映画コラム

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2020年08月27日

『ようこそ映画音響の世界へ』レビュー:全ての映画ファン必見の“音”の魅力!

『ようこそ映画音響の世界へ』レビュー:全ての映画ファン必見の“音”の魅力!



映画ファンを音の虜にした
『地獄の黙示録』の音響


本作を見ていくと、映画音響の魅力を簡明かつ奥深く伝える最大級の映画としてフランシス・F・コッポラ監督の『地獄の黙示録』(79)を挙げ、その音響デザイナーを務めたウォルター・マーチに限りないリスペクトを捧げつつ、彼らの世代によって映画音響が飛躍的に向上していった歴史的事実までも網羅していることがわかります。

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個人的にも1980年の春、『地獄の黙示録』を初めて映画館で拝見したときの音の衝撃は、今も耳に焼き付いています。

冒頭、劇場内のあちこちを浮遊するヘリコプターの音にドアーズ《THE END》がかぶさっていき、画は爆撃されるヴェトナムのジャングル(爆撃音はなし)から、サイゴンのホテルの一室に横たわるウイラード中尉(マーティン・シーン)のアップなどとオーバーラップしていき、どこか幽玄なるファンタジック性をもたらしながら、彼のつぶやくようなモノローグから壮大なる映像オペラ(公開時、そうたとえた人もいました)が繰り広げられていく。

また映画の前半部、キルゴア大佐(ロバート・デュヴァル)が兵士らにサーフィンさせてやりたいがために敵地を急襲するくだりで、ヘリコプターのスピーカーから景気づけにワーグナーの《ワルキューレの騎行》をボリューム最大限に流しながら現地へ向かい、やがて爆撃を敢行する際のおぞましいまでの昂揚感などなど、まさに音がもたらすさまざまな魅力が充満されていたのが『地獄の黙示録』でもありました。

こうしたウォルター・マーチの驚異的実績に感銘を受けた若き映画ファンの多くが、やがて彼の後を追いかけながら音響技師となり、さらなる音の飛躍を果たしていくことも、この映画は伝えています。

こうして考えていくと、映画の音響は映画館で見ることを前提に構築されており、その意味ではTVなどで映画を見ても(ましてやスマホなんて!)それは真に作品の魅力を体感していることにはならないことにも改めて気づかされることでしょう。

世界的な自粛の風潮で映画をソフトや配信で見る機会がぐんと増えてしまった昨今ですが、やはり映画ファンならば映画館で映画を見てこそ、その本質に接することができるのではないかと確信をもって言うことができます。
(もっとも音響設備の良くない映画館は避けましょう。昭和の昔、音が籠って台詞が聞き取れない映画館の何と多かったことか……)

などなど、こちらがいくらへたくそな文章で本作をアピールしても、文字で音の魅力を表現することの限界を痛感させられるのみ。

もう論より証拠で、何度も繰り返しますが映画ファンを自認する方は絶対的なまでに本作を見てほしい必見作です。

特に、これから映画ファンになりそうな若い世代がこれを見たら、その後はもう画と音の融合がいかになされるかを基軸に映画鑑賞していくこと必至。

『ようこそ映画音響の世界へ』という優しくも簡明な邦題に装われた作品世界の中には、映画本来の観客に対するおもてなしの精神と、その精神を具現化するための音響面スタッフの努力と苦悩と誇りがぎっちり詰め込まれているのです。

今後「『ようこそ映画音響の世界へ』を見たけど、面白かったよ」なんて言ってる方がいらっしゃったら、本当の映画ファンだなと認識するようにしたいと思っています。

P.S.9月25日公開の『映像研には手を出すな!』でも、映像を構築する上で音響がいかに大事な要素であるかが面白おかしく、そしてわかりやすく描かれています。本作と続けてみると、楽しさは倍増すること間違いなしでしょう!

(文:増當竜也)

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