映画コラム

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2019年06月14日

梅雨にめげない「雨にまつわる映画」5選!

梅雨にめげない「雨にまつわる映画」5選!




全国的に梅雨の時期となり、毎日が何となくどんよりモヤモヤって感じの方も多いかといらっしゃいますが、一方で映画と雨というのは実に相性が良いもので、雨の中の名シーンなんてものもたくさんあります。

『雨に唄えば』『シェルブールの雨傘』『ティファニーで朝食を』『ブレードランナー』『となりのトトロ』『黒い雨』『ショーシャンクの空に』『マディソン郡の橋』『きみに読む物語』『言の葉の庭』……などなどはもはや定番のラインナップといってもいいでしょう。

ならば今回は、そんな中で個人的にオススメしたい雨にまつわる映画をいくつかご紹介していきましょう!

●世界のクロサワが放つ雨
~『羅生門』(50)


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世界に名だたる巨匠・黒澤明監督が世界中に注目されるきっかけとなったのが、芥川龍之介の『藪の中』を原作にした『羅生門』です。

飢えと貧困の苦しみに包まれた平安時代を舞台に、殺された夫、犯された妻、その罪で囚われた盗賊、その惨状の一部始終を目撃していた杣売り、それぞれの証言の食い違いの中から人間のエゴと愚かしさを問いかける問題作で、これがベネツィア国際映画祭金獅子賞を受賞したことから、黒澤監督は一気に世界へ飛躍することになりました。

映画は叩きつけるような激しい土砂降りの中、杣売りが事件のあらましを語りながら展開されていきますが、その雨には墨汁を混ぜてホースで降らせることで、画にさらなる迫力をもたらしています。

黒澤監督もこの後、世界映画ベスト1の誉れも高い『七人の侍』(54)のクライマックス大合戦シーンに土砂降りの雨を降らせ、また自身で監督する予定で脚本を記した『雨あがる』(2000年に小泉堯史監督のメガホンで完成)でも長雨の憂鬱から晴れへ至る過程と夫婦の絆を重ね合わせています。

「雨はいつか上がる」、これこそが全ての黒澤映画に通じる基本理念だったのかもしれません。

●ホラーと雨
~『魔鬼雨』(75)


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私が子どもの頃の1970年代には公害などがもたらす環境汚染問題が深刻化されていましたが、その中に酸性雨、つまりは酸性の雨が降り注ぐといった現象もあり、その名前の響きも手伝って、子どもたちの間で、いつの日か人間を溶かす酸性雨が降って人類は滅びてしまうのではないか、などといったおっかない妄想をノストラダムスの大予言ブームの中で感じたりもしていたものでした(映画『ノストラダムスの大予言』の中にもそういったシーンは出てきます)。

映画『魔鬼雨』はそんな幼き日のこちら側の妄想を具現化したもので(?)、ここでは300年におよぶ悪魔の呪いの儀式として、人を溶かす雨を作り出す悪魔教の企みが描かれていきます。その雨が降り注がれるクライマックスは、CGのない時代によくぞやったりといった地獄絵図の構築がなされています。

日本ではさほど話題にならなかった作品ですが、アメリカでは当時『JAWS』(75)に次ぐ大ヒットを記録。これはやはりキリスト教圏内の人々が〝悪魔”という概念に対して過敏に反応してしまうというのもあるのかもしれません。
(あ、あとジョン・トラボルタの映画デビュー作でもありまして、彼も劇中見事に溶かされます!)

いずれにしましてもホラー映画の場合、雨そのものよりも嵐や雷といった状況下の惨事が普遍的になされがちな中、この作品は雨が降り注ぐことの恐怖を描いた作品として再評価されてもいいのかなと思う次第です。

最後に、この邦題は実に秀逸ですね!

