2021年08月26日

『愛のくだらない』レビュー:30代女性のリアルな日常の中から「他者との関係性」を活写した話題作

『愛のくだらない』レビュー:30代女性のリアルな日常の中から「他者との関係性」を活写した話題作



■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

一見、日本語になってないようなタイトルではありますが(?)、見終わると不思議と感覚的に納得できてしまう、そんな現代女性の日常を描いた新鋭・野本梢監督作品。

沖田修一や岨手由貴子らを発掘した新人監督の登竜門・田辺弁慶映画祭で弁慶グランプリ&映画.com賞をダブル受賞したことでも話題の作品です。



本作では、テレビ局で働くヒロイン玉井景(藤原麻希)の忙しくせわしない日々や、どうにも煮え切れない元芸人の恋人ヨシ(岡安章介)をはじめとする、どうにもイライラしがちな他者との関係性の中で意地を張ったり、軽薄だったり、もがいたり、ふてくされたり、落ち込んだり、そんな彼女の等身大の姿を軽やかながらも切々と捉えていきます。

LGBTQへの安直な姿勢に対する真摯な反省なども盛り込まれていますが、これらの多くは野本監督の実体験から紡ぎ出されたエピソードであり、その意味では自身のリアルをいかに素直に映像に描出していくかに腐心した作品とも思われます。

こんな人だと思っていたら実はあんな人だった、みたいな人間関係の諸描写は見る側からしてもアルアルなものばかりで、また時に誰かを無意識に蔑んでいたりとか、そういうことまでハッと気づかされたりもします。



景に扮した藤原麻希のふてくされた表情が、いつのまにか微妙に変わっていき、最後には……といったあたり、映画ならではの賜物ともいってよく、また恋人に扮したお笑いトリオ「ななめ45°」の岡安章介が、正直どうしようもないダメ男のようでいて、でも……といったあたりも妙味。

総じて登場するキャストそれぞれの印象が鮮やかに脳裏にこびりつくのも、野本監督のユニークな人間観察の賜物かもしれません。



小さな作品ではありますが、小さなことからコツコツと、次第に大きく羽ばたいてくれることを願ってやまない好印象の映画です。

(文:増當竜也)

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(C)2020『愛のくだらない』製作チーム

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