映画コラム

REGULAR

2020年08月06日

『ジョーンの秘密』レビュー:スパイとして逮捕された老女の真相を描く衝撃作

『ジョーンの秘密』レビュー:スパイとして逮捕された老女の真相を描く衝撃作



誰もがジョーンに成り得るという
メッセージを忍ばせた人間ドラマ


実にドラマティックな内容の映画です。

https://www.youtube.com/watch?time_continue=1&v=0nrMR028C2k&feature=emb_title

しかし、これが実話の映画化であるという事実にも驚かされます。
(もっと正しくいうと、実話を基に記されたジェニー・ルーニーの小説の映画化。モデルとなった女性メリタ・ノーウッドは、両親の影響で幼い頃から熱心な共産主義者であり、2005年に92歳で亡くなるまで自分のしたことを後悔してなかったとのことです)。

まずは時代背景となる第2次世界大戦前後の複雑な思想的事情。

当時のナチスドイツという強大な敵に立ち向かうために、米英(資本主義国)とソ連(社会主義国)が共闘しなければいけなかったことのひずみが後の東西冷戦をもたらすわけですが、そこで東西の均衡が保たなければ世界が滅んでしまいかねないという危機感が、この事件の背後に潜んでいます。

またそういった激動の時代の中にも若い男女の恋愛というものも確実に存在していたわけで、そのとき誰と付き合っていたかなどの人間関係もまた、当人の思想体系を形作っていきます。

ジョーン・スタンリーもまた決して特別ではなく、どこにでもいる女性であり、そのときの環境や人間関係によって実は誰もが起こし得る事件であったことが、本作のスリリングな展開の奥底から滲み出ていきます。

その意味では2000年のジョーンを演じるジュディ・デンチの、まさにそこにいるだけで全てが物語れているといっても過言ではない圧倒的存在感もさながら、それを裏打ちする若き日のジョーンを体現するソフィー・クックソンの真摯な熱演も大いに讃えるべきでしょう。
(一方で、彼女に関わる男たちの浅はかさの数々には辟易するほどのものがあります……)

監督はジュディ・デンチ主演の舞台を幾度も演出してきたトレヴァー・ナンで、彼女の実力を知り尽くしているがゆえに、そこを中心としながら本作独自の世界観の構築を見事に成し得ています。

また半世紀前の時代を完璧なまでに再現したかのような美術や衣装、メイクなど、さりげなくも重要かつ徹底すればするほど映画の厚みを増すスタッフ・ワークの見事さにも感嘆させられること必至。

単にスリリングなスパイ暴露ものではなく、実は誰もがジョーンに成り得るという深いメッセージを忍ばせた人間ドラマとしてプッシュしておきたい秀作です。

(文:増當竜也)

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

RANKING

SPONSORD

PICK UP!