映画コラム

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2017年10月11日

『ナラタージュ』徹底解説!劇中の映画の意味は?小説からの改変で強まったテーマとは?

『ナラタージュ』徹底解説!劇中の映画の意味は?小説からの改変で強まったテーマとは?


5:劇中の映画の意味はこれだ!


タイトルである『ナラタージュ』は語りや回想で過去を再現する手法”という意味の映画用語です。これは“ヒロインが過去を回想する”という本作の構成そのものを意味しており、同時に映画という芸術そのものにリスペクトを捧げているからでこそ、付けられたタイトルなのでしょう。

ここからは、劇中に登場した映画について、それらがどのような内容であったか、また本作とどのようの関連があったかを解説します。

1:『エル・スール』






少女と父親との関係を叙情的に描いた作品で、『ミツバチのささやき』で知られるビクトル・エリセの数少ない監督作品の1つです。

『ナラタージュ』と共通しているのは、まさにナラタージュ(回想形式)で描かれていることと、過去の秘密を主人公が“共有してしまう”ことでしょう。『エル・スール』のヒロインは父の過去を知ったことで「共犯者になってしまった」と、罪悪感を持ってしまいます。その過去とどう向き合うか、これからどうするか、という葛藤や行動に焦点が当たっており、それも『ナラタージュ』と一致していました。

『ナラタージュ』の原作小説においては、「あの監督の静けさに触れたときだけは、日常の雑事や悩みが遠ざかって違う場所へ運ばれていく」と、教師が『エル・スール』が好きな理由を語っていた記述もありました。ヒロインのナレーションや、ごく限られた時にだけ響く音楽などにも、両者は似た雰囲気を感じられるでしょう。

また、『エル・スール』は絵画のように美しい“夜明け”から物語が始まります。『ナラタージュ』においても、この作品を意識したのではないか、と思しき夜明けのシーンがありました。そのシーンがどこか、ということは秘密にしておきます。

ちなみに、『エル・スール』は、主演の女の子がものすごくカワイイ!美少女をただただ眺めたい、という方にもおすすめします。

2:『浮雲』




成瀬巳喜男監督の代表作として知られている作品で、身も蓋もない言い方をすれば、“口ではなんだかんだと文句を言いつつ、くっついたり離れたりする男女の恋愛”を描いた作品です。

男はハッキリ言ってダメダメな人間なのに、そんな男からどうしても離れられない……この恋愛は“共依存”と呼ばれる状態です。時中・後の混乱期であったことも、この共依存に陥ってしまう大きな理由でしょうが、現代でも十分に起こり得る関係と言っていいでしょう。

その共依存の関係と、ナラタージュ(回想形式)、ある価値観を絶対に正しいとはせず、恋愛模様に色々な感情を見つけ出す面白さがあることなどが、『ナラタージュ』と『浮雲』は共通していました。『ナラタージュ』の劇中、『浮雲』の映像とともに登場する「私たちって、行くところがないみたいね」のほか、「昔のことが、あなたと私にとって重要なのよ」というセリフも、『ナラタージュ』の登場人物たちの心情と一致しています。

なお、行定勲監督は『浮雲』を「男女間の情緒みたいなものをきっちり捉えていて、そういうものに憧れる」などと、お気に入りの作品として語っている一方で、「若いころは傑作と呼ばれる理由がわからなかったが、大人になるとより分かるようになった」とも口にしていました。わかりやすい娯楽ではないからでこそ、年齢を重ね、人生経験を経て、真にその面白さがわかる、というのも『浮雲』の魅力と言えるかもしれません。

3:『ダンサー・イン・ザ・ダーク』




我が子を思う母親がどんどん視力を失っていってしまうという物語で、“観た後に落ち込む映画”や“賛否両論の映画”の代表格として知られています。

『ナラタージュ』の劇中において、この『ダンサー・イン・ザ・ダーク』は、“松本潤演じる教師は好きじゃないと言っていたが、妻がソフトを持っていた”という形で登場します。

『ダンサー・イン・ザ・ダーク』で描かれるのは救いのない物語ではありますが、だからでこそ、筆者は“暗い気持ちを映画の中に溶け込ませることができる”稀有な作品であると考えています。おそらく、教師は妻があのような状態になってしまったからでこそ、その気持ちを知りたいと思ったからでこそ、ソフトを捨てずに置いたままにしていたのではないでしょうか。

この他、『ナラタージュ』の劇中では、フランソワ・トリュフォー監督の『隣の女』などが登場する他、小説版では『真夜中のカーボーイ』や『アンダーグラウンド』も引用されています。それらの映画を観ておくと、さらにさらに、物語に奥行きを感じられるでしょう。

おまけ:主題歌を歌ったアーティスト“adieu”とは?


本作の主題歌を歌っているのは“adieu”。都内高校に通う17歳の女子高生であること、今回の映画の企画を10年間温めてきた行定勲監督が製作陣とともに“時を止める歌声”をコンセプトに探し求め辿り着いたこと、今回の作詞・作曲を野田洋次郎が手掛けていること以外は、ほとんど情報が公開されていません。



気になるのは、そのアーティスト名。フランス語でadieuは“さようなら”を意味しており、特にそれは“長いお別れ”や“最期のお別れ”の時に使われるそうです。

なぜ、日常的に使われる軽い意味の“au revoir”ではなく、adieuなのか……それは、『ナラタージュ』の本編の物語において、ヒロインと教師が“二度と会うことがない”ことを示唆しているのではないでしょうか。(しかも、“ナラタージュ”も元々はフランス語です)

その歌詞も、希望がありつつも、少し寂しさも感じさせる、まさに“別れ”の曲にふさわしいものになっていました。ぜひ、映画を観終わった後に、深く聴き入ってほしいです。

(文:ヒナタカ)

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