俳優・映画人コラム

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2018年07月12日

題字にも要注目!『菊とギロチン』瀬々敬久(監督)×赤松陽構造(題字)対談

題字にも要注目!『菊とギロチン』瀬々敬久(監督)×赤松陽構造(題字)対談



(C)2018「菊とギロチン」合同製作舎 



大正時代末期の女相撲一座とアナキスト・グループ“ギロチン社”の若者たちの出会いと交流を通して、差別や偏見の中で「自由」を求めて強くなろうと欲する人間の夢と闘いを描きつつ、現代の閉塞的かつキナ臭い世界に檄を飛ばす社会派エンタテインメントの快作『菊とギロチン』が7月7日よりテアトル新宿ほかにて公開中です。

近年だけ採っても『64-ロクヨン-前編/後編』(16)、『最低。』『8年越しの花嫁 奇跡の実話』(ともに17)『友罪』(18)など多彩なジャンルの作品を精力的に連打し続ける瀬々敬久監督が長年宿願としてきた入魂の企画が堂々189分の大作としてついに実現!

木竜麻生、韓英恵をはじめとする女相撲の力士に扮する女優たち、ギロチン社メンバーとしてこれまで見たことのない表情を魅せる東出昌大、寛 一 郎など男優たち、それぞれの好演。

同様に、日本映画界を代表する精鋭スタッフによる画と音の成果。

そして今回は、『菊とギロチン』のタイトル文字=題字を担った赤松陽構造氏にも注目していただきたいと思います。




これまで『東京裁判』(83)『ゆきゆきて進軍』(87)『Shall we ダンス?』(95)『キッズ・リターン』(96)『うなぎ』(97)『顔』(00)『ウォーターボーイズ』(01)『美しい夏キリシマ』(02)などのさまざまな名作の題字を手掛けてきた赤松氏。

今年も既に『北の桜守』『友罪』『空飛ぶタイヤ』『検察側の罪人』『日日是好日』などを手掛けている、日本映画界になくてはならない名匠で、TVドラマでもNHK大河ドラマ『八重の桜』(13)や『精霊の守り人』(17)の題字を担当……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街319》

今回は瀬々敬久×赤松陽構造、名コンビでもあるお二方にご登場いただき、作品や映画の題字の魅力などについて語っていただくことにしました!




赤松陽構造の文字は
“生活者”の文字だ!


赤松 私が初めて瀬々監督作品の題字を手掛けたのは『冷血の罠』(98)でした。ただ、その後も何本かやらせていただいたのですが、正直その頃はあまり関係性とかは意識してなかったんです。

瀬々 確かに当時はそんなに話とかしてなかったですね。

赤松 もっとも瀬々作品そのものにはすごく興味がありまして、特に『ヘヴンズ ストーリー』(10)や『アントキノイノチ』(11)にはものすごく感銘を受けると同時に、瀬々監督のことを意識するようになりました。題字に関しても、たとえば『アントキノイノチ』では、傷を背負いながら社会の中を生きる若者たちを、文字にならないような文字で表してみました。作品には合っていたと思っています。



赤松陽構造氏(左)と瀬々敬久監督 



瀬々 赤松さんの字は“生活者”の字なんですね。生活者としての態度が字から見えるのがいいなとすごく思います。

赤松 文字って記号として扱われる事が多いですけど、それが作品と同居したときにどういう変化をもたらすか。それは作品によるし、その映画の内容に合った文字を書くようにといつも心がけています。その意味では瀬々さんの『最低。』(17)の題字は自信作のつもりでいます。

瀬々 非常に工夫されてるんですよ。でも、あれは企業秘密?

赤松 いえ、大丈夫ですよ(笑)。あれは黒く塗った発砲スチロールに直接文字を削って書き、それを写真撮影しているんです。



『最低。』題字用に使われた発砲スチロール 



『菊とギロチン』で目指した
強さの中に優しさを持った題字



赤松 通例、私はラッシュ(仮編集の映像)を見て、その映画を解釈し、作品を理解してから題字を書くようにしています。でも『菊とギロチン』はまだ撮影が始まる前の2015年の暮れに、企画書を基に題字を書いてほしいと要請を受けたんです。

瀬々 これはもう特例で、制作資金と出演者募集のチラシを作りたかったので、先に題字をお願いしたのですが、赤松さんの男気でやっていただけることになりました。

赤松 私自身が瀬々作品を好きで、監督の人柄なども理解していたから、この特例も難なく作業できました。瀬々作品には常に社会から外れた弱者に対する優しい視点を感じていましたので、このタイトルも非常にイメージが湧いて書きやすかったですね。具体的には、使っている道具こそ筆ですが、トメがあってハネがあって、といった書道的なものをなるべく排し、強さの中にも少し優しさを持った題字になるよう心掛けました。

瀬々 そのとき題字と一緒に「リャクだ!リャクだ! そして暗殺だ!」「おらあ、つよくなりてえええ!」といった言葉も書いてもらい、特報やクラウドファンディングの特典用バッジなどに使わせてもらいました。つまり、赤松さんの文字を前面に押し出しながら出資者を募集したんですよ。

