映画コラム
『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』劇場で観たかった、静寂と希望のドラマ
『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』劇場で観たかった、静寂と希望のドラマ
昨年のロンドン映画祭をはじめ、多くの批評家から絶賛を浴びたインディペンデント映画、『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』が日本では劇場未公開のまま8月2日にソフトリリースされた。
今年『マンチェスター・バイ・ザ・シー』でオスカー候補にあがったミシェル・ウィリアムズに、「トワイライト」シリーズのクリステン・スチュアートの若手実力派女優。そして現在話題沸騰中のドラマ『ツイン・ピークスThe Return』で存在感を放ち、年末公開の『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』への出演も決まって完全復活を遂げたローラ・ダーン。こんなにも豪華なキャストの共演なのに、劇場で公開されないというのはあまりにも勿体無い。
ましてや本作のような、〝静寂〟を大事にしている作品こそ、劇場の優れた音響で観るにふさわしい作品ではないだろうか。
<〜幻影は映画に乗って旅をする〜vol.44:『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』劇場で観たかった、静寂と希望のドラマ>
アメリカ北西部・モンタナ州の小さな田舎町に生きる4人の女性たちの、3つの物語が描き出される本作。弁護士のローラ(ローラ・ダーン)は厄介なクライアントに付きまとわれる。家族で暮らす新居を建てることに没頭するジーナ(ミシェル・ウィリアムズ)は、夫との別れを予感し始める。そして、牧場で働くジェイミー(リリー・グラッドストーン)は、夜間学校で法律を教えるベス(クリステン・スチュアート)に会うために、彼女の授業を受け始める。
マイリー・メロイの短編小説を3作品繋ぎ合わせた本作は、オムニバス映画というよりは、寂れた町で生きる女性の姿を多角的な視点から見つめたドラマである。昨年公開された『キャロル』や、ジュリアン・ムーアがヴェネツィア国際映画祭女優賞を輝くなど、女性劇の描き方に定評のあるトッド・ヘインズが製作総指揮を手掛け、静かに淡々と流れる人物描写を、広い画面の中で描き出していく。
たしかに、劇場で公開されてヒットするタイプの作品という雰囲気ではないが、ミニシアターブーム最盛期にひっそりと紹介された良質なインディペンデント映画を思い出させる緻密な心情描写の数々は、たとえDVDであっても一見の価値がある。是非とも小さな音まで聞き逃さないようにヘッドフォンを使って観ることをお勧めしたい。
本作を監督したケリー・ライヒャルトは、インディペンデント映画界で注目すべき女性監督のひとりである。これまで7本ある彼女の長編作品のうち、日本で紹介されたのは本作を含めて3本。いずれも未公開でソフトスルーとなっている。
2008年に発表し、インディペンデント・スピリット賞で作品賞と主演女優賞の候補にあがった『ウェンディ&ルーシー』は、愛犬とともにアラスカに職を求めに向かう女性ウェンディの物語。途中で車が壊れ、ドッグフードは無くなり、お金がない彼女は露頭に迷う。そんな中、万引きをして警察に捕まったウェンディは、いなくなった愛犬を探し始めるのだ。
多くの作品で高い評価を集めているミシェル・ウィリアムズは、ライヒャルトとタッグを組むと、さらにその演技の精度を高める。役作りのために、彼女の持ち前の華やかさを封印し、社会の底辺を生きる女性の過酷な姿を体現しているのだ。
この『ウェンディ&ルーシー』、2013年に発表したジェシー・アイゼンバーグとダコタ・ファニング共演のサスペンス『ナイト・スリーパーズ ダム爆破計画』、そして本作と、ライヒャルト作品に共通しているのは窮地に立たされた人間が自力で希望を見つけ出す姿である。映画の題材としては少々地味ではあるが、優れたドラマ性を求めるならば、申し分のない作品ばかりだ。
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(文:久保田和馬)
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