実写版『心が叫びたがってるんだ。』は原作アニメ・ファンも必見の快作!
(C)2017映画「心が叫びたがってるんだ。」製作委員会 (C)超平和バスターズ
マンガやアニメの実写映画化なんて、今ではもう珍しくも何ともありませんが、まさか2015年9月19日に公開されるや、興収11億円を超えるクリーン・ヒットとなったオリジナル・アニメーション映画『心が叫びたがってるんだ。』が実写映画化されると聞いて、驚かれた方はさぞ多いことかと思われます。
そしてついに完成し、7月22日から堂々公開となる実写版『心が叫びたがってるんだ。』は……
《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.245》
原作たるアニメ映画版のファンも必見の快作に仕上がっていました!
オリジナル・アニメ映画を原作とする
前代未聞の実写映画化作品
『心が叫びたがってるんだ。』、通称『ここさけ』は、いわゆるマンガや小説などの原作・原案を持たない完全オリジナル・アニメーション映画ですが、こういったオリジナル作品が劇場用映画として製作されること自体、最近の日本映画界では珍しいことではあります。
これには、その前にテレビ&映画で発表された『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない』が成功を収め、その監督・長井龍雪、脚本・岡田麿里、キャラクターデザイン・田中将賀らスタッフが続けて手掛けた作品といった事実も大きいかと思われます。
そして『ここさけ』は見事にアニメ・ファンのみならず一般の若い観客の支持を集めて大成功を収めたわけですが、それから2年も経たずに実写映画が製作されるというのは前代未聞のことでもあります。
これまでもオリジナル・アニメ作品を原作にした実写映画がないわけではありませんが、それらはたいてい『科学忍者隊ガッチャマン』『ヤッターマン』など昭和のファンタスティック・ヒーローものが多数を占めており、今回のような青春アニメものの実写映画化なんてほとんど例がありません。
しかし『ここさけ』は2015年の現代を生きる少年少女たちの繊細な思春期の心の揺れを描いて高く評価されたものであり、やはり“今”という時期を大事にしたいがための早急なる実写化が必要ともされたでしょう。
いずれにしましても、アニメ映画製作陣がプロデュースしての今回の実写映画化、大英断であったと思われます。
(C)2017映画「心が叫びたがってるんだ。」製作委員会 (C)超平和バスターズ
生身の肉体を伴う俳優たちの
息吹をフルに活かした実写版
おそらくほとんどの『ここさけ』アニメ映画=原作ファンのみなさんは、実写化に際してどこがどう変わっているのか、またキャスティングなど違和感はないのか、などなどの不安や期待が入り乱れていることでしょう。
私自身、正直なところ、今回の企画を最初に聞いたときは、「本当に大丈夫か?」と首を傾げたものです。
しかし結果としては「よくぞここまで頑張った!」と大声で叫びたくなるほどに褒め讃えたいクオリティと意欲に裏打ちされたものになっています。
(C)2017映画「心が叫びたがってるんだ。」製作委員会 (C)超平和バスターズ
まずストーリーですが、基本的にというか、ほとんど原作通りです。もちろん設定など細部に微妙なアレンジは施されていますが、大きく印象が異なるほどのものではなく、逆にその細部の相違を発見して楽しむのも一興でしょう。
舞台となる“聖地”埼玉県秩父市の風景も、アニメ版さながら魅力的に映えていますが、こちらも微妙にロケ地が変わっているところもあったりして、気が付くとどんどんマニアックにはまっていくこと必至。
次にキャスティングですが、今年の春にメイン・キャストが発表となったとき、多くのファンは驚かれたのではないでしょうか。
両親の離婚を機に、思ったことを口にするのをやめ、感情を表に出さず、淡々と日々を過ごすようになって久しい坂上拓実に、人気アイドルグループSexyZoneに属し、これが映画主演4本目となる中島健人。
幼い頃に父の不倫をそれと知らずに無邪気に母に告げたことから、言葉を発するとおなかが痛くなってしまう成瀬順に、NHK連続テレビ小説『べっぴんさん』主演に抜擢されて大ブレイクした芳根京子。
中学時代に拓実と付き合いながらも、彼のことを恋人ではないと、つい口にしてしまったことをずっと後悔し続けたまま高校生活を過ごしている元カノの仁藤菜月に、E-girlsのパフォーマー石井杏奈。
甲子園を期待されながらもひじの故障で挫折し、野球部の仲間たちにどう接したらいいのかわからず孤立する元エース田崎大樹に、今年デビューしたばかりで注目の新人男優・寛一郎。
いずれも原作アニメからそのまま飛び出してきたかのような存在感に驚嘆してしまいました(特に田崎役の寛一郎にはびっくり!)
(C)2017映画「心が叫びたがってるんだ。」製作委員会 (C)超平和バスターズ
意表をついていたのが、地域イベントで彼らを含むクラスの面々にミュージカル公演を提案する担任教師に荒川良々が扮していることで、原作ではちょい悪オヤジ風キャラだったのに、真逆の存在感が不思議とツボにはまり、ドラマに意外なまでの説得力を与えています。
そう、『ここさけ』は思春期のリアルを見事に掬い取った物語が構築されていますが、それをアニメーションという虚構そのものの世界の中で綴っていった原作アニメ映画は、それゆえにどこかしらファンタジックな衣をまとったものにも成り得ていました。
しかし実写版からはその要素はほとんど外され、代わって生身の肉体を持つ俳優たちの息吹がリアルに伝わってきます。
これこそが今回のアニメ版と実写版の最大の相違であり、双方の魅力として屹立することになりました。
また、クラスメイトらが次第にミュージカル実現のため4人に協力していく様などは、やはり生身の俳優たちの数が多ければ多いほど引き立っており、以後はさりげなくもちょっとした群集劇として、彼らひとりひとりの顔もずっと覚えておきたくなるような衝動に駆られるほどで、この点も実写版ならではの利点でしょう。
クライマックスのミュージカル・シーンも、アニメ版は若手プロ声優による見事な歌声が感動的に響き渡りますが、実写版は決してみんながみんな上手いわけではなく、むしろたどたどしい瞬間もあるほどですが、しかしながらそれゆえに高校生たちの素人ミュージカルとしてのリアルさが好もしく映え渡り、結果としてこれまたアニメ版と対局的な魅力を保持することにもなりました。
つまりはこの作品、原作に対して最大級のリスペクトを捧げながら、アニメ原作版にはない生身の肉体の力を最大限に生かしながら、実写映画ならではの魅力を引き出すことに成功しているのでした。
監督は自主映画出身の熊澤尚人。2005年に『ニライカナイからの手紙』で商業映画デビューを果たし、最近では『君に届け』(10)『近キョリ恋愛』(14)と少女漫画の実写映画化にも才を発揮してきた俊英で、今回そんな彼の資質が十二分に発揮されたものと確信します。
実は本作を見終えるや、どうしてもすぐにアニメ原作版を見直したい欲求に刈られ、急いで帰宅してブルーレイで鑑賞していくうちに、お互いのイメージが何ら損なわれることなく融合していくのに我ながら驚いてしまったほどで、さらにはすぐさま実写版を見直したくなってしまい、今は公開日が待ち遠しくてたまらず、うずうずしているところです。
いずれにしましても本作は、昨今のマンガ&アニメの実写映画化作品の中で新機軸を打ち立て、今後の指針にもなる快作として語り継がれていくことでしょう。
アニメ版のファンも、そうでない方も、広く鑑賞をお勧めします。少なくとも私の中ではこの作品、頭の中のメモ用紙にかなりの太文字で記憶されることとなりました。
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(文:増當竜也)
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