「自分としては意識してなかったですけど、キューブリックは大好きな監督ですので、どうしても体にしみているものが出てしまうのかな? 戦争映画という点では、今回はむしろ『地獄の黙示録』や『ディア・ハンター』(78)『プラトーン』(86)などのほうが影響を受けていると思っているのですが、もともとキューブリックのあの冷たい雰囲気は自分としてはたまらないものがありまして、実は『東京フィスト』(95)を作るときも、『フルメタル・ジャケット』の前半は軍隊の訓練、後半は戦場での戦いといった構成に倣って、前半はしょうもない練習風景、後半は試合シーンと、ドキュメント・タッチでやろうと考えたこともありました」

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