俳優・映画人コラム

REGULAR

2021年10月20日

門脇麦の魅力:「陰」と見せかけ「陽」でも引き込む

門脇麦の魅力:「陰」と見せかけ「陽」でも引き込む

Lv.3:あまりにも恐ろしい、分断された人種の確執『太陽』


(C)2015「太陽」製作委員会

劇団イキウメを率いる劇作家であり演出家・前川知大の舞台劇を映画化した作品、『太陽』(15)。U-NEXTやAmazon Prime Videoで配信中。

バイオテロによって、人口が幻滅した21世紀初頭。ウィルスへの抗体を持つ代わりに、紫外線に耐えることができないという弱点を持つ上流階級の新人類・ノクスと、ウイルスの感染を免れた下流階級の旧人類・キュリオという分断をテーマにした物語。内容は違えど、今このタイミングで観ると。コロナウィルスが連想される箇所がありゾッとした。

キュリオの村で生きる、ノクスに憧れを持つ奥寺鉄彦(神木隆之介)と、幼い頃母がノクスになるため村を出ていった経験から貧しい村で精力的に活動すると心に決めている生田結(門脇麦)。

キュリオは、転換手術でノクスになることができる。対象となるのは成人前の若者のみで、申請して抽選で対象者が決定する。当初、映画の登場人物も観ている側も鉄彦がキュリオになるもんだとばかり思っていたに違いない。結果、キュリオになったのは結。

変換手術の最中には、激しい反応が起こる。人間からなにか別の物体に転生する様をまじまじと見せつけられるような凄まじいシーンだった。村でひっそりと暮らしていた結からは考えられない、内からの開放。

無事ノクスになった結は、父(古舘寛治)と鉄彦の顔を見に、ノクスとキュリオを分断する境界線地点で落ち合う。

そこに存在しているのはたしかに結なのだが、なんというか、完全に別人なのだ。存在自体がキュリオの何十倍もイキイキとしていて、とんでもなく眩しい。父と鉄彦もおそらくそのことに気が付いていて、「本当にもうあっち側にいってしまったんだな」というどこか悲しそうな様子が伺えた瞬間が一番苦しかった。

『太陽』という作品の中で、同じ役柄で、同じ見た目で、あそこまで「変わってしまった人」を表現した門脇麦のカメレオン女優っぷりに拍手喝采。

Lv.4:他人の生活に夢中になって自分の生活がおざなりになる『二重生活』


(C)2015「二重生活」フィルムパートナーズ

直木賞作家・小池真理子原作、岸善幸の映画初監督作である『二重生活』(16)。NetflixやAmazon Prime Video、U-NEXTで配信中。

大学院で哲学を学ぶ、至って普通な学生・珠(門脇麦)は、ゲームデザイナーの拓也(菅田将暉)と同棲中。ふたりのベッドシーンから映画はスタートする。

さっそくあらすじからそれるが、事後、おっきめのTシャツを雑に被り、メガネをかけて、ベランダでタバコを吸うシーンの門脇麦がたまらない。『さよならくちびる』(19)然り、門脇麦のあの感じでタバコを吸う役柄全般、好きすぎる。

話を戻して…素敵な恋人と暮らしながらなんの不自由もない大学生活を送る珠だったが、担当教授の篠原(リリー・フランキー)から修士論文の題材に”哲学的尾行”を提案されたことから珠の生活は一変する。
隣人であり、裕福な暮らしをしていそうな石坂(長谷川博己)をたまたま本屋で見かけ、興味本位で尾行をはじめる。尾行初日からとんでもない秘密を暴いてしまい、どんどん”哲学的尾行”に夢中になっていく珠。

他人の”二重生活”を覗いていたつもりが、どんどん珠の日常に侵食して、気付いたときにはそばにいた拓也はもういない。引き返せないところまできてしまっていた。

どちらかという至極真面目な珠が、非日常なスリルに興奮してのめり込んでいくその姿に観ているこちら側までゾクゾクとさせられたと共に、もう今はない拓也のデスクがあった空間を見つめ、涙を流しながら論文を書き進める珠からはただならぬ意志の強さを感じた。

観終わったあと、ちょっとだけ尾行してみたくなっちゃうから、要注意。『二重生活』での不真面目モードな門脇麦にもハマらないよう、要注意。

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