『マーウェン』は『BTTF』ロバート・ゼメキス監督の集大成的快作!



(C)2018 UNIVERSAL STUDIOS 



ロバート・ゼメキス監督といえば『バック・トゥ・ザ・フューチャー』3部作(85・89・90)で知られる名匠のひとりで、最近も『マリアンヌ』などジャンルの枠を超えたユニークな活動を続けている映画人です。

そんなゼメキス監督の最新作『マーウェン』は、邦題だけではちょっとピンと来ないかもしれませんが、これがもうゼメキス監督の初期作品からリアルタイムで触れてきた側からすると狂喜乱舞の快作に仕上がっています。

なぜならば……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街394》

それまでのゼメキス監督作品の要素がぎっちり詰まった、いわば集大成的作品として屹立しているからです!

現実と虚構の交錯から
醸し出される心の闇


映画『マーウェン』は冒頭いきなり『コンバット!』よろしく第2次世界大戦ヨーロッパ戦線を舞台に、G.I.ジョーやバービー人形といった性別問わずのフィギュアを用いたユニークなバトル・アクションがダイナミックに繰り広げられていきます。

ロバート・ゼメキス監督は『ポーラー・エクスプレス』(04)『ベオウルフ/呪われし勇者』(07)『Disney’sクリスマスキャロル』(11)など3DCGアニメーション作品の制作に熱心なことでも知られていますが、今回もその延長線かな? と思いながら微笑ましく見ていきますと、そのうちこの世界は主人公マーク・ホーガンキャンプ(スティーヴ・カレル)がジオラマ撮影しているフィギュア・ワールド“マーウェン”であることがわかってきます。

ちょっと風変わりな雰囲気のマークですが、実は彼、5人の男に襲われて瀕死の重傷を負い、脳に障害を抱えてその後遺症(PTSD)に苦しんでおり、そのリハビリのためにフィギュア撮影を行っていることがわかってきます。

アカデミー賞で作品賞や監督賞など6部門を受賞した『フォレスト・ガンプ/一期一会』(95)やサイコ・タッチ・スリラー『ホワット・ライズ・ビニーズ』(00)、パイロットのアル中疑惑を描いた『フライト』(12)などヒューマニズムの裏側にひそむ繊細な心の光と影がもたらす不安定さ(2015年には高層ビルの綱渡りをモチーフに“不安定”そのものを描いた『ザ・ウォーク』を発表したばかり)。

またそういった精神性と社会との関連性にこだわり続けるゼメキス作品の本領がここでも発揮されています。

また、なぜこの主人公が暴行されたのか、その理由もゼメキス作品のフェチズム性などから鑑みても唸らされるものがあります。

こうした現実の悲劇や苦悩と対峙する主人公の心情が、実はフィギュア・コンバット・アクションのフィクショナルな痛快性から醸し出されていくのが本作の美徳であり、他の追従を許さない秀逸なところでもあります。



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ゼメキス作品を振り返る
絶好の逸品


本作は暴行事件とその後の精神的苦痛をフィギュア撮影で癒されていったカメラマンの実話をベースにした作品ですが、単にヒューマニスティックな感動作としてこしらえるのではなく、現実と虚構とを交錯させながらファンタジックに描いていくのもゼメキス監督らしいといえるでしょう。

中でも“マーウェン”におけるフィギュア劇のユニークさは特筆もので、ここではモーションキャプチャーで撮影された人形にスティーヴ・カレルをはじめとする俳優陣の顔をシームレスに結合させていくという手間暇のかかった作業で具現化されていますが、あたかもバービー人形版“特攻大作戦”といった風情がオモチャ箱をひっくり返したようなにぎやかさで実に楽しく、このあたりのテイストはデビュー作『抱きしめたい』(78)や『ユーズド・カー』(80)『ロマンシング・ストーン/秘宝の谷』(86)など初期のゼメキス監督作品ならではの楽しさです。

しかしながらそのフィギュア世界、やがて主人公の心の闇とシンクロしていくあたり、『永遠に美しく…』(92)など一筋縄ではいかないゼメキス流ダーク・ファンタジーの妙を堪能することもできるでしょう。

もちろんこれまでのゼメキス作品知識がなくても本作は1本のファンタジック・ヒューマン映画として大いに楽しめますが、逆にこれを見てゼメキス作品を振り返ってみる作業も楽しいでしょう……。

と、ここまで来て、「では『バック・トゥ・ザ・フューチャー』的な要素は今回入っているの?」と思われた方もいらっしゃることでしょうが、入っているかどうかは実際に本編を見てお確かめください!

(文:増當竜也)

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