映画『君は永遠にそいつらより若い』レビュー:佐久間由衣&奈緒が優しく体現する「今」の時代の不安定な劣等感や焦燥感
映画『君は永遠にそいつらより若い』レビュー:佐久間由衣&奈緒が優しく体現する「今」の時代の不安定な劣等感や焦燥感
■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT
本作の主人公ホリガイ(佐久間由衣)は大学生活をそつなく過ごし、就職も決まり、後は卒業を迎えるだけといった、一見味気ない日常を過ごしています。
そんな彼女がふとしたことで知り合うイノギ(奈緒)は、常に帽子をかぶり、ちょっと鬱陶し目な長い髪を切ることもなく、どこかしら笑顔で心の奥の影を隠しているかのような女性です。
そしてホリガイの友人ホミネ(笠松将)の死が、彼女たちの心情に何某かの変化をもたらしていきます。
それは自分自身の心の傷であったり、コンプレックスであったり、本当は長所がいっぱいあるにも関わらず短所しか自分には見えないことの怒りや苛立ちであったり、さらには他人の心を全然思いやれていないのではないかといった絶望であったり……。
本作は20歳を過ぎてまもなく学生から社会人へ転身していこうとする若者たちの、実はまだまだ不安定な心情(もちろん、大人になってもその不安定さは姿形を変えて常にまとわりついてくるものですが)を切々と描き得た好篇です。
どちらかというと前半は淡々と日常をスケッチしていきますが、後半に向って徐々にふたりのヒロインの心の痛みなどが露になっていきます。
彼女たちそれぞれの人生の悲しいキャリアをわかったふりすることはできなくても、彼女たちの絶望と希望が交錯していく日常の中でどうしても培われてしまう劣等感や欠落感、そして焦燥感は誰しも理解できるところでしょう。
実は冒頭の飲み会シーンで、ホリガイが処女であることを男どもが茶化す古めかしい描写などに嫌悪を抱いてしまったのですが(ただし今もああいったデリカシーに欠けた男って意外に多いのかな?)、恋愛にも未だ積極的になれないまま、外向けの笑顔の作り方だけは達者なホリガイの深層心理を示唆させるフックにはなっていたのかもしれません。
またその伝では、いくつかのシーンが原作小説から15年以上の時を経ての映画化であることを上手く昇華しきれていない憾みも感じないではありませんでしたが、佐久間由衣と奈緒、双方とも現時点における俳優としての代表作ではないかと思える好演が、まさに「今」の映画として屹立させてくれています。
恐らくは彼女たちと同世代の若者たちが、賛否も含めて今の自分たちのアイデンティティを振り返るきっかけになるほどに、深く感情を揺さぶられる作品に仕上がっていることは間違いないでしょう。
(文:増當竜也)
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(C)「君は永遠にそいつらより若い」製作委員会