2016年05月24日

日本映画の企画・製作について語り合う—後篇−
 塩田明彦×斉藤守彦対談


日本映画の企画・製作について語り合う—後篇−
 塩田明彦×斉藤守彦対談



「全国公開作品になった途端に、企画の幅が狭まってしまう」


どうしても、映画を作る大元である「企画」についての話になってしまう。それは監督である塩田さんだけでなく、現在大手映画会社が最も頭を抱えている問題だからだ。マーケットの拡大こそ実現したが、ではどんな映画を作ったら良いのかが分からないという、このジレンマについて。
 
斉藤 この本を書いていて、他の映画書にはないこととして「経営」ということを意識して書きました。僕は、所謂ワンマン経営というのは正しいと思っています。

塩田 実は僕も密かにそうじゃないかと思っています。

斉藤 映画会社の経営って、ワンマンでなければやっていけませんよ。皆でつながって経営しましょうなんて、まったくダメですよ。「オレについてこい!!」でないとうまく行かない。

塩田 そうなんですよ。企画ってどこか「極論」がないと魂が宿らない。地ならしすると、企画が死んじゃうんです。年間2本立て興行で、52本×2週間代わりだと、色んなことが出来るんですけど。

斉藤 そうですね。プログラム・ピクチャーとまでは行かなくても、もうちょっとでも予算を削って、作り手の主体性を作品にこめることは出来ないかと思います。

塩田 その試みのひとつは、今回の日活ロマンポルノです。

斉藤 やっぱり撮影所を持っているのは強いですよね。

塩田 相当強いです。だいぶ小さくなりましたけど。

斉藤 監督として映画会社の人と話をしていて、企画という点については、問題意識を感じるわけですね。

塩田 全国公開作品になった途端に、企画の幅が狭まってくるというのは、監督だけじゃなくて、テレビ局のプロデューサーや、大手映画会社の人も、みんな感じていることなんですよ。皆感じてるいんだけど、なかなか突破することが出来ない。一方、かつて単館系と言われた、「月光の囁き」とか「害虫」とか撮っていた90年代は8000万円から1億円かけてペイする枠があったんです。でも今はありません。(製作費が)一時期5000万円まで下がって、今、2000万円、3000万円まで下がっています。これだともう、生活していけません、スタッフも監督もキャストも。

斉藤 予算によって、作品の出来に影響しますか?

塩田 します。するけれど、これがまた難しいのは、予算って絶対的な基準がないんです。多ければ良いというわけでもないし、少なければダメとも言い切れない。一時期三池崇史監督が言っていましたが、かつてVシネマという、復活したプログラム・ピクチュアの土壌があったじゃないですか。

斉藤 はい。

塩田 Vシネマというのは、だいたい3000万円から5000万円の枠内で、ある程度自由に出来る。そこで本来は8000万円かかるアクションを4000万円で撮る。三池さんはそういうのがうまかった。「ここまでやれるんだ!?」というのを作っちゃう。8000万円かかるものを4000万円で作る時には、現場の体力努力智恵とすべてを振り絞って埋めるのは可能だった。でも8億円かかるものを4億円でやれって時に、この4億円の差額はハマらない。低予算の現場だから予算がなくて、予算があるから自由だというのは大嘘で、予算が上がるほどキツくなっていくことが、映画の世界では起こるんです。
斉藤 前は3000万円で1本撮れたんだから、今度は予算2000万円ってことはありますか?

塩田 あります。その連鎖はあります。たまに予算が上がるけれど、また下がる。

斉藤 負のスパイラルですね。

塩田 負のスパイラルだけど、結局監督は撮りたいからどんな予算でも撮りますが、僕なんてまだだいぶ恵まれているほう。一方で全国公開の映画を何年かに一度撮れて。「抱きしめたい・真実の物語」とか、監督としてかなりの自由を与えられて撮っていますし。その一方で低予算ながらオリジナルの作品を、ここんとこ3,4本撮れているから、そういう意味ではすごく恵まれています。このまえ撮った日活ロマンポルノも予算は決して潤沢ではありませんけど、すごく気に入った作品が作れて喜んでいます。斉藤さんにも早く観てほしい(笑)。



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