人の人生に寄り添うものでありたい―是枝裕和監督シネマズ独占インタビュー
読後感のある映画を目指して
――今回、Blu-rayとDVDが発売されますが、映画って劇場で観て終わりだけど、ソフト化されることで手元に置いておけますよね。以前、音楽プロデューサーの浅田祐介さんという方が「音楽は携えるものだと思う」という発言をされていたのですが、しかし映画は携えることは出来ない…。
いや、映画もそうでありたいと思っていますよ。人の人生に寄り添うものでありたいと。
――しかし、ソフトとなって発売されるまでは、持ち歩けませんよね?
観終わったあと、劇場を出ても引きずる映画ってありますよね。劇場を出た後に、風景が変わる経験。持ち歩かなくても、同じ経験はできると思いますし、そういうものを目指しています。
――では監督にとって、風景を変えられた印象深い作品とは?
ヒッチコックの『鳥』ですね。初めて観た直後は、電線に止まっているカラスが、いつ襲ってくるかと気になって仕方がなかったのを覚えています。
――強烈な作品ですよね。今でも鳥を見ると怖くなる時があります。
あの作品は、何で鳥が襲ってくるのか最後までわからないんです。突然襲ってきて、突然やめる。理由が無いんですよ。パニック映画って、ほとんどの作品に理由があって、解決策がある。だけど『鳥』は、なんで襲ってきたか分からずに、車で静かに去っていくだけじゃないですか。だから、余計怖いんですよ。
――監督に影響を与えたのがパニック映画だというのは意外でした。
ジャンルは全然違うけど、普段見過ごしているものが違って見える、ということが時々起きるといいなと思っています。今回の作品では、台風が去った後に、団地の芝生が違って見える、そんな読後感の映画にしたいと思いました。観終えた後、そんな風になればいいなと。
次回作は法廷モノ「チャレンジですね」
――再びタイトルの話に戻るのですが、タイトルの一節は「愛」へとつながるフレーズですよね。本作でも、多くの「愛」が描かれていますよね?
テーマのひとつは、愛ですね。まずひとつは、父親の愛情が遅れてやってくるというもの。亡くなった後になって思い返すことで、感じる愛情。そして、もうひとつが、べったりと現在進行系で寄り添う母親の愛情。だからこそ、鬱陶しいというのもある。この2つの愛情が、映画の中にあると思ったので、そこに繋がっていくといいなという思いもありました。
――しばらく家族モノは撮らないそうですが?
分からないですね。やりたくなったら、やりますよ(笑)
――次に撮るのは法定モノだそうですね。
自分自身は、あまり家族モノの作家だと思っていないのに、そういう風に思われているようで。だから、イメージチェンジしようかなと。色々な題材を撮りたいと思っているので、次はチャレンジですね。
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(取材・文/黒宮丈治)
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