映画コラム
2016年の“アニメだけの”映画ベスト10
2016年の“アニメだけの”映画ベスト10
2016年は映画の豊作の年!アニメーション作品だけに絞っても、大好きで大好きでしょうがない傑作がたくさん生まれました。ここでは、個人的な“2016年のアニメだけの映画ベスト10”を紹介します。
10位:『アーロと少年』
(C)2016 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
主人公とその相棒となる恐竜が、故郷へ帰るための冒険をしていく物語です。日本の予告ではハートフルな友情物語を想像するかもしれませんが、実は大自然でのサバイバルの要素のほか、子どもには(いい意味で)トラウマになってしまいそうな残酷な描写もありました。
そのもっとも大きな魅力は、3DCGアニメで雄大な自然の美しさを描き出したことでしょう。冒険の様子は、まるで広大なアメリカ大陸を旅行しているかのよう。その道中では大きな傷を負ったり、命が奪われたりと、“自然の過酷さ”や“残酷な世界”までもがしっかりと描かれていました。
また、主人公2人が腐ってお酒になった果実を食べてヤバい幻覚を観るという子ども向けとは思えないシーンもあったりします。今年のアニメ映画では『ソーセージ・パーティー』と『ペット』でもドラッギーな幻覚描写がありましたね。
9位:『父を探して』
全編においてセリフとテロップがまったくない映画です。ストーリーは“少年が、出稼ぎにでてしまった父親を追いかける”というシンプルなのですが、色鉛筆や油絵具などを使い分ける“手描き”の画はとにかく楽しく、何らかのメタファーが隠されているような奥深さもありました。
世界が急に真っ黒になるホラーのような演出や、独裁政権下の国家を思わせる“過酷な労働が強いられる工場や村”も登場したりします。アニメーションで“世界の縮図”を恐ろしい形で映し出しているということも、見所になっているのです。
そして、キャラクターがとにかくかわいい!特に主人公の少年は、丸顔で、手や足は棒のようで、ほっぺたが赤く染まっているというルックス。「萌え殺す気か!」と思うくらいのキュートさでした。
8位:『コウノトリ大作戦!』
(C)2016 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
今では赤ちゃんのお届けを禁止しているコウノトリ宅配便社に、赤ちゃんの申込書が届いたことから始まるドタバタコメディです。
空や洞窟や川などを進んで行くワクワクドキドキのアドベンチャーとしても楽しくって仕方がないですし、業績を重視しなければならないサラリーマンの世知辛さや、すべての働く大人たちへのメッセージもあることがまた素晴らしいですね。親御さんが観てみると、子どもとの接し方について反省してしまうかもしれませんよ。
また、“会社の同僚の凸凹コンビが、赤ちゃんを両親の元に送り届ける”というプロットは『モンスターズ・インク』にそっくりですが、“赤ちゃんの到着を待つ男の子の視点”を入れていたり、ヒロインも家族の愛情に飢えているという描写があったりと、きっちり差別化もできていました。『モンスターズ・インク』のキャラクターが大好きだったという方にもオススメします。
7位:『GANTZ:O ガンツ:オー』
(C)奥浩哉/集英社・「GANTZ:O」製作委員会
3DCGアニメでしかできないアクションが大盤振る舞い、96分間それがぶっ続く最高の娯楽アニメでした!カメラワークも綿密に計算されており、妥協を感じるシーンは1つとしてありません。その興奮度は「こんなに幸せな戦闘シーンを、こんなにたくさん観てもいいんですか!」と心の中で叫んだくらいです。
原作コミックの『大阪編』を再構築して、1本の映画として完成させた脚本も見事。原作ファンはもちろん、初めて『GANTZ』という作品に触れる方であっても、満足できるシナリオに仕上がっているのではないでしょうか。
PG12指定で許される限界ギリギリのエログロ描写にしたのも大正解でしょう。残酷なゲームに巻き込まれてしまう人間たちの物語として、抜群の完成度を誇っていました。
6位:『クレヨンしんちゃん 爆睡!ユメミーワールド大突撃』
(C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2016
本作の舞台およびテーマは“夢”ですが、決して楽しい夢だけを描いていません。“悪夢障害”に苦しむ少女がヒロインになっており、大人こそがギョッとできるホラー描写まであるのです。どれだけ怖いかと言えば、今年に公開された秀作ホラー『イット・フォローズ』や『ドント・ブリーズ』よりも冗談抜きで恐ろしいと思ったくらいなのですから……。ちなみにアラフォーにしか通じないギャグまでもあって、本当に子ども向けなのか疑わしくなります(笑)。
アニメーションであることの意義も大きいです。それは、具現化しにくい夢というものを表現するだけでなく、子どもにもわかりやすく登場人物の心情を描けているから。アニメで、しかも親しみやすい『クレヨンしんちゃん』という題材でこそ、このテーマを描いた意義があるのです。
ほぼすべてのセリフに意味があるという伏線の巧みさ、お調子者のしんのすけが時折見せるやさしさ、ひろしとみさえのカッコよさ、“かすかべ防衛隊”がシリーズ随一の活躍を見せることも最高でした!エンドロールでも重要なシーンがあるので、そこにも注目してみてください!
5位:『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』
(C)Cartoon Saloon, Melusine Productions, The Big Farm, Superprod, Norlum
アイルランド製のアニメで、幼い兄妹のふたりを主役とした冒険活劇です。絵本そのままのような絵がなめらかに動き、唯一無二の世界を見せてくれます。『千と千尋の神隠し』や『崖の上のポニョ』などを彷彿とさせる“ジブリっぽい”シーンがあるのもたまりません!
