映画コラム

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2018年07月28日

『未来のミライ』が賛否両論になった「10」の理由 

『未来のミライ』が賛否両論になった「10」の理由 


5:奥寺佐渡子さんが脚本を手がけていなかった! その結果は……?


これまでの細田守監督作品には、映画版『八日目の蝉』やドラマ「リバース」などを手がけていた脚本家の奥寺佐渡子さんが関わっていました。『時をかける少女』と『サマーウォーズ』では奥寺さんが単独で脚本を手がけ、『おおかみこどもの雨と雪』では奥寺さんと細田監督が共同で脚本を、『バケモノの子』では細田監督が脚本を手がけるようになっていたものの奥寺さんは“脚本協力”でクレジットされていました。

これまでの奥寺さんの脚本はやはり素晴らしく、特に『時をかける少女』では高校生になった少年少女のモラトリアム期間における葛藤、タイムリープというSF要素、二度とは戻ってこない青春の物語としての輝きなど、すべての要素が有機的に絡み合っており、それがダイナミズムのある物語運びと結びついた、ほとんどの人が「おもしろい!」と言える内容になっていました。

※『時をかける少女』の魅力については、こちらの記事でも解説しています↓
□細田守監督『時をかける少女』もっと奥深く考察できる7つのポイント

続く『サマーウォーズ』はかなりエンターテインメントに寄った作品であり、こちらも奥寺さんの物語の構築力がかなりプラスに働いたことは疑いようもありません。『おおかみこどもと雨と雪』は極めて実験的な内容でありながら様々な要素の“積み立て”や登場人物の成長がじっくりと描かれており、『バケモノの子』の前半も“新冒険活劇”という触れ込み通りにストレートに楽しめる物語に仕上がっていました。

しかし、今回の『未来のミライ』では奥寺さんは脚本協力すらしておらず、細田監督が単独で脚本を手がけています。もしくは、前述したように息子のリアクションや見ていた夢を参考にしていているので、今回の脚本は細田監督と息子との“共作”と言ってもいいのかもしれません。

その結果どういうことになったのか……ごく端的に表現すれば、“小さなエピソードから構成される短編集のようなイメージが強くなり”、“いくつかのテーマが有機的に結びついておらず”、“展開そのものに納得できないことも多くなり”、その上“肝心のテーマを言葉でベラベラと喋ってしまう”という……申し訳ないですが、ネガティブに感じる要素が多くなってしまったと言わざるを得ません。(こちらも以降の項で詳しく解説します)



 © スタジオ地図



6:実は“タイトル詐欺”? 『バケモノの子』の後半の内容とそっくりだった?


前述したように、本作の物語のアイデアの発端は、細田守監督の息子の、妹に対しての“嫉妬”という感情です。序盤では確かに、主人公のくんちゃんのワガママさがしっかり描かれていたため、その後は未来から来た妹と共に時空を超えた旅に出発し、そして成長していくんだろうな……と思っていました。

しかしながら、その妹への嫉妬という要素は、序盤で提示された以降はかなり脇に追いやられてしまい、(ネタバレになるので詳しくは書けませんが)別のテーマを描く割合の方がはるかに多くなってしまっています。

少し具体的に言うのであれば、その“未来から来た妹のミライちゃん”の登場シーンそのものがかなり少なく(体感で15分程度)、描かれることの大半は“4歳の男の子のホームビデオ”か“4歳の男の子が妙な世界に迷いこむ(タイムスリップする)白昼夢のようなシーン”なのです。これでは、『未来のミライ』が“タイトル詐欺”と言われてしまってもフォローできないではないですか!

タイトルが詐欺っていること以上に問題なのは、極端なバランスの話運びのために、“4歳の男の子の成長”という最も重要なはずの要素に、ひどく納得しにくくなっているということです。しかも、ホームビデオ→白昼夢→ホームビデオ→白昼夢……のような“繰り返し”で構成されているため、単調さも否めず、要素を“積み立てていく”印象もあまりなく、後半で提示されるあるテーマ(しかも言葉でわかりやすく説明してしまう!)との結びつきもかなり弱く感じてしまいました。

そんなわけで、前述した『時をかける少女』のような“よくできた物語”は、本作には期待しないほうがいいでしょう。しかも、“タイムスリップをする理屈”は具体的に説明されることがなく、最後までその疑問は晴れません。その結果、「どうしてタイムスリップするの?」というモヤモヤを抱えた上に、始終「一体この映画はなんなんだ?」という困惑を(良くも悪くも)誰もが覚えてしまう内容になっているのです。

また、『未来のミライ』の全編は、前作『バケモノの子』で特に評価が分かれていた、後半の物語にも似ています。様々なメタファーが具現化された観念的な世界に迷い込んだようで、物語の整合性には乏しく、そのくせテーマやメッセージはセリフとして“説明してしまう”のですから……この『バケモノの子』の後半が受け入れられなかったという方は、本作も今ひとつに感じてしまうのかもしれません。

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