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2019-12-21

コラム

『ブレッドウィナー』は『この世界の片隅に』と並ぶアニメ映画の大傑作!

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見る者の意識を啓蒙する
真のエンタテインメント



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本作は平和活動家のデボラ・エリスが1997&1999年にわたってパキスタンのアフガニスタン難民キャンプで多くの女性や子供たちに取材しながら書き上げたベストセラー小説『生きのびるために』を原作にノラ・トゥーミー監督が映画化したものですが、タリバン支配下の過酷な状況を伝えるとともに、決してくじけない少女の勇気を通して希望の未来が示唆されていきます。

そこに大きく関わってくるのが“物語”の存在で、一見何の腹の足しにもならないようでいて、実は心を豊かにし、人生に潤いを与えてくれる“文化”のひとつ。

こういった文化をないがしろにするとき、世界は荒廃してしまうことまでも本作は訴えているようです。

劇中、日常のシーンは2Dで、“物語”シーンは切り貼りアニメで表現されていますが、これによって現実と空想の対比が明快になされるとともに、アニメーション技術ならではのファンタジック性も増大。

シビアな題材ながらもファンタスティックな映画の味わいをとくと堪能できる仕組みに成り得ています。

またイスラム原理主義の非道を訴えながらも、イスラム教そのものやイスラム文化などを否定していないのも、この映画の妙味でしょう。

登場する男たちもすべて害悪として描かれるのではなく、パブールに協力する者も登場します。

もっともタリバンは鳥や動物を籠に閉じ込めることは禁止しつつも、女性に対しては家の中に閉じ込め、性奴隷のごとき扱いを徹底させていました。

そして現在のアフガニスタンはタリバン政権こそ崩壊したものの性差別は厳然と残っており、女性教育や自己表現は命の危険すら伴うほどタブー視されています。

差別や慣習を改めようとする女性人権活動家に対する脅迫は絶えることなく、実際に暗殺事件も幾度か発生。

自転車に乗っただけで迫害され、親が反対する結婚相手を選んだことで肉親から殺害されたりも……。

国連からは「アフガニスタンは女性に対する環境が世界最悪だ」と指摘されています。
(もっとも、日本もレイプされた被害者がなぜかバッシングされてしまうなど、実は性差別の意識が今なお根強いことには変わりないでしょう)

こうした状況下で人権活動家としても知られるアンジェリーナ・ジョリーが本作の製作に関与しているのも、当然といえば当然なのかもしれません。

昔も今も娯楽と芸術を分けて考えたり、アニメーションにしても「子供のものだ」とか逆に「大人向けに作りました」といった区分けがなされがちですが、本作のような優れた作品に接すると、芸術も娯楽要素の一ジャンルにすぎず、同時に見る側の意識を啓蒙し高めてくれるものこそが優れたエンタテインメントであり、また本来アニメーション技術そのものに大人だの子供だのといった区分けは無意味であることまで、改めて痛感させられます。

こういった意識に気づかされるのは、古くは『風の谷のナウシカ』『火垂るの墓』などから、最近では『幸福路のチー』や『この世界の片隅に』などの優れた作品群であり、『ブレッドウィナー』もそうした真のエンタテインメント作品として少しでも多くの人々に受け止めていただきたいと願ってやみません。

(文:増當竜也)

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