●美少女と雨
~『放課後』(73)


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『日本沈没』(73)『八甲田山』(77)『海峡』(82)など1970年代後期からの日本映画大作時代を築き上げた森谷司郎監督(黒澤明監督の名助監督でもありました)は、実はそれ以前どちらかといえば青春映画の旗手として知られており、特に美少女を撮らせて右に出る者はいないとまで謳われる存在でした。

『放課後』はそんな森谷司郎監督が最後に撮った青春映画で、栗田ひろみ扮する高校生が自分の家に同居している若夫婦の夫をイタズラなのか本気なのか、おそらくは自分でもわからないままに誘惑し続けていく過程をスリリングに描いた傑作で、井上陽水の名曲《いつのまにか少女は》のイントロに乗せて彼女が降り出した雨とゆるやかに戯れていくラスト・シーンは、日本の青春映画史上に残る名シーンでしょう。

実際、映画の中の雨と美少女は相性が良いようで、本作以前にも内藤洋子主演の『その人は昔』(67)などがあり(後に竹中直人は監督第2作『119』でこの映画にオマージュを捧げたクライマックスの雨のシーンを設けています)、昨年も小松菜奈主演『恋は雨上がりのように』(18)話題を集めたばかりですね。


●戦争と日向雨
~『サン・ロレンツォの夜』(82)


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土砂降りの雨の中、寒々としたぬかるみの中での激しい戦闘シーンといった構図も戦争映画の定番ではありますが、兄ヴィットリオ&弟パオロのタヴィアーニ兄弟が監督した『サン・ロレンツォの夜』はそれらとは一味も二味も違います。

舞台は第2次世界大戦も終わりに近づいてきた1944年のイタリア中部トスカーナ地方の小さな村の人々が、北上する連合軍をめぐって村を支配するドイツ軍およびイタリア・ファシストらと北上する連合軍をめぐって対峙&確執、そして惨事へ突入していく群像劇を6歳の少女の目で寓話的に描いたもの。

そしてこの映画のラスト、村から脱出して連合軍を探すチームのリーダー格でもあった中年男ガルヴァーノが、幼い頃から想いを寄せていたコンチェッタと結ばれた翌日、明るい日差しの中で日向雨が降り注ぎます。

日向雨というどこかしら曖昧な存在は、生と死を隣り合わせにしながら日々進んでいく人生そのものの象徴であり、戦争がもたらすさまざまな惨禍と、その中でも芽生える希望との不可思議な連鎖までをも痛感させてくれます。

いずれにしましてもこの日向雨、通常の雨とはかなり異なる効果を映画にもたらすことだけは間違いなさそうです。

●石井隆監督と雨の美学
~『GONIN』




(C)1995 松竹株式会社 



ここ最近、若い映画ファンの間で80~90年代の日本映画の発掘がなされ始めているようで、その一端としてよく聞かされるのが石井隆監督作品の再評価です。

劇画家出身で、そのうち自作映画化の縁で日活ロマンポルノの脚本を手掛けるようになり、『天使のはらわた赤い眩暈』で監督デビューを果たした彼ですが、その劇画、脚本、そして監督作品すべてに共通するいくつかの要素の中に「雨」があります。

簡単に申すと、石井作品の中で雨が登場すると、そこから俄然ドラマが動き出し、スタイリッシュかつ観る側の心をわしづかみにするようなエモーショナルな抒情が発散されていくのです。

石井監督が初めて手掛けたバイオレンス・アクション映画『GONIN』のクライマックスはその筆頭ともいえるほど秀逸なもので、暴力団の金を強奪した社会のはみ出し者らと組員らの熾烈な攻防が、土砂降りの凍れる寒さと、激しいガン・アクションの熱さが化学反応を興したかのように魅惑的、いやもはや麻薬的ともいっても過言ではないほどの情緒を醸し出していくのです。

『GONIN』はこの後も、女たちの熾烈なドラマ『GONIN2』(96)と、『GONIN』の子供たちが織りなす後日譚『GONINサーガ』(15)と連なっていきますが、そのいずれも劇中「雨」が降り始めた瞬間、観る側は「何かが始まる!」と昂揚しながら画面に食い入ってしまうのです。

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以上、今現在自分がお好みの雨にまつわる映画5本選んでみましたが、映画ファンそれぞれによって嗜好は違って当たり前。いつか「雨の映画ベストテン」みたいなものをみなさんから募集して集計して見るのも面白いかもしれませんね。

(文:増當竜也)

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