『リスタート』だけではない、元アイドルの再生物語『ピンカートンに会いにいく』!
2021年7月16日より公開される『リスタート』は、スターとのスキャンダルに巻き込まれてアイドル生命を絶たれたミュージシャン志望のヒロインが故郷の北海道・下川町に戻り、再び生きる希望を取り戻していく姿を描いた青春ヒューマン音楽映画です。
今やお笑い芸人の域を超えた本格的な映画監督として屹立している品川ヒロシ監督としては初の本格ヒロインものですが、これまでの『ドロップ』など荒々しくも潔い個性の目線はそのまま主演のEMILYに注がれており、その意味でもすがすがしい青春映画に仕上がっています。
さて、今回はアイドル生命を絶たれ……という繋がりで(!?)、こちらはアイドルグループの奇跡の再生(?)を描いた2018年度の坂下雄一郎監督作品『ピンカートンに会いにいく』をご紹介。
いや、この映画マジで面白いんです!
20年前のアイドルユニット再結成!
しかし現実は……?
映画『ピンカートンに会いにいく』のピンカートンとは何か?
それはかつて存在していた5人組の女性アイドルユニットの名前です。
正直そこまで爆発的な人気はなかったものの、アイドルマニアにはそこそこ名の知れていたピンカートン。
しかし彼女らはブレイク寸前で突如ライヴを放棄し、そのまま解散。
そして20年の時が経ち、あの頃のピンカートンが好きだったという若手レコード会社社員・松本(田村健太郎)の熱意によって再結成の企画がもたらされるのでした。
実はメンバーの中でひとりだけ今も芸能界に残ってしがない営業を続けていたリーダーの優子(内田慈)は、この企画に燃えて元メンバーの説得にあたります。
しかしながら時というものは確実に流れているもので、みんなそれぞれ家族を持つ立派なおばさん(山田真歩&水野小論&岩野未知)となっていて、当然ながらつれない反応。
しかもメンバーの一番人気だった葵(松本若菜)の行方はわからないときました。
優子は葵の消息を捜し求めていきますが、その過程でなぜあのときピンカートンは解散することになったのかを思い出していくのでした……。
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イタイ女を演じて
内田慈の右に出る者なし!
本作は思春期に栄光を掴むべく奮闘していたものの夢破れた女性たちの人生復活戦ともいえる切磋琢磨をコミカルに描いたものです。
もっとも、そんなにたやすくハッピーエンドへ行き着くような夢物語の域に陥るのではなく、あくまでもシビアな日常と現実を見極めつつ、決してもう若くはない女性たちが再び立ち上がれるのか否かを、仲間たちの連帯も確執も隠さず描いているのがキモともいえる作品です。
実質的な主人公となる優子の落ちぶれ芸能人ぶりもさながら、そのはすっぱなでやさぐれた風情が何とも言えない憐憫を醸し出していきます。
(ちなみに内田慈、この前には『ロスト・パラダイス・イン・トーキョー』(10)で元地下アイドルで現・風俗嬢を、後には『レディ・トゥ・レディ』(20)では競技ダンスに挑む売れない女優を演じていますが、そういった風情の女性を演じて右に出る者はいないほど、常にバツグンの存在感を発揮してくれているのでした!)
一方で、メンバーの中で唯一今も見た目の美しさを保っている葵を演じる松本若菜の存在感も、巧みに優子=内田慈との対比になり得ています。
この作品、当然ながら20年前のアイドル時代の過去は若い女優たちが演じているわけですが、解散の真相に辿り着くまでの彼女たちのギクシャクしたやりとりもまた一興。
中でも若き日の優子(小川あん)と葵(岡本夏美)の確執が、今に至る遺恨を引きずってはいるわけですが(このふたりのやりとりもまた繊細かつ秀逸に描かれています)、最終的に和解したのかしてないのかあやふやなままクライマックスへと突入していくリアルさもまた、ある程度の年齢を経ている人が見れば大いに納得できる人生の機微が形成されていると言っても過言ではないでしょう。
映画を見ていて「いや、さすがにもう再結成は無理でしょ」と突っ込みたく向きもあるでしょうが、幼い日の美しい記憶はいつまで経っても薄れることはないものなのか、このプロジェクトを推し進めていく松本クンもまたなかなか可笑しくも愛すべき人物ではあり、ドルオタならずとも何某か共感してもらえるものがあるようにも思えます。
人生とはかくもイタイものなのかと、画面を見ながらふと我に返って溜息をつく瞬間もありつつ、そのイタさも受け入れつつのものであることまで痛感させられる、90分にも満たない尺ながら奥深いものを堪能させてくれる快作なのでした。
(文:増當竜也)
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