映画コラム

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2019年04月26日

『はじまりのみち』は実写とアニメのボーダレスを促進させた秀作

『はじまりのみち』は実写とアニメのボーダレスを促進させた秀作



(C)2013「はじまりのみち」製作委員会



映画には大きく実写映画とアニメーション映画といった分類がありますが、そもそも1秒間に24枚前後の画を重ね合わせながら「画が動く」錯覚をもたらすものが映画であると捉えたら、すべての映画はアニメーションであるとみなすことも可能かもしれません。

また最近は洋の東西を問わず、アニメーションを手掛けていた監督が実写を撮るという傾向が強まってきています。大ヒット作『シン・ゴジラ』(16)の庵野秀明などはその筆頭ともいえるでしょう。

今回ご紹介する『はじまりのみち』(13)もまた、『映画クレヨンしんちゃん モーレツ!オトナ帝国の逆襲』(01)や『百日紅』(15)などアニメーションの世界で大いに名を馳せ、4月26日からは新作『バースデー・ワンダーランド』も公開される原恵一監督が初めて手掛けた実写映画です。

しかもその題材は、日本映画界が誇る世界的名匠・木下恵介監督の若き日を描くという意欲的秀作なのでした!



名匠・木下惠介監督の
若き日の母と子のエピソード



映画『はじまりのみち』の舞台は、太平洋戦争末期の1945年初頭。

政府の命令で戦意高揚映画制作を義務付けられて久しかった軍国主義の真っただ中の日本映画界の中で、松竹からデビューして間もない新進気鋭の監督・木下惠介(加瀬亮)は『陸軍』(44)を発表しますが、出征する我が子を延々と見送り続ける母を捉えたラストシーンが軟弱であるとして当局から厳しく批判され、次回作の制作が中止になってしまいます。

失望した惠介は会社に辞表を提出し、病気の母たま(田中裕子)が療養している実家の静岡県浜松に帰省しました。

しかし間もなくして戦局の悪化で浜松も安全ではなくなり、惠介は母を疎開させるべくリヤカーに乗せて、兄(ユースケ・サンタマリア)と便利屋の青年(濱田岳)を伴い、山越えを試みるのですが……。

本作は実際に木下惠介監督が戦争末期に体験した事実を基にした作品で、この時期の彼は『陸軍』でどんな極限状況下であろうと母の子に対する愛情に変わりはないことを訴えたはずなのに、その意図が軍部にも国民にもうまく伝わらなかったことに絶望しきっていました。

しかし、そんな彼が実際に極限状況下に陥ったとき、再び映画界に戻るきっかけを与えてくれたのも母であったという、まさに木下映画を地でいく感動的エピソードを基にしたものなのです。

しかもこの作品、木下監督の生誕100周年を記念して企画されたものですが、実写ではなくアニメーション界の才人に監督をオファーしたという事象も、ユニークかつ大いに讃えたいものがあるのでした。

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木下作品の実験精神を
継承する原恵一監督



一般的に『二十四の瞳』(54)などヒューマニズムあふれる感動作で知られる木下監督ではありますが、一方では実験精神豊かに大胆な試みを忘れることのない才人でもありました。

全編卵型の画面で構成された『野菊のごとき君なりき』(55)や、オールセットで姥捨山伝説を再現した『楢山節考』(58)、日本初のカラー映画『カルメン故郷に帰る』(51)を発表したのも彼ですし、『笛吹川』ではモノクロ映像1コマ1コマに部分的着色を施しています。また晩年の作品『父よ母よ』(80)ではクライマックスにアニメーションを導入しています。

その伝に倣えば、アニメーション畑の原監督にオファーがいったことも全く的外れではありません。

また原監督作品の特徴として実写感覚のアニメーションへの転化が挙げられますが、その原監督がこの上なくリスペクトする映画監督が木下惠介でもあったのです。

両者の邂逅は必然であったともいえるでしょう。

実際『はじまりのみち』は、『河童のクゥと夏休み』(07)や『カラフル』(10)などアニメーションでは異彩を放つ原監督の実写感覚も、本当の実写映画ならば何ら違和感なく自然に流れていくのも当然で、とても初めての実写映画とは思えないほどスムーズです。

母を乗せたリヤカーを子がひっぱる画、それだけで木下映画と同質の抒情を醸し出しているあたりも秀逸で、原監督にはこれからも実写映画を撮っていただきたいと思ったのは、決して私だけではないはずです。

そもそも国産アニメーション映画が大ブームになった70年代後半は『宇宙戦艦ヤマト』(77)の舛田利雄、『龍の子太郎』(79)の浦山桐郎、『地球(テラ)へ…』(80)の恩地日出夫など実写畑の監督が多くアニメーション映画に参画し、それに負けじと『銀河鉄道999』(79)のりんたろう、『エースをねらえ!』(79)の出﨑統、『機動戦士ガンダム』3部作(81~82)の富野由悠季などのアニメーション監督が台頭していった経歴があります。

そして今、実写とアニメーションの垣根はますますボーダレス化し、双方が程好く交流しながら双方の資質を活かした索引が続出しています。

『はじまりのみち』も当然ながらその筆頭として挙げられるでしょうし、それは木下恵介監督の実験精神を原恵一監督が巧みに継承したものといっても過言ではないかもしれません。

(文:増當竜也)

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