映画コラム

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2017年06月25日

『ボンジュール、アン!』で監督デビュー。華麗なるコッポラ一族と女優ダイアン・レイン

『ボンジュール、アン!』で監督デビュー。華麗なるコッポラ一族と女優ダイアン・レイン

■「〜幻影は映画に乗って旅をする〜」

ボンジュール、アン!


(C)American Zoetrope,2016


ハリウッドが誇る〝華麗なる一族〟といえば、ジョン・バリモアを筆頭に90年代にスターダムにのし上がったドリュー・バリモアを輩出したバリモア一族や、オスカー俳優ヘンリー・フォンダを筆頭にしたフォンダ一族などが挙げられる。しかしその中でも最も華々しいのはコッポラ一族で間違いない。

『ゴッドファーザー』や『地獄の黙示録』のフランシス・フォード・コッポラを父に、娘は先日のカンヌ国際映画祭で監督賞に輝いたソフィア・コッポラ、ウェス・アンダーソン作品の脚本で知られる長男のローマン・コッポラ、フランシスの父は作曲家のカーマイン・コッポラで、『ロッキー』のエイドリアンことタリア・シャイアがいて、ニコラス・ケイジもこの血筋に入る。名前を並べていくだけで、こんなに楽しくなってくる一族が他にあるだろうか。

そんな中で、ドキュメンタリー作家として活躍していたフランシスの妻エレノア・コッポラが劇映画デビューを果たしたのである。

<〜幻影は映画に乗って旅をする〜vol.38:『ボンジュール、アン!』で監督デビュー。華麗なるコッポラ一族と女優ダイアン・レイン>

ボンジュール、アン! サブ2


(C)American Zoetrope,2016


映画プロデューサーの夫ともにカンヌ国際映画祭を訪れたアン。ところが夫は撮影の仕事が入ってしまいブダペストに飛ぶことに。アンもそれに付き添っていこうとするが、ひどい耳鳴りのせいで飛行機には乗れず、夫の仕事仲間のジャックとともに陸路でパリを目指す。ところがこのジャックは気まぐれなフランス人男性。美味しい食事や観光名所をアンに紹介しながら、その道中はちょっとした小旅行になっていくのである。

フランスを舞台にした作品となると、日本人特有の憧れ意識に漬け込んで、よく邦題に「パリ」が使われるというジンクスがあるが、本作は原題の『Paris can wait』からあえて「パリ」のワードを排除し、それとなくフランスが舞台であると判るニュアンスに変えているというのも好感触だ(まあ、パリにいつまで経っても着かない話だからというのもあるのだろうが)。しかも、他のどんな「パリ」が付けられた作品よりも、フランスの空気感を味わうことができよう。
南フランスのカンヌから、リヨンを経てパリへの道のりを、すぐ息があがるオンボロの車で向かう。普通ならば数時間でたどり着く距離を、2日かけてじっくりと楽しんでいく上品なロードムービーに、映画を見ているだけで一緒に旅をしている気分になってしまうものだ。

本作で主人公に抜擢されたダイアン・レインといえば、駆け出しの女優だった10代の頃に、フランシス・フォード・コッポラの作品に相次いで出演。当時フランシスは破産を繰り返すほどの低迷期に陥っていたため、興行的にも批評的にもヒットに恵まれず、おかげでレインも今ひとつブレイクできずに女優を休業することになったわけだ。そんな因縁じみた過去がありながらも、またしてもコッポラ一族の作品に彼女は戻ってきたというのは嬉しいところ。
そういえば、10年以上前に彼女が『運命の女』で再ブレイクを果たした直後に主演した作品も、今作のような観光映画であった。

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この『トスカーナの休日』では、ダイアン・レイン演じる夫の浮気にショックを受けた女性作家が、友人の勧めでイタリアのトスカーナ地方を一人訪れる。あまり気乗りせずにツアーに参加していた彼女は、町外れにある荒れ果てた屋敷に魅力を感じ、その場で衝動買い。家の修復に没頭していく彼女は、現地の人々との出会いによって傷心を癒していくのである。

アメリカ人から見たヨーロッパへの憧れが思う存分詰め込められているという点は今作とよく似ている。しかも、イタリアを舞台にフェデリコ・フェリーニの『甘い生活』へのオマージュを捧げる『トスカーナの休日』に、フランスが誇る映画の原始リュミエール兄弟への愛情を垣間見せる『ボンジュール、アン!』。やはり映画の歴史に触れることも、観光映画では欠かせない部分であろう。

この当時まだ30代だったダイアン・レインは、今回の『ボンジュール、アン!』ではすでに52歳。とても信じられないほど、その美貌をキープしているではないか。監督のエレノア・コッポラも81歳にして初の劇映画デビューを果たす(おそらく女性監督の初監督作としては史上最高齢ではないだろうか)だけでなく、キャンペーンで来日するほど元気な女性だ。ヨーロッパの穏やかな気候の中でのびのびと生きる女性の姿を描き出した映画の監督と主演が、揃って美しく溌剌としているなんて、作品のイメージを裏切らずに、実に清々しい気持ちになれる。

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(文:久保田和馬)

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