クライム・サスペンス邦画の魅力|『天空の蜂』から考える
2020年12月4日から公開される『サイレント・トーキョー』は、原作が「アンフェア」の秦建日子、監督が「SP」の波多野貴文、キャストに佐藤浩市、石田ゆり子、西島秀俊などオールスター・キャスト大作。
クリスマスの東京を襲う連続爆弾テロの恐怖とそれに立ち向かう人々の攻防を描いたポリティカル・サスペンス映画で、渋谷駅前を広大なオープンセットで完全再現していることも大きな話題になっています。
このところ日本映画もスケールの大きなクライム・サスペンス映画が多く作られてきている感がありますが、さまざまな世相不安に苛まれて久しい昨今を象徴しているのかもしれません。
今回ご紹介する『天空の蜂』も東野圭吾のクライム・サスペンス小説を原作に堤幸彦監督のメガホンで映画化した2015年度の作品です。
ここでは何と、原発を襲うテロリストの脅威が描かれていきます!
高速増殖炉を襲う
テロリストの脅威
ある日、錦重工業の小牧工場試験場の第三格納庫から軍用巨大ヘリコプター「CH-5X(ビッグB)」が“天空の蜂”と名乗るテロリストによって、その制御を奪取されました。“天空の蜂”は大量の爆薬を搭載したビッグBを移動させ、福井県の高速増殖炉「新陽」の上空にてホバリング。
まもなくして現在稼働しているか建設中の原発の発電タービンのすべて破壊するよう、日本政府に脅迫します。
要求に応えない場合は、ビッグBを新陽に墜落させる。
またビッグBがホバリングしていられる時間は8時間。
しかもビッグBの中には、たまたま工場見学に来ていた子どもが誤って乗ってしまっていました。
こうした危機的状況の中、ビッグBの開発者でもある湯原(江口洋介)や錦重工業の原子力技術者・三島(本木雅弘)らは、それぞれの立場から事態の収拾に動き始めるのですが……。
核がもたらす懸念の中での
勇気ある映画化
1995年に原作小説が書かれてから20年後、2011年の福島原発事故によって多くの日本人が改めて核がもたらすものに気づかされ、懸念していく中での勇気ある映画化、それが『天空の蜂』であるともいえるでしょう。江口洋介や本木雅弘、仲間由紀恵、綾野剛などオールスター・キャストの布陣も魅力的です。
(この年、本木雅弘は『日本のいちばん長い日』、綾野剛も『新宿スワン』などとの合わせ技で、多くの映画賞を受賞しています)
スリリングに進むストーリー、ゴージャスなキャスティング、そしてサスペンスフルな演出が三位一体となって、事件の勃発からラストまでずっと見る者を画面に釘づけにしてくれます。
また興味深いのは、核に対する賛成or反対さまざまな意見がエスカレートしていくことへの懸念が映画の重要なモチーフのひとつになっていることで、とかくSNSの炎上騒動などが日常茶飯事となって久しい現代社会において、はっとさせられる向きも多いことでしょう。
映画でも何でも娯楽という名のメディアを用いて、見る側に何某かの意識の向上をもたらすものこそ真のエンタテインメントと呼ぶにふさわしいかと思われますが、その伝で申すと本作もきっと現代社会や人間に対する何某かの想いをもたらしてくれることでしょう。
(文:増當竜也)
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