『タクシー運転手 約束は海を越えて』レビュー:『パラサイト』のソン・ガンホ主演の実話を元にした映画
どうも、橋本淳です。
77回目の更新、今回もよろしくお願いいたします。
世の中に流れているこの情報、はたして本当に真実なのか。
ふと疑問に思うことがあります。
色んな情報から想像していたが、実際その場所に行って、見聞きすると全然違った、という経験は皆様ありますでしょうか。
きっと少しはあるのではないでしょうか。
例えばグルメサイトを見て行ったら、写真と全然違った。(良い方のパターンも、悪い方のパターンも)みたいな経験、ありますよね。
情報量が多く、調べると見きれないほどのデータが出てくる。しかし、そこにはたくさんのフィルターが入って届いているものもあるために、真実から逸脱したものも多く含まれる。
やはりこういった時代だからこそ、自身の目で、耳で、五感を使って感じたものを大切にしたいですね。実際にその場に立ち、空気を吸う、その経験を大切に、、
この映画を見て、そんなことを思ってしまいました。
今回はコチラの映画をご紹介!!
『タクシー運転手 約束は海を越えて』
1980年、韓国。学生たちが民主化を訴え、戒厳軍への抗議デモを続けていた。ソウルではそこまで大きな問題はなく、市民たちは普通に暮らしていた。
ただデモによる渋滞はあり、個人タクシーの運転手であるマンソプ(ソン・ガンホ)には少し迷惑であった。マンソプには、11才になる一人娘がおり、病気で妻を亡くしていたので、2人暮らしをしていた。タクシー運転手の収入だけでは、生活は厳しく、家賃は滞納し、娘に新しい靴も買うことも出来ずにいた。
食堂で昼飯を食べていると、近くの席から儲け話の話を盗み聞く。それは「通行禁止時間までに、外国人を光州まで乗せていけば10万ウォンを貰える」というものだった。
その仕事をうまいこと横取りしたマンソプは、ドイツ人のピーター(トーマス・クレッチマン)を乗せ、光州へと向かったのだった。
光州の入り口には、通行禁止の看板、不審に思うマンソプだが、「いってくれ」とピーターに押され進んでいく。さらに進むと、軍人が検閲をし高圧的な態度で、引き返せと言われる。マンソプは運賃をもらうために必死になり、なんとか上手いこと光州に入ることが出来た。
光州の街の光景に驚くマンソプ。人気はなく、戒厳軍への抗議の垂れ幕がかかっている異様な街並み。そこをトラックの荷台に乗った大勢の若者たちと出くわす。
彼らはデモ隊の一員だった。ピーターは彼らに、「自身は外国からきた記者だ。この街のことを世界に伝えたい」と伝えると、若者たちは大喜びする。トラックに付いてきてくれと言われるマンソプだが、内心はお金をもらって早く帰りたい一心であった。
デモに参加している人々と交流していくうちに、マンソプの気持ちも変わっていく。そして情報操作により、この光州で起きている真実は、外の街にはきちんと伝えられていないことを知ると、マンソプはピーターや光州の人々に協力的になっていくのだった。
私服軍人に追われるようになってしまう、マンソプとピーターは無事に街を出てソウルに戻り、世界にカメラに納めた真実を伝えることは出来るのだろうか、、、
韓国映画界を代表する名優、ソン・ガンホ主演。
見るたびに作品を深いところまで連れていってくれる存在は、今作でもその魅力を遺憾なく発揮しています。
シリアスな部分からコメディ的な部分まで、振り幅のある作品の中で、その中心でしっかりと作品の芯を支えつつ、自身の役も様々な表情や、空気を自在操り、魅力溢れる人物に造形していました。
実話を元にした本作。
わたくしが不勉強なのですが、40年ほど前という近い時代にこういったことが行われていたことにとても驚き、知らなくてはいけないなと心を改めさせられました。
光州の街では、絶望的な状況になっているにも関わらず、その隣の街では、そのことは知られていない。しかも真実ではなく、捻じ曲げられた嘘の情報が伝わっていることの恐ろしさに、身の毛がよだちます。
重たいテーマ、メッセージの中、明るいシーンではB級映画のようになり、そのトーンの強弱に作品の奥行きが増していきます。見やすい中にも、観客にしっかりと伝えていく。
メガホンを取ったのは、『映画は映画だ』『義兄弟』などを手掛けるチャン・フン監督。追い込まれた状況の中、異色なキャラクターを共存させていくストーリーは今作も健在。今後も注目していきたい監督のひとりです。
まだまだ知り得ないことがたくさんある世の中。映画に触れることで、そのことを知るきっかけになる大切さを今回も感じました。
これだから映画はやめられない。
舞台稽古中の現在ですが、映画によって日々支えられています。
皆さまもどうぞ、ご鑑賞ください。
それでは今回も、おこがましくも紹介させていただきました。
(文:橋本淳)
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