『レミニセンス』レビュー:ヒュー・ジャックマン映画に外れなし!時間トリップSFとファム・ファタールの魅惑的融合!


リサ・ジョイ監督の意欲に応える
ヒュー・ジャックマンの男の色香

本作はまず、時間軸を縦横無尽に操るジョナサン・ノーランならではの“記憶潜入エージェント(と、宣材のプレスシートにはちょっとかっこいい言葉の響きで記されていますが、映画を見ていると商売そのものはかなり胡散臭くも見受けられます!?)”という設定が秀逸。

また兄クリストファー・ノーラン監督が単独で脚本を記した最近作『TENNET テネット』のように複雑怪奇すぎる時間軸の錯綜に至ることなく、比較的わかりやすい時間トリップが描出されているのは、弟ジョナサン・ノーランが脚本家というストーリーの構成などに腐心し慣れていることも関係しているのかもしれません。

(その意味では『TENNET テネット』も弟ノーランが脚本に参加していたら、もっとわかりやすい映画になっていた?)

ただし、今回の時間トリップを駆使したドラマ展開の妙味もさながら、映画全体を見終えて確実に残るのは、謎の女メイと、その虜になって彼女を追いかけ続ける主人公ニックの関係性です。



このテイストはまさに1940年代から50年代に流行したフィルム・ノワール(犯罪映画)であり、悪女もしくは謎の女に男が翻弄されていくファム・ファタール映画の再来そのもの。

つまり本作は近未来の時間トリップSFにフィルム・ノワール&ファム・ファタール映画の要素を盛り込んだ意欲作なのです。

これには監督のリサ・ジョイが育児中にフィルム・ノワールにはまったことを公言していて、それが昂じての本作の企画へ結びついていったようです。

ここでユニークなのは、フィルム・ノワールといえばモノクロの暗い映像のイメージがすぐに思い浮かびますが、本作はむしろ自然光など明るい光の要素をふんだんに取り入れていることで、それでいて見終えるとモノクロームのごとき印象を抱かさせるのです。

またファム・ファタールの要素に関しても、従来の「男目線からの悪女」という捉え方が一切成されていないので、逆によりメイの謎めいた風情が美しくも艶めかしく銀幕に映え渉っています。



そしてそんな彼女に翻弄されていく主人公ニックを演じるヒュー・ジャックマンの男の色香!

このところ『レ・ミゼラブル』(12)『LOGAN/ローガン』(17)『グレイテスト・ショウマン』(17)『フロントランナー』(18)など絶好調の彼、まさに出演作に外れなしの貫禄を示し続けていますが、今回もそのイメージを覆すことのない、孤独な一匹狼がいざ愛を求めてしまったときのうろたえが無謀な行動に顕れてしまうという男のサガみたいなものを嫌味なく醸し出しています。

またそんな彼を密かに慕いつつも決してベタベタした情緒に陥ることのないワッツ役のタンディ・ニュートンの佇まいも見事。

レイ(レベッカ・ファーガソン)とワッツ(タンディ・ニュートン)の双方を魅力的に描出し得ているのも本作の美徳であり、ファム・ファタール映画の新境地であるとともに、それがリサ・ジョイ監督の卓抜した手腕として大いに評価したいところです。

今にして思えばリドリー・スコット監督の『ブレードランナー』もSFとフィルム・ノワールとファム・ファタールの融合を目指したものとして認識できますが、本作はそれ以上にクラシカルな良さを2021年の今の時代に再来させようという意欲が好もしく伝わってきます。



光と闇と水の映像美も含め、これはぜひとも映画館の大画面で堪能していただきたい、映画の中の映画であると断言しておきます!

(文:増當竜也)

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