『おもいで写真』レビュー:遺影ならぬ“おもいで写真”を撮り始めた女性の心の軌跡
キャストのコンビネーションから
醸し出される秀逸な化学反応
まず本作のユニークな点は、何よりも遺影写真というものをモチーフにしたことでしょう。
葬儀の実務的なことを体験したことのある人ならば、その多くが故人の遺影をどれにしようか悩まれたことがあるはずです。
そういえば昔、ある映画会社の社長さんを取材した折に、カメラマンが撮った写真をご本人がいたく気に入り、「葬式の写真に使いたいから大きく引き伸ばしたものを」と頼まれたことがありました。
そのときはカメラマンともども「え~!?」みたいな感じでしたが、数年後その社長さんが亡くなられたとき、その写真が使われていたと知ったときは、どことなく感無量でもありました。
人生の最期をビシッとしめる上でも、葬儀用の写真を生きているうちに撮っておくのは実はかなり得策かと思われます。
しかも、それを「おもいで写真」と称することで、本人だけでなく周囲の人々の思い出をも喚起させてくれる……。
ヒロインの結子はそのことに気づき、少しでも多くのお年寄りの思い出を残しておこうと努めていきます。
しかし人の数だけ人生があるわけで、まだ若い彼女にはそのすべてを受け止めることができないという葛藤も生じていきます。
乃木坂46時代には「聖母」と謳われ人気を博した深川麻衣がそんな結子を健気に演じています。
乃木坂46卒業後は女優としての活動を始め、『パンとバスと二度目のハツコイ』(18)や『愛がなんだ』(19)など順調にキャリアを重ねている彼女ですが、本作は更なるステップアップに結びつくものと思われます。
特に吉行和子や古谷一行など役者としてのみならず人生のベテランたちと相まみえることができたのは彼女にとって良い機会になったことでしょう。
実はこの映画の結子、かなり生真面目すぎてギスギスイライラしているところも大いにあり、お年寄りたちにその面を見せないように腐心している分、幼馴染の一郎にストレスをぶつけまくっています。
しかしぶつけまくられている一郎を演じる高良健吾の、いかにも町役場の善い人といった風情が、そんな彼女のギスギスを嫌味なものにすることを回避させてくれている感もあります。
(劇中の彼を見ていて「お前、いくら好きな女とはいえ、あそこまで言いたい放題言われまくって、よくそこまで我慢できるなあ」と半分呆れつつ感心してしまうことが多々ありました!?)
その意味でも映画のキャスティングとは、単に優秀な人材ということだけでなく、関わる相手のとのコンビネーションがもたらす化学反応の妙にもあることを、本作は巧みに訴えています。
本作の原案・脚本(共同)・監督を務めた熊澤尚人は、こうしたキャスティングの相互関係にも気を配るかのように役者の資質を引き出しながら、人生であったり青春であったりと人間讃歌をささやかに奏で上げることに長けた才人です。
キャストのコンビネーションということでは、自主映画を題材にした上野樹里&市原隼人の『虹の女神』(06)や、多部未華子&三浦春馬による青春キラキラ映画の中でも珠玉の傑作『君に届け』(10)などが即座に思い浮かばれます。
最近でも人気アニメの実写版『心がさけびたがってるんだ。』(17)における青春群像劇としての若手キャストの魅力を引き出していく妙や、千原ジュニアと子役・平尾菜々花によるヒリヒリするような疑似親子関係を描いた『ごっこ』(18)は、まさにこの監督の代表作の1本。
また殺人を繰り返す女性(吉高由里子)と二人の男性(松坂桃李&松山ケンイチ)の相互関係によって彼女の哀しみが醸し出されていく『ユリゴコロ』(17)といった異色作もありました。
今回も熊澤監督は、まだまだ未熟な若い女性(結子がなぜ東京で仕事をクビになったのかも、その言動の数々から何となく理解できてしまう!)を成長させるために、さまざまな仕掛けを講じていきます。
時に自分が毛嫌うような生きざまを呈してきた者とまでがっぷり対峙せざるをえなくなるような状況を作り出しながら、人生の年輪とは何かを彼女にしらしめ、やがては寛容の心を育ませていきます。
富山県を舞台にしていますが、特に地元の観光名所的な撮り方は成されておらず、日本全国どこでも普遍的な題材であることをさりげなく訴えているあたりも好感が持てました。
決して大仰に感動を伝えるような作品ではなく、悪魔でも小品佳作としてのささやかな味わいに満ちた作品で、途中途中でいろいろとギスギスした展開がもたらされるものの、最終的にはハートウォーミングなものが心に残る仕掛けになっているのもこの映画の美徳でしょう。
恐らくこの映画を見て、自分の親とかに「おもいで写真」を撮っておこうよと誘いたくなる方は多いと思われます(くれぐれも「遺影」と言わないほうが賢明ではあるでしょうけど!?)。
(文:増當竜也)
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