震災、原発事故、そしてコロナ……今こそ見直す映画『天空の蜂』
原発賛成派にも反対派にも
組せずに魅せるエンタメ
今でこそ原発問題は賛否を含む激しい論争を巻き起こし続けていますが、20年前に記された小説の映画化ということもあってか、本作は原発賛成派にも反対派にも組しない内容と姿勢を矜持した上で、ポリティカル・サスペンス・エンタテインメントとして成立させていることは特筆しておいてよいかと思います。
(C)2015「天空の蜂」製作委員会
導入から前半部の天空の蜂の要求を巡る政府や開発者たちの混乱が群像劇として過不足なく描かれ、後半に入ってのさまざまな真相が明かされていくあたりはネタばれを避けるにしても、『砂の器』や『誘拐』のようなドラマ構成を彷彿させるものがあります。
仲間由紀恵や綾野剛、柄本明、國村隼、竹中直人などオールスター・キャストも魅力の一つではありますが、中でも光っているのは本木雅弘で、この年の彼は『日本のいちばん長い日』の昭和天皇役と合わせて数多くの助演男優賞を受賞しています。
いずれにしましても、原発を題材にすると社会的メッセージの強い問題作になりがちな(もっともそのことを目的に作られていることも多いわけで、それはそれでありだとも思います)日本映画界ではありますが、本作はそれらとは少し視点をずらしてエンタメとして観客に見せこみながら、その上で考えさせてくれる作品には成り得ていると思います。
特に震災後、そして現在のウイルス・パニックで大揺れの国内において、何某かの啓蒙を見る側に与えてくれるのではないでしょうか。
(文:増當竜也)
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