今は亡き二人の偉大な監督が描いた原爆後の世界

先月27日、アメリカのオバマ大統領が現職の大統領としては初めて、広島を訪問し、平和記念公園で原爆死没者慰霊碑に献花をしたことが、日本のみならず世界中で大きな話題となった。


戦後71年が経ち、当時の戦禍を直接的に知らない世代の我々〝戦争を知らない子供たち〟にとっては、戦争の凄惨さを知り、後世にそれを残していくツールとして、映像というのは非常に重要なもののひとつである。

これまで数多の戦争映画が作られ、世界大戦から内戦まで数多くの戦争の実情が世界に放たれてきた。例外なく広島の原爆も、今村昌平の『黒い雨』や新藤兼人の『原爆の子』を筆頭に描かれ、それまであまり多くなかった長崎原爆をテーマにした作品も、近年は山田洋次の『母と暮らせば』や森崎東の『ペコロスの母に会いに行く』と登場した。

今回は、今は亡き二人の偉大な監督が、異なる視点から原爆後の世界を描いた映画を2本紹介したい。

アラン・レネ
『二十四時間の情事』


一本目は、フランスのアラン・レネが外国人の視点から原爆直後の広島の街を描き出した『二十四時間の情事』である。

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反戦映画に出演するために広島を訪れた女優と、偶然出会った日本人の男が惹かれ合うというプロットだけを目にすると、凡庸なフランスの恋愛映画の様相を思い浮かべる人も少なくないだろう。しかし、マルグリット・デュラスが紡いだ脚本は、我々の想像を凌駕する境地に達する。

ヒロインは常に広島で見た光景の数々に打ちのめされ、自身がフランスで体験した戦争の記憶とそれをリンクさせていく。そしてセリフの多くが「ヒロシマでそれを見たの」と語るヒロインに、男は「君は何も見てはいない」と否定的な返答を繰り返す。

このようなやりとりは、アラン・レネの長編2作目『去年マリエンバートで』でも極めて重要な要素となっており、個人的にはこれを〝ネガティブ・リターン〟と呼んでいるのだが、それが確立されたこのデビュー作では、そういった複雑な会話の応酬に、実際の広島の資料映像が映し出され、強烈な印象を残す。

このアラン・レネは、ヌーヴェルヴァーグ初期から活躍するドキュメンタリー出身の作家の一人であり、代表作として知られているのはやはり『夜と霧』であろう。その『夜と霧』ではすでに廃墟と化したアウシュビッツの収容所を映し出し、生々しいほどに残虐な光景を世界に発信した。

本作でも、原爆投下から13年後の広島の街を隈なく歩き回り、形を取り戻した街の光景と、原爆投下直後の街の映像を織り交ぜることで、紛うことなく戦争そのものを根本から否定しているのである。

深作欣二
『仁義なき戦い/代理戦争』


そしてもう一本は日本映画から紹介したい。戦後の広島の街を舞台にした、反戦映画の傑作シリーズ『仁義なき戦い』から、3作目である『仁義なき戦い/代理戦争』である。

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言わずもがな、深作欣二が描き出したヤクザ映画の傑作と称されるこのシリーズは、決して陳腐な暴力描写を売りにした映画ではない。戦後広島の街で、暴力でしか生きることができなかった男たちの愚かさを描き出した悲劇なのである。

晩年の『バトル・ロワイアル』の時に、自身の15歳のときの戦争体験を投影した深作欣二が、それ以前に反戦への強いメッセージを込めた作品がこのシリーズであり、とくに『代理戦争』なのだ。

市街地でのゲリラ撮影による襲撃シーンから始まるこの3作目は、広島抗争の皮切りとなるエピソードを描いている。時代設定は1960年以降なので、前述した『二十四時間の情事』よりも後の広島で、実際に起きた物語を再現したということになる。撮影こそ、厳密に広島で行っているわけではないが、ドキュメンタリータッチの臨場感ある映像テクニックと、徹底的に追求されたリアリティによって、戦後広島の闇の部分をまざまざと見せつけられるのである。

本作がシリーズで最も反戦要素が強いと言える所以は、何と言ってもラストシーンである。若い組員の葬儀が襲撃され、地面に散らばったまだ熱い遺骨を握りしめる広能昌三(菅原文太)の悲痛な表情と同時に、原爆ドームがカットバックされる。

そして流れるナレーションが、「戦いが始まるとき、まず失われるものは若者の命である。そしてその死は、ついに報われた試しがない」。戦争という途方もない暴力と、その果てに生み出された新たな暴力の存在を認識しながらも、それでも暴力でしか生きられない男たちの矛盾に苦しむ姿。しかもそれが、はっきりと画面上に出現する怒りとなって描き出されるこの映画を、現代の無意味な暴力や、無意味な叫びを多用する映画はきちんと手本にしなくてはいけない。

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