【徹底解説】『ドライブ・マイ・カー』映画と原作の違いとは?
【徹底解説】『ドライブ・マイ・カー』映画と原作の違いとは?
神キャスト:小説上の架空の登場人物が、スクリーンの中で強く生きる
原作が人気、話題であればあるほどに期待が高まりブーイングも受けやすいのがキャスティング。映画『ドライブ・マイ・カー』は、ストーリーもさることながらキャストも神がかっていた。
まず、行き場のない喪失を抱えながらも静かに自身を奮い立たせて生きる、舞台俳優であり演出家・家福役に西島秀俊。家福役を演じるために西島秀俊が存在していると言っても過言ではない。何事もなく振る舞っているけど心に深い傷を負っているそんな”孤独”な男、家福が、スクリーンの中に間違いなく存在していた。
代表作である「MOZU」や「ストロベリーナイト」、『奥様は取り扱い注意』(21)、『人魚の眠る家』(18)、直近だと「シェフは名探偵」や今年の11月に公開を控える『劇場版 きのう何食べた?』など、どれも人気作品ばかりだ。少し影のある役がここまで似合う俳優は他にいるのだろうか。「西島秀俊が出ていれば間違いない」ブランディングがすっかり定着している。
次に、秘密を残したまま突然この世を去ってしまう脚本家である家福の妻・音役に霧島れいか。美しい容姿はもちろんのこと、確実に音そのものを生きていた。絵空事の物語を話したり、家福の台本の練習相手になったりすることから長台詞が多かったのだが、なんというか硬い色気のある声がなんとも特徴的で、一瞬耳障りなように思うのだけど聞いているうちになぜか癖になっていく。
家福が浮気現場を目撃した日の夜、予定通り出張先のホテルにいると思い込んでいる音と家服がビデオ通話するシーンは胸が張り裂けそうだった。他の男の前であんなに乱れておきながらパソコン越しの音はいつもと変わらず愛に溢れていて、その隔たりが家福をより苦しめているんだろうなと…
そして、家福の心を大きく動かすキーパーソン、音の脚本作品にも出演歴のある俳優・高槻役に岡田将生。観る前は「ほぉ、ここで岡田将生か」と思っていたが、自分の気持ちに正直すぎる、でも憎めない、そんな少年っぽさが残った青年を見事に演じ切っていた。ラストにかけての車中での長回しの独白、あれは間違いなく『ドライブ・マイ・カー』の中でベスト3に入る名シーンだ。
岡田将生といえば「大豆田とわ子と三人の元夫」の中村慎森が記憶に新しい。私の中ではすでに岡田将生の代表作となっている。高槻と中村慎森、うーん、甲乙つけがたい…!
最後に、ある過去を持つ寡黙な家福の専属ドライバー・渡利みさき役に三浦透子。恥ずかしながら知らなかったのだが、2代目なっちゃんだったそうだ。歌手としても活動しており、新海誠監督『天気の子』にボーカリストとして参加していたんだとか。改めて楽曲を聞いてみると、透明感のある歌声に魅了される。
そんな彼女は、飾りっ気がなく他人に干渉しない、人と一定の距離を保って過ごしているみさきのイメージ通りだった。家福に意図せず褒められ照れ隠しのために犬と戯れたり、家福の愛車の屋根を開けて空に向かってふたりでタバコを吸ったり、徐々に徐々に家福に対して心をひらいていく様子が愛おしい。
主要キャスト4人の役柄がハマっていたのももちろんのこと、それぞれの関係性も非常にマッチしており、原作とのギャップを一切感じることなく最後まで観ることができた。特に家福と音のベッドシーンには男女問わず釘付けになってしまうであろう。
まとめ:異なる物語が融合することでより浮き彫りになる”狂愛”
映画『ドライブ・マイ・カー』は、原作である3つの異なる物語ーー「ドライブ・マイ・カー」、「シェラザード」、「木野」ーーが融合されているからこそ、より歪な愛が浮き彫りになっているように思う。
「シェラザード」のエッセンスを入れることでより強固で甘い夫婦関係を、「木野」のエッセンスを入れることで有望から絶望への傾斜が激しく、一層残酷さが増しているのである。
もし、他の短編作品「イエスタデイ」、「独立器官」、「女のいない男たち」が融合されていたらどんな作品になっていたのだろうか。そんな妄想も含めて原作を読んでいるからこそより楽しめる村上春樹ワールド、映画館に足を運ぶ予定がある方はぜひ原作を熟読してから挑んでいただきたい。
>>>『ドライブ・マイ・カー』原作収録の「女のいない男たち」をチェックする
(文:桐本絵梨花)
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