“殺カレ死カノ” “地獄少女”など脱キラキラ化し始めた日本の青春映画たち



失われていくものへの哀惜を描く
『わたしは光をにぎっている』




(C)2019 WIT STUDIO / Tokyo New Cinema 



『わたしは光をにぎっている』(現在公開中)は前作『四月の永い夢』がモスクワ国際映画祭で国際映画批評家連盟賞&ロシア映画批評家連盟特別表彰のW受賞を果たした期待の若手・中川龍太郎監督の最新作です。

本作のヒロインは20歳の宮川澪(松本穂香)。

早くに両親を亡くした彼女は長野の伯母(樫山文枝)の民宿を手伝っていましたが、その伯母の入院で民宿が閉館となったことを機に上京。

下町で銭湯を営む父の友人(光石研)に厄介になりながら最初は仕事を探しますが、なかなかうまくいかず、いつしか銭湯の仕事に従事するようになっていきます……。

ここで主題として描かれていくのは、町の風景が“再開発”といった事象によって日々移り変わっていく寂寥感と、孤独なヒロインの心情をリンクさせながら、いつしか“失われていくもの”へのエールを送りながら、前に向かって歩き出そうとする人生の示唆そのものです。

中川監督作品に必須のさりげなくも圧倒的な光の映像が、ここでは下町の路地や古びた建物など普段は気づきもしない町並みを愛おしい美として描出しつつ、決して安易な都市開発批判の域に陥ることなく、巧みなバランスでヒロインの日常に寄り添っていくあたりが実にお見事です。

TV版『この世界の片隅に』(18)や映画『おいしい家族』(19)など、このところ着実に若手女優として躍進し続けている松本穂香ですが、その中でも本作は筆頭株の代表作に成り得ています。

中川監督は本作を「飛べない時代の魔女の宅急便」と語っていますが、そうなると彼女は現代のキキとしてまた多くの支持を得ること必至でしょう。

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