映画コラム

REGULAR

2019年03月30日

『天然☆生活』川瀬陽太が鳴り響かせる怒りのボンゴと明るい光

『天然☆生活』川瀬陽太が鳴り響かせる怒りのボンゴと明るい光



(C)TADASHI NAGAYAMA



日本映画のファンで俳優・川瀬陽太の存在を知らない人がいたとしたら、それはモグリとしか言いようがないでしょう(少なくともその顔を見れば、誰もがきっと思い出してくれる……はず)。

インディペンデントからピンク、メジャーなど、制作規模の大小やジャンルなどにこだわらず、おそらくは老若男女を問わず作り手側のこだわりにこそアンテナを張り巡らせ、常に銀幕の中で異彩を放ち続ける、今の日本映画界に欠かせない頼もしい存在です。

そんな彼ですが、実は主演映画もコンスタントに作られていて、今年も大阪道頓堀プロレスを背景に少年と謎の中年男の交流を描いた『おっさんのケーフェイ』が公開されたばかり……。

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街369》

そして3月23日からは東京・新宿K's cinemaにて『天然☆生活』がいよいよ公開! この作品もまた一筋縄ではいかない中年オヤジの日常の変化と、それゆえの怒りを炸裂させた異色のブットビ青春(?)映画なのでした!

50歳独身無職中年の日常を
ぶち壊す無添加家族



『天然☆生活』の舞台は、単線列車が走るのどかな田舎町。

夢も仕事も家もない50歳の気弱な独身男性タカシ(川瀬陽太)は、認知症の叔父の介護を条件に、本家=藁ぶきの古民家に居候させてもらっています。

やがて叔父が死に、息子のミツアキ(谷川昭一朗)が帰ってきますが、幼馴染のショウちゃん(鶴忠博)も交えて旧友の3人は親交を温め直していきます。

叔父が経営していた釣り堀で、のんびり楽しく過ごすタカシたちの日常。

しかし、田舎ライフに憧れて古民家カフェを営むべく引っ越してきた栗原(津田寛治)とその家族が、タカシの住む(そして今はミツアキが所有主となった)古民家に目をつけてきたことから、彼らの天然生活は徐々に歯車が狂い始めていくのでした……⁉

本作は世間から後ろ指をさされようとも呑気に健気に生き続ける中年男の、グウタラならではの誇り(?)を通して、とかく世知辛いギスギスした現代社会のありように疑問を唱えていきます。

以前「LGBTの人々は生産性が低い」などと発言した政治家がいて、またそれに同調する向きが増えたりしてもいますが、『トータスの旅』で2017年ゆうばり国際ファンタスティック映画祭グランプリを受賞した永山正史監督はそういった風潮に異を唱えるかのように、生産性など全然なさげな(?)本作の主人公を決して切り捨てることなく、徹頭徹尾温かな目で見据えていきます。

劇中に登場する亀が、そんな彼を象徴しているようでもあり、さらに実はその亀が外来種であることも、ドラマの後々に衝撃を与えてくれます。

タカシが時折ボンゴで演奏する『見上げてごらん、夜の星を』や『星影のワルツ』、劇中曲として挿入される『バラが咲いた』などノスタルジックな楽曲が醸し出すムードも心地よく、しかしだからこそそんな日常をぶち壊そうとする偽善的な“無添加”家族の出現に対し、タカシたちは、そして映画は予想だにつかない、実にとんでもない方向へと徐々に徐々になだれ込んでいくのです!



(C)TADASHI NAGAYAMA




彼の名前を見かけたら
要チェック!



ただただ気ままに生活したいと望み続け、しかしながらそれを阻害しようとするい布陣な存在に対しては怒りを炸裂させる(しかもその方法が極めてユニークな)タカシのアナーキーな生きざまは、まるで川瀬陽太自身の俳優人生とも巧みに呼応しているように感じられてなりません。

もともと自主映画『RUBBER’S LOVER』(95)の助監督を務めていたところを、資金難から急遽主演に抜擢させられたことで俳優デビュー。

その後、瀬々敬久監督作品を中心とするピンク映画に出演するようになり、瀬々監督の一般映画進出に伴う形で彼も映画俳優として活動の幅が広がり、年を経るごとに異彩を放つようになっていきます。

個人的には『KOKKURI/こっくりさん』(97)『HYSTERIC』(00)『感染列島』(09)『ヘヴンズストーリー』(10)『菊とギロチン』(18)など規模の大小を問わずに長年名コンビを組み続けている瀬々監督作品はもとより、『サウダーヂ』(11)『バンコクナイツ』(17)などの富田克也、『ディアーデイアー』(15)『体操しようよ』(18)などの菊池健雄の監督作品などとも相性が良いように思えます。

2015年に公開された富永昌敬監督『ローリング』と山内大輔監督『犯る男』で第25回日本映画プロフェッショナル大賞主演男優賞を受賞。また同年は『シン・ゴジラ』にも300名を超えるキャストのひとりとして登場しています。

テレビやオリジナルビデオの出演も多く、中でも2018年の日本テレビ系ドラマ『anone』(18)の犯人役はお茶の間に衝撃を与えました。

基本的に出演依頼はスケジュール的な問題さえクリアできれば極力受けるようにしていて(まるでマイケル・ケインのようなスタンス!)、しかも中身が面白くなるように自分なりに考えながら、それぞれの現場に対峙していく姿勢が、特に若手インディペンデント映画の作家たちからリスペクトされるゆえんとなって久しいものがあります。

総じて彼自身のスタンスは下元史郎や大杉漣などと同様のものが感じられ、こういった存在が映画を豊かにしていることに疑いの余地はありません。

そのことを本作でもとくと退官していただければと思いますし、これからもクレジットに彼の名前を見つけたら、その作品には「何かがある」と睨んでも間違いないでしょう。

(文:増當竜也)

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