赤松 本編中の題字を出すタイミングも、監督はすごくこだわられてましたね。しかも2回出るじゃないですか。最初は白文字で20分弱あたり、次は2時間40分すぎてから赤文字で。

瀬々 映画監督の村上賢司君の言葉を借りると、最初の題字は「大前提的なもの」で、最後の題字は「個人的なもの」になっていると。物語の進行とともに、同じ字体でも意味合いは変わってくるんです。

赤松 題字にとって、どこに出すかということはものすごく大きな問題ですので、『菊とギロチン』では題字を大切にしてくれていて、とても嬉しかったですね



赤松氏が最近手掛けた題字 



アーティストではなく職人
映画スタッフであり続けたい



赤松 これまで400本以上の映画の題字をやってきましたが、ひとつだけ確実に言えることは、映画そのものに力がないと駄目なんですね。やはり作品に惹きつけられて、初めて書けるんです。時にはラッシュを見て「困ったなあ……」と思うものも正直ありますので(笑)。

瀬々 僕のは大丈夫?(笑)

赤松 瀬々作品はいつも張り切って書いてますよ(笑)。

―― 今は年間どのくらいの数をご担当されてるのでしょうか?

赤松 最近ですと、だいたい月に1本といったところでしょうか。

―― こういった映画の題字の仕事を専門にやられている人って、日本にどのくらいいらっしゃるのでしょう?

赤松 私の知る限りではかなり少ないですね。あとは宣伝部がデザイナーの人を連れてくる場合も多いですけど、宣伝のために作った文字と、スクリーンが前提でドラマの流れがあって、などのことをきちんと理解した上で書いた文字とでは、やはり違うと思います。チラシやポスターの文字と実際の映画の中の題字が異なることも最近は多くなってきているのですが、本音を申し上げますと、ラッシュを観て内容を理解して監督と打ち合わせして書いたものを使って欲しいです。特例ですが『菊とギロチン』の題字は監督との意思疎通で映画の内容をイメージ出来たと思っています。

瀬々『菊とギロチン』も実際の映画は、画角に合わせて微調整させてもらってはいるんですけどね。

赤松 最初は広告用に書いたものでしたからね。でも、これだけ使ってもらえただけでも、私は嬉しいですよ。

―― 洋画の邦題デザインのお仕事とかはなさらないのでしょうか?

赤松 洋画はゼロに近いかな……。まあ、基本的にお金になるなら何でもやりますけど(笑)、でも日本映画の仕事が好きですね。といいますのも、やはり最初に申し上げた通り、ラッシュを見て、監督と打ち合わせして、ありきたりのフォントなどとは違う、その映画に一番見合った題字を、自分なりに読み解いて書き続けていきたいんですよ。

瀬々 ところで、赤松さんは自分のことを“職人”と思ってます?

赤松 もちろんそうです。でも“鬼才”にこだわる人にそんなこと言われたくない(笑)。今後も職人としての仕事を続けたいと思っていますが、以前、瀬々監督とのトークショーがあったんですけど、開口一番何と言ってきたと思います?「赤松さん、いつ仕事辞めるんですか?」ですよ⁉ これは絶対書いといてください(笑)。

瀬々 まあまあ(笑)。つまり“アーティスト”と呼ばれるのは嫌なんだ。

赤松 だから“タイトル・デザイナー”という肩書はなるべく断ってるんですけど……。いつも“題字”か“タイトルデザイン”でお願いしています。“ナー”が嫌なんですよ(笑)。

瀬々 要するに映画スタッフでありたいと。

赤松 そういうことですね。


(取材・文:増當竜也)

瀬々敬久(ぜぜ・たかひさ)
1960年、大分県生まれ。85年、16ミリ映画『ギャングよ、向こうは晴れているか』を自主製作・監督した後、86年よりピンク映画の助監督を務める。89年『課外授業・暴行』で商業映画監督デビューし、同年度のピンク大賞新人監督賞を受賞。90年代はピンク四天王のひとりとして謳われ、97年『KOKKURI こっくりさん』で一般映画に進出。以後、多彩なジャンルの作品を意欲的に手掛けて現在に至る。2010年の『ヘヴンズ ストーリー』で芸術選奨文部科学大臣賞(映画部門)を受賞。


赤松陽構造(あかまつ・ひこぞう)
1948年、東京都中野区生まれ。69年、父親の急逝により株式会社日映美術を引き継ぐ形で映画タイトルの仕事を始める。現在までに400本以上の映画作品のタイトルデザインを担当し、現在に至る。2012年、第66回毎日映画コンクール特別賞、17年、第40回日本アカデミー賞協会特別賞など受賞歴も多数。2014年には東京国立近代美術館フィルムセンター(現・国立映画アーカイブ)にて赤松陽構造・映画タイトルデザイン展が開催された。

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