インタビュー
性器を撮影する関係に「“愛”ではあったと思う。でも“恋愛”とは違う」『スティルライフオブメモリーズ』安藤政信インタビュー
性器を撮影する関係に「“愛”ではあったと思う。でも“恋愛”とは違う」『スティルライフオブメモリーズ』安藤政信インタビュー
2018年7月21日(土)公開の映画『スティルライフオブメモリーズ』。本作は、フランスの画家・写真家アンリ・マッケローニの写真集と彼の愛人が過ごした2年間へのインスパイアから企画された矢崎仁司監督の最新作で、新進気鋭の写真家・春馬(安藤政信)、彼に自分の性器の撮影を依頼する女性・怜(永夏子)、春馬の子を宿した恋人の夏生(松田リマ)らの交錯する関係を描き出しています。
シネマズby松竹では、本作主演の安藤政信さんにインタビュー。自身も写真撮影が好きだという安藤さんに、作品や写真を撮ることへの思いを語ってもらいました。
「撮影が終わって、しばらく身体が動かなかった」
──まずは、本作に出演されることになった経緯を教えてください。
安藤政信(以下安藤):矢崎仁司監督とは『ストロベリーショートケイクス』のときから気持ちの共有ができていて愛をくれる方だったので、久しぶりに会って台本をもらったときに、ぜひやりたいと思いました。すごくきれいな素敵な話だなと感じましたね。こういう内容は下衆な人では撮れない、矢崎監督のように繊細に大切に撮っていく方なら、絶対に美しい作品になると思ったので、特に迷いはなくやろうと思いました。
──今回演じた春馬に、どんな印象を持ちましたか?
安藤:僕自身カメラをやっていて、女性も撮影してきているので、写真を撮る気持ちや被写体に対しての距離感みたいなものはすごく共感できましたね。
(C)Plasir/Film Bandit
──性器を撮影するという怜の依頼内容を知ったとき、春馬は戸惑っていましたが、最初の撮影のあと、今度は彼の方が撮影に能動的になっていきましたよね。あの彼の心境の変化はどんなものだったと思いますか?
安藤:春馬は怜に対する興味をすごく感じたんだと思います。性器というのは、その女性自身のそこしかないわけだから、その人に奥深くまで入りこみたいという気持ちが生まれたような気がするんです。広告などのために頼まれて形にするという写真ではなくて、自分からどんどんその人の奥底に入ってシャッターを押していくことに対する気持ちというか、それは怜に惹かれたということでもあったのかなと。
──春馬が怜に惹かれた思いや、二人の関係は“恋愛”だったと思いますか?
(C)Plasir/Film Bandit
安藤:“愛”ではあったと思うんです。でも“恋愛”とはちょっと違うんですよね。身体の中までも入りこんでいくような、写真でしかつながれない関係というか。絆のようなものはあったと思うんです。そうでなければ、ああいう撮影は絶対できないので。
──矢崎監督との仕事は『ストロベリーショートケイクス』以来、二度目ですが、今回は、いかがでしたか?
安藤:撮影中は1日20時間くらい矢崎監督と一緒にいて、帰りも一緒に帰って、話もたくさんしました。撮影期間は2週間近くだったんですが、信じられなくらい長く感じましたね。2週間という時間軸じゃないような気がしていました。
──2週間の短い撮影期間だったんですね。その中でこれだけワンカットワンカットの密度が非常に濃い作品になっているというのは、撮影が大変だったのでは?
安藤:現場でははりつめた感じがあり、すべてのシーンで神経を使いましたね。撮影だけでなく、女性の方たちはすべてをさらけだすということで本当に大変だったと思うので、そのケアを絶対に大切にしてあげたかった。彼女たちをきちんとフォローしようという気持ちで現場に入っていました。撮影が終わってから、しばらく身体が動かなかったですね。やっている最中はそこまで感じなかったんですが、終わったときに自分の肉体も心も疲労していたんだなと実感しました。
「骨を砕くようなシャッター音を感じた」
──本作は“音”が非常に重要だと感じました。いわゆるBGMが少なく、カメラのシャッター音や水の音、風の音など日常にある音がすごく印象的でしたが、この映画の中の音について感じるところはありましたか?
