『ファヒム!パリが見た奇跡』レビュー:天才チェス少年が見た異国の風景
移民問題と少年映画の機微を
巧みに両立させた秀作
冒頭に記したように本作は実話の映画化で、まずは2000年代バングラデシュの激動から逃れる父と子の脱出口がスリリング感以上に、どこか新しい世界へ赴くドキドキ感こそを伴いながら描かれていきます。
https://www.youtube.com/watch?time_continue=1&v=jb7w7-0kncY&feature=emb_title
彼らが到着したフランスは当初まるで絵葉書のように美しい世界として描出されますが、まもなくしてそこが絵葉書でも何でもない、現実のシビアな世界であることに気づかされ、同時にファヒムも少しずつ成長し、現地に適応していくのです。
手で料理を食べていたファヒムがフォークとナイフを使うことを覚えるくだりなど、言語の別以上に国の習慣の違いがさりげなくも巧みに描かれていました。
また母国に残した母親とテレビ電話で会話するシーンなど、母を想う子の寂しさみたいなものもきちんと盛り込まれています。
ファヒムを演じるアサド・アーメッドも実は本作のキャスティングの3か月前にバングラデシュからフランスに赴いていたキャリアの持ち主で、当初はほとんどフランス語が話せなかったのが、瞬く間に達者になっていったとのことで、やはり子どもならではの柔軟性みたいなものを痛感させられます。
またチェス教室の子どもたちと海で遊ぶシーンの彼の驚きの演技は、実際そのとき初めて海を見たという彼の驚きそのものを捉えたものとのことです。
本作は彼を始めチェス教室の子どもたちのユニークな個性の数々も含めて、移民などさまざまな人種を抱えるフランスのヘイト的な問題に対する意見具申にも成り得ています。
(ファヒムの父の発言をことごとく悪い方向へとデタラメに訳す通訳者も、実際にあるあるのエピソードだそうです)
それはおそらくこれからどんどん深刻化していく移民問題と対峙していかなければならない世界中の人々の胸に、十分訴え得るものがあることでしょう。
そもそも本作は拳を振り上げてメッセージを叫ぶのではなく、実話の映画化なのにどこかファンタジックな寓話のように、このドラマを見せこんでいるのが妙味ともいえます。
監督のピエール=フランソワ・マルタン=ラヴァルはインタビューの端々で「お伽噺を信じる」と発言していますが、そうした彼の姿勢が本作には見事に注入されています。
また俳優出身というキャリアゆえか、ここでの子役たちの扱いの見事さ、またジェラール・ドパルデューとチェス教室の主催者マチルダ役のイザベル・ナンティといったフランス映画界の大ベテランの魅力を大いに活かした手腕も特筆事項でしょう。
ちなみに実際のファヒムは2019年に成人して滞在許可証を得ることができたものの、未だにフランス国籍を取得できてはいないとのこと。取得にはさらに5年の歳月が必要とされるようです。
(文:増當竜也)
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