映画コラム

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2019年10月12日

『ジョーカー』がいかに傑作か語る!映画上映開始3分で涙を流した経験はありますか?

『ジョーカー』がいかに傑作か語る!映画上映開始3分で涙を流した経験はありますか?

■橋本淳の「おこがまシネマ」

どうも、橋本淳です。
43回目の更新、今回もどうぞ宜しくお願い致します。

私という人間は間違いなく逃げる道を探してしまうでしょう。もし耐えがたい不条理が目の前に突然現れたとしたら。

逃げるといっても、一目散に駆け出すような感じではなく、身体が言うことを聞かず動かない状態で、必死になんとしても眼だけでも逸らそうとしているような。きっと大多数の人は同じ(だと思います)でしょう。

もし逃げずに立ち向かうとしたら、どうなってしまうのだろうか。一旦は受け止めることは出来るはず。しかし、それで維持をしようとしたら人間が壊れてしまうのではないか?

では誰かにぶつける、押し付ける、ことによって壊れることを防ぐ、それも選択の一つ。でも、もし優しさと忍耐力に溢れた人であったら、、、家族や友人、恋人といった心の支えになる人が周囲に誰も居なかったら、、、自分の限界(自身では気づかない)に達してしまうまで抱え込んでしまい、その後は爆発へと進む。

抱え込んだ末の爆発の場合で、その過程を知っていたら、簡単には否定出来ないし、ましてや肯定なんてことも当然出来ない。答えが出せない。

相反する気持ちが自分の中で、押し引きを繰り返し、言語化出来ない新たな感情となって渦巻いているのです。「面白かった!」と言っていいのだろうか、感情移入して涙を流していいのだろうか、と。ただこれだけは言える、傑作過ぎるほどの傑作です。

今回はコチラの映画をご紹介!

『ジョーカー』





ゴッサム・シティでは、市の衛生局がストライキを起こし、街角にはゴミが溜まっていた。政治は機能しておらず、貧富の格差は広がるばかり。暴力、略奪、といったことが、路地裏では日常茶飯事に起きていた。アーサー・フレック(ホアキン・フェニックス)は貧しい生活を送っていた。ピエロの格好をして道化師として働くも、自身の生活は困窮した。アーサーは脳の損傷から、緊張すると笑いだしてしまう病を持ち、同居する母も心臓と精神を病んでいた。ピエロの仕事と介護の毎日、唯一の楽しみは母とともに、マレー・フランクリン(ロバート・デ・ニーロ)が司会を務める人気バラエティ番組を観ることであった。アーサーの夢はスタンダップコメディアンとして活躍すること。そのことを胸にピエロの仕事を続けている。

ある日、ピエロの格好で閉店セールを宣伝していたアーサーが持つ看板を、ストリートギャングの若者が戯れに奪い路地裏に誘い込み、看板を壊し、さらには彼を袋叩きにした。契約不履行だとピエロ派遣会社の上司に怒られ、落ち込むアーサーに同僚であったランドルが、これで身を守れと拳銃を差し出した。しかし、その拳銃をアーサーは、小児病棟での仕事の最中に落としてしまい、解雇されてしまう。

落ち切った気持ちでピエロの扮装のまま地下鉄に乗り、女性をからかう3人のビジネスマンに絡まれてしまい、、、、




DCコミック、『バットマン』に登場する最強のヴィランとして有名なジョーカー。実写映画化で、歴代のジョーカー役は名だたる俳優が演じている。ジャック・ニコルソンももちろんだが、近年の印象として色濃く残っているのは、やはり『ダークナイト』でジョーカーを演じた故ヒース・レジャーではないでしょうか。白塗りメイクで快楽的に大量殺人をし、善人を悪の道に堕とそうする、新たなジョーカー像を創りあげた。ジョーカーと聞くとどうしてもチラついてしまう。

しかし、そんな鑑賞前の心配や空想なんてものは、開始直後から遥か彼方へ飛んでいき、上映前に買ったバカでかいLサイズのドリンクにも手を出すことも忘れて魅入っていた。

本作でジョーカーを演じるのはホアキン・フェニックス!彼のキャリア史上最高の芝居と絶賛されているのも納得というか、称賛しかありません。

公開したばかりなので、ネタバレ予防として、上記のあらすじもだいぶ端折りましたが、本作はネタバレしようがしまいが、ホアキンの芝居でそんなモノ関係ないでしょう。

ジョーカーの誕生譚。今まで描かれていない部分のオリジナルのストーリー、何故どうやってジョーカーが誕生したのかという話。

監督は、トッド・フィリップス。「ハングオーバー」シリーズが大ヒット。その他のキャリアのイメージとしてコメディ映画を得意とするイメージが強いが、実はドキュメンタリー作家としてキャリアをスタートさせており、真実性を追求する演出家である。




私事ですが、、二つほど前の記事に、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は今年間違いなくのベスト1だ!!と言い張っていたのですが、、、その熱を音速で追い抜いていってしまいました今作「ジョーカー」。

もう今回こそは間違いないでしょう、(本当か?)今年1が出ました。今この映画がかかっているこの時代に生きていて良かったと思えます。そのくらいホアキンのジョーカーに心を持ってかれているのです。

映画上映開始3分で涙を流す経験は皆さんありますか?

もし数日前にこの質問をされたら、「んなバカな」と一蹴したことでしょう。しかし、今回それを経験してしまったのです、嘘みたいな話ですが。スクリーンのホアキンは笑顔を作り、鑑賞する私は涙を流す。

観れば観るほど共感してしまう、しかしそれでいいのかと思う自分の倫理観。相手はなんていってもジョーカーです。自分もピエロのお面を被り、彼に心酔し、ゴッサムの街を徘徊してしまうのではないかと、恐怖感も感じていました。(もうぐちゃぐちゃ)

しかし、誰しもが共感しうるし、誰しもが内に抱えている感情なのでしょう。ここまで普遍的に感じさせるのにはホアキンの、決めつけで演じていない奥深さがあるのではないでしょうか。




アーサーからジョーカーになる瞬間。それをホアキンは決めつけず、観る側に委ねる形で、生き様を焼き付けたからではないでしょうか。観る人によって、ジョーカーへと変貌する場所が違うとおもいます。私自身、もう一度観るときには、きっとその時の状態で変わるのでしょう、それは確信しています。

あのアーサーの追い込まれていく感じは辛かった。冒頭のストリートギャングの襲撃で充分にフラグが立ち、救いだと思っていたシーンも空想ときて、母からの爆弾と、その後驚愕がさらに襲う。優しくて愛に溢れているアーサーに降りかかり過ぎる負の影響。彼の発作の笑い声を聞くたびに、こちらの心は締め付けられる。だから、ジョーカーに入り込んでいってしまう。上映後の自分の状態は複雑過ぎて、簡単には否定も肯定も出来ないようになっていた。危険ですね。

ただ、もっともっと優しさや思いやりで溢れる世界にしなければならないと思ってしまう。絵空事かもしれないけれども、せめて手の届く範囲にはそれを届けたい。笑顔といった表層的な印象から、その裏に隠された狂気に気づき、そこに触れる。なかなかシビアなハードルだけれどやる価値はある。現実は近いところまで来ているから。

もう何も言いません。
多くの方にこの作品が届きますよう祈るのみです。

そして観賞後、自らと対話してみてください。
きっとあなたに響く作品になると思います。
(より楽しむなら『キング・オブ・コメディ』『タクシー・ドライバー』を事前に観ておくと、より深さを得られます)

今回もおこがましくも、紹介させていただきました。

(文:橋本淳)

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