映画コラム

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2021年08月01日

自宅特化の体験型ホラー『ROOOM』の斬新な怖さ|主人公を追い詰めるのは観ているあなたかもしれない。

自宅特化の体験型ホラー『ROOOM』の斬新な怖さ|主人公を追い詰めるのは観ているあなたかもしれない。



夏は怪談の季節。しかし、今年はみんなで集まって怪談話をしたり、お化け屋敷に行ったりする機会は限られるかもしれません。

そんな時はお家でホラー映画鑑賞がはかどります。そんな今年、アスミック・エースが新感覚の体験型ホラー『ROOOM』を発表しました。これは、自宅でシンプルに映画を観るだけでなく、知らない人々とつながり、視聴者が物語に巻き込まれながら展開していくユニークな試みです。

『ROOOM』公式サイト

※以下、物語のネタバレを含みます。

LINEを通じて物語とつながる

『ROOOM』は、自宅でPCもしくはタブレットでの視聴を前提に作られています。体験するには、PCかタブレット1台、さらにLINEがインストールされたスマートフォン1台を必要とします。さらにイヤホンを挿しての環境が推奨されています。

舞台はとあるマンションの一室。もうすぐ子どもが生まれる新婚夫婦が引っ越してきますが、妻の遥香はドンドンを床をたたくような不審な音に悩まされます。大家さんに聞いても、部屋をくまなく調べてもらっても、その音の出どころはわかりません。出産を控えて少し神経質になっているのかもと考えますが、遥香はさらに女性の霊を目撃。明らかにこの部屋はおかしいと確信を持ちます。

そして、間の悪いことに遥香は、スマートフォンを水没させてしまいます。調子の悪くなった彼女のスマートフォンはなぜかLINEだけは接続可能で、そこには見ず知らずのスポットルームが開設されていました。自分の話を誰にも信じてもらえない遥香は、そのスポットルームだけを心のよりどころとするようになり、部屋で異常が起きた時には、必ず入室するようになっていきます。

そのスポットルームこそが、視聴者がLINE入りのスマートフォンを必要とする理由です。本作は開演前にQRコードでLINEのスポットルームに入室するよう促されるのですが、そのスポットルームが劇中のそれとつながっているのです。

視聴者は、映像を見ながら助けを求めてくる遥香に助言を与えながら物語を体験していくことになるのです。



身近なスマホから漏れ出る恐怖

この企画のキモは、現代人にとってもっとも身近なスクリーンであるスマートフォンが恐怖の物語の一部となることです。
日本のホラー映画は、身近なものを題材として採用することが多々あります。『リング』は呪われたビデオテープが登場し(今の若い人にはビデオは身近じゃないかもしれませんが、当時はすごく身近なものでした)、近年では、事故物件や本作のようにスマートフォンが大きな役割を果たすホラー映画が作られています。舞台となる場所も、学校のトイレとか自宅とか団地とか、行ったことのある場所が選ばれることも多いです。

こうした工夫は、リアリティの確保という真っ当な理由ですが、映画が終わり、現実に帰った時にも映画の恐怖がまとまりついてくるような感覚を与えるという点でも有効です。日本のホラー映画の恐怖はねっとりと恐怖がいつまでもまとわりついてくるものが多いのは、題材の身近さも理由の一つに挙げられるでしょう。

本作はそんな身近な恐怖を一歩推し進め、スマートフォンを介してリアルタイムで巻き込んでいくわけです。本作の恐怖は、映像からだけでなく、あなたの手元にあるスマートフォンからも広がっていくのです。

SNSと善意

本作の物語は、リアルタイムの参加型であるという特性を生かして、分岐システムが採用されています。参加者のスポットルームでの振舞いによって、遥香の運命が変わっていくのですが、その分岐点も非常に現代的で身につまされるしかけになっています。

助けを求める遥香に対して、我々がどんな行動をするのかが問われており、単なる謎かけの分岐点とは異なります。ポイントは「善意」です。この状況で遥香のためになる行動はどんなものか、真剣に考え抜いた「善意」を発揮することを求められるのです。

「地獄への道は善意で舗装されている」という言葉もありますが、善意というものは間違った使い方をするととんでもない凶器になるものです。本作を体験するとそのことを思い知らされます。

また、映像を介してSNSの向こう側に生身の人間がいることをリアルに感じさせるのも本作の重要なポイント。普段、SNSを使う時にもきちんと意識しているつもりでも、顔の見えない相手の事情を想像するのは難しいこと。本作はフィクションとはいえ、自分の気軽な書き込みによって人の運命が変わってしまうことがあるという恐怖をも描いていると言えます。


あなたは正しく主人公を救えるでしょうか。最後にあなたを戦慄させるのは、物語の中の怪奇現象や狂気ではなく、あなた自身の正義心かもしれません。

(文:杉本穂髙)

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