それでいてオリジナリティも抜群で、終盤のあるシーンは涙が出てくるような美しさがありました。主役の2人の関係性が徐々に変化していくのが微笑ましく、ピンチにハラハラドキドキし、思いがけぬ展開に驚いたりと、娯楽映画としての要素もたっぷり。親子で観る作品としても最適なのです。
なお、監督はこの映画を作ったのは、アイルランドの“伝承”を蘇らせることも目的であったと語っています。現代の文明が進み、おとぎ話を語る人が少なくなってきた、そうであるからでこそアニメーションでアイルランドらしい伝承をいまの子どもたちに知ってもらおうという……そんな志にも溢れているのです。
4位:『この世界の片隅に』
(C)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
SNSを中心にした口コミで評判を呼び、公開館数が少ないにも関わらず、公開7週目でも興行収入ランキングは10位をキープ。今年のベストどころか、生涯のベスト映画に挙げる方も多く、まさしく2016年の映画を代表する1作と言えるでしょう。
そのジャンルを分類すれば“戦争もの”になるのですが、この作品は戦争に向かう兵士の様子ではなく、あくまで戦争中の日常生活を描いています。しかもその生活は決して悲惨なものではなく、クスクス笑えるシーンも多いのです。
しかし、時代は太平洋戦争の真っ只中というわけで……徐々に戦争の姿が顔を見せ、“あの日”へのカウントダウンも進んでいきます。この戦時中の空気を、原作コミックそのままの雰囲気の、かわいらしい(だけど空襲のシーンはとことん怖い!)アニメーションで観られるということは、いままでにない、唯一無二の体験になるはずです。
主役を演じたのん(前:能年玲奈)のハマりっぷりは、誰しもが思うところでしょう。そのほわほわした声の雰囲気が、この「いつもぼーっとしてるけえ」と言っている主人公とマッチしすぎで、彼女以外にはこの役は考えられないと思うほどでした。
3位:『君の名は。』
(C)2016「君の名は。」製作委員会
もはやその名を知らない人はいないと言える、社会現象にまでなった作品です。今までの新海作品に比べて圧倒的にテンポがよくなり、キャラクターはかわいらしく表情をコロコロと変え、まるで“感情のジェットコースター”に乗ったかのような高揚感もある、とことんエンターテインメントに徹した作品になったことが、歴史に残る大ヒットを記録した理由なのでしょう。
SF(ファンタジー)的な設定を、ラブストーリーと絡めて展開するという作風も大好きでした。主人公たちの問題をそのまま世界の危機と絡める物語は“セカイ系”と呼ばれるのですが、この『君の名は。』はそのセカイ系の究極、理想的な作品とも言えるのではないでしょうか。
かなりの賛否両論もあった作品ですが、それも特大ヒットの要因であり、勲章みたいなものでしょう!「この怒涛の展開を、最高のアニメーションで創り出したい!」というスタッフの想いが伝わる大傑作でした。
2位:『ズートピア』
(C)2016 Disney. All Rights Reserved.
キャラクターみんながかわいらしく、その世界を観るだけで楽しくってしかたがなく、ミステリーとしてもおもしろく、“差別と偏見”にまつわる奥深さもあると、その完成度はもう「優等生すぎるよ!」、「欠点がなさすぎるよ!」と逆に文句を言いたくなるレベルでした。
悪人を一元論的に悪と決めつけてしまうのではなく、“誰もが問題の当事者になってしまう”、“誰もが誰かを傷つけてしまう可能性がある”というメッセージがあることも大好きです。差別や偏見を扱った映画の多くは大人向けですが、それを子どもにもわかりやすく伝えるのが実に上手い!
なお、字幕版と吹き替え版ではけっこう違った印象があります。どちらかだけしか観たことがないという人は、ぜひソフト版で観比べてみてください。特に、エンディングでは新たな気づきがあるはずですよ。
1位:『聲の形』
(C)大今良時・講談社/映画聲の形製作委員会
聴覚障がい者へのいじめが描かれた作品ですが、本質的なテーマは“繋がりたいのに繋がれない”という“コミュニケーション”と言っていいでしょう。いじめの話と聞いて、「辛い作品なんだろうな」、「鬱になっちゃったらどうしよう」と身構えている方はたくさんいるでしょうが、そう思った人にこそ観てほしいです。確かに辛く、苦しいシーンも多いのですが、その感情があってこそ、ラストの感動があり、前向きになれるメッセージを受け取ることができるのですから。
この作品で何よりも思ったことは「死にたい」、「自分に価値がない」と思うことは、この世のどんなことよりも悲しいことだということです。そういう気持ちになる少年少女はたくさんいます。そうして傷ついた子どもたちにも観て欲しいです。自己や他者をほんの少しだけでも肯定でき、いじめや自殺をこの世から減らす力を、この映画は持っているのですから。
原作コミックからのエピソードの取捨選択と再構築もほぼ完璧。『君の名は。』が過剰なまでの力強い言葉と怒涛の展開で攻めるエンタメ作品なら、こちらは“言葉で語りすぎない”文芸的な作品の趣きをも感じさせます。
ラスト5分はもう泣きっぱなし。映画が自分自身の人生とシンクロすることはままありますが、本作もそうした作品の1つになりました。一生大切にしたい、この世で一番大好きな映画です。
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(文:ヒナタカ)
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