安藤:僕は芝居をするときはいつもずっと音楽を聞いていて、本番だけそこに入るというのをやっているんですが、いろいろな音で感情が動き続けていく映画が多い中で、この作品であえて自然の音を聞いて、世の中ってこんなに豊かに音が溢れているんだなと思いましたね。
撮影中は、たとえば椅子がきしむ音ひとつにも感情があるというか、はりつめている中で椅子の音や骨を砕くようなシャッター音などをすごく感じました。どこかに自然を見に出かけ風の音や木が揺れる音に耳を傾けているのと似た感じで、そこにすごく耳をすましていたような気がしました。
──特に、春馬が撮影をするときのシャッター音の響きは本当に印象的でした。
(C)Plasir/Film Bandit
安藤:シャッターは、本当に自分の気持ちだけで、自分がいつも撮るように押していたんです。普段写真を撮っているときと同じように、「ちゃんと写したい」という思いや愛を持って切っていましたね。
──安藤さん自身が、日常の中で好きな音はありますか?
安藤:風の音にはすごく惹かれますね。窓にぶつかる風の音とかを聴くと「ああ、感情的だな」と思います。
「どうしても写真が好きでしょうがないんです」
──自身で写真を撮るようになったのは、いつごろからですか?
安藤:学生のころから撮っていたんですが、「もっとちゃんと撮りたい」と思ったのは『キッズ・リターン』が終わったくらいからですね。それからずっと撮り続けています。
写真は本当に理由なく惹かれていて、言葉でうまく説明できないけれど、どうしても写真が好きでしょうがないんです。
──本作では、怜を撮影することで春馬は葛藤しながら自分の撮りたいものを見つけていきますが、安藤さんはこれまで写真を撮ってきた中で春馬のような経験はありましたか?
安藤:僕自身は撮りたいものしか撮ってきていないんですね。春馬のように広告の写真などを撮る場合は、自分の感情でシャッターを押すというよりは、アートディレクターなどの了解を得て初めて撮影がOKになるというような感覚かもしれませんが、僕は「今日はこれを撮りたい」と自分で決めて写真を撮って来ました。ただ、春馬の心情もわかりますね。やりたい作品と決してそうではない作品の中で物作りに対する葛藤が生まれるのは、役者の仕事にも通じるものなので。
(C)Plasir/Film Bandit
──役者の仕事の中でも、これまで葛藤などはやはりあったのでしょうか?
安藤:昔はあったんじゃないかと思います。「映画しかやりたくない」みたいな葛藤が若いときはたくさんあったかなと。それでも、ずっと映画には触れたいと思っていて20年間触れることができていて。やりたいことだけでなく、求められているときにやるのもプロの仕事だと思うので、今は若いときに排除しようとしていたものも受け入れる感じでいますね。最近はまわりが驚くくらい大人というか(笑)。
──役者の面白さ、写真を撮る面白さはどんなところだと思われますか?
安藤:誰かと気持ちを共有できたりつながれたりするところですね。写真や芝居以外で人とつながっている感じがあまりなくて、それは僕が特殊なのかもしれませんが(笑)、だからこそ演じることや写真を続けているというところがすごくありますね。
──ご自身では、この作品をやり終えて何か変わった、つかんだ手応えなどはありましたか?
安藤:矢崎監督の作りたいものや要求することにちゃんと応えられたというのはありますね。人間的な成長をできたかどうかはわからないですけれど。
──最後に、この作品、見る人たちにどんなふうに見てほしいですか?
安藤:こう見てということではなく、見る人が自由に見て、どう見たかを話してくれたらいいなと思いますね。「どう着地するんだろう」と最後の展開すらわからない、久々に映画的な映画を見たなと僕自身思いました。セリフで説明もしないし、主人公がどう思っているかを伝えることもないけれど、そういう見方がわからないということ自体が映画で、それでいいような気がするんです。
それで、矢崎監督を好きになって監督の過去作品を振り返る人がいたらいいなと思うし、矢崎監督の作品を好きで「待っていました」という人もいるだろうし、いずれにしてもそういう場所に自分は役者としていただけだと思うので、自由に見てほしいです。
──ありがとうございました。
(撮影:HITOMI KAMATA、取材・文:田下愛)
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