2021年11月27日

<新作レビュー>『ARIA The BENEDIZIONE』15年以上に及ぶ未来系ヒーリングストーリーを振り返る

<新作レビュー>『ARIA The BENEDIZIONE』15年以上に及ぶ未来系ヒーリングストーリーを振り返る


才人・佐藤順一による
新たな心地よい挑戦

この『ARIA』シリーズを監督したのは佐藤順一。

「きんぎょ注意報!」や「美少女戦士セーラームーン」「夢のクレヨン王国」「おジャ魔女どれみ」「ケロロ軍曹」「カレイドスター」最近でも「Hugっと!プリキュア」など、現在30代以下の日本で生まれ育った女性で彼の作品を見ずに育った人はほとんどいないのではないかという存在。

一方で1996年の劇場用映画『ユンカース・カム・ヒア』は同年のスタジオジブリ作品『耳をすませば』を打ち破って第50回毎日映画コンクール・アニメーション映画賞を受賞。

昨年も「おジャ魔女どれみ」を見て育ち、今は大人になった女性たちの群像劇『魔女見習いをさがして』が、第75回毎日映画コンクール・アニメーション映画賞を受賞しています。

後輩への育成指導にも長け、シリーズが安定してくると自身は退いて新進にその後をバトンタッチさせることもままあり、そういったスタンスの下、幾原邦彦や細田守など多くの才人が巣立っています。

新旧の『エヴァンゲリオン』シリーズにも参加するなど庵野秀明監督らの信頼も篤く、ロボット・アニメでは戦闘シーンではなくドラマの要となる日常シーンの絵コンテを頼まれることが多いというエピソードから、アニメーションにおけるストーリーテリングを見事に把握している達人であることも理解できることでしょう。

さて、そんな佐藤監督ですがTVシリーズ終結から7年後の2015年、最初のTV版開始から10周年を記念して『ARIA The AVVENIRE」を発表。



これはTVシリーズから月日が流れて、灯里たちの下に就いてプリマ・ウンディーネを目指す新しい少女たち、先輩格のアリシアたち、さらにはグランマなども登場させることで数世代にわたるウンディーネたちの交流を描く“蒼のカーテンコール”第1弾で、劇場でイベント上映された60分の中編作品でした。

ここではARIAカンパニーの灯里と、シリーズ第1作からずっと彼女と交流し続け、念願叶ってARIAカンパニーで働くことになったアイ(水橋かおり)、そして引退した先輩アリシアを中心にしたエピソードが披露されていきます。

続いて2020年には15周年を記念した『ARIA The CREPUSCOLO』を発表。



ここではオレンジぷらねっとをメインに、アリスと先輩アテナとの切っても切れない麗しい絆が綴られていきます。

アテナの声はもともと川上とも子が務めていましたが、2011年に惜しくも亡くなってしまったことから『The AVVENIRE』ではライブラリーを使用していましたが、この作品から佐藤利奈へバトンタッチし、見事に大任を果たしています。

また、ここから佐藤監督は総監督へ移り、監督は名取孝浩が務めることになり、2021年12月3日からはこのコンビで「蒼のカーテンコール」最終章として今回『ARIA The BENEDIZIONE』が劇場公開されます。



ここでは残る姫屋をメインにしたエピソードが綴られ、藍華と先輩・晃のギクシャクしまくりながらも実は心通わせている関係性が描かれていきます。

本来、藍華は活発で勝ち気で言いたいこともずけずけ言うタイプですが、高校時代はそうでもなかったことや、いろいろ起伏に富んだエピソードが、これまた藍華に輪をかけて豪気な晃とともに連なっていくことで、映画的な弾みが倍増し、非常に心地よい60分を体感することが出来、プロジェクト3部作を見事に締めくくってくれたように思われます。

正直、ここで終わってしまうのはもったいないというか、アイや姫屋のあずさ(中原麻衣)、オレンジぷらねっとのアーニャ(茅野愛衣)たち新世代を中心にした新作が始まってもいいのではないか、もしくはこれまで銀幕でお目見えできたのはすべて中編なので、次は壮大な群像劇としての2時間ほどの長編映画を見たいという気持ちもないわけではありません。

ただ、これまでシリーズはすべて短編エピソードの連なりで構成されてきていて、それを頑なに守ってきたことを思うに、そのラインは外すことは(その日常的繊細な世界観を壊さないためにも)避けたほうが賢明なのかもしれません。

何よりも今は、ただただ「蒼のカーテンコール」最終章を見ていただき、それこそ第1作まで遡るなりして。改めてシリーズに想いを馳せていただけると幸いです。

(文:増當竜也)

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(C)2021 天野こずえ/マッグガーデン・ARIAカンパニー

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