2021年11月30日

『ブラックホーク・ダウン』記憶に刻まれるべき名セリフの数々! 名匠リドリー・スコット監督が生み出した極限の世界

『ブラックホーク・ダウン』記憶に刻まれるべき名セリフの数々! 名匠リドリー・スコット監督が生み出した極限の世界

4.「怖いと思った時に何をするかが大切だ」

ブラックホーク2機が撃墜され、地上でも相次いで米軍側に犠牲が出るなど極めて混沌としたモガディシオ市街戦。本作でも人体破壊など血生臭いカットを臆することなく描写しており、観客はまさに地獄の様相を目にすることになる。そんな戦況を離れ、命からがら基地にたどり着いたのに、再び戦地へ戻ることができるだろうか。負傷者を運ぶ車輌隊と共に基地へ帰還した兵士トーマスは、ストルッカー軍曹に「戻りたくない」と率直につぶやく。軍人としてその言葉が適性であるかは別として、1人の人間の発言としては誰も否定することはできない。そんなトーマスに対し、ストルッカー軍曹は「皆お前と同じように怖い。だが怖いと思った時に何をするかが大切だ」とアドバイスを送る。

ほぼ全編にわたって激しい戦闘描写が続く中、トーマスとストルッカー軍曹の会話は本作におけるエモーショナルな見せ場の1つといってもいい。決意を新たにしたトーマスの表情や、その姿を戦地に戻る車輌のバックミラー越しに見届けるストルッカー軍曹からは、短いシーンながらもヒューマンドラマとしての側面も感じさせてくれる。本作は舞台こそ戦場だが、恐怖だけでなく自分が立ち止まってしまった瞬間に“何をするか・何ができるか”考えるという意味で凡庸性の高いセリフではないだろうか。

5.「RPG!」

これぞ字幕翻訳者・松浦美奈氏の名字幕! ウィリアム・フィクナー演じるジェフ・サンダーソン軍曹が叫んだこのセリフは、民兵の前に飛び出したジョン・グライムズ特技下士官(ユアン・マクレガー)に向けられたもの。機銃を備えたピックアップトラックの破壊に成功した直後、グライムズに向けて対戦車ロケットランチャーが放たれたのだ。確かにロケットランチャーの正式名はRPG-7Vであり、サンダーソン本人も「RPG!」と叫んでいるので字幕としては全くもって間違いではない。とはいえ、たとえば観客にわかりやすく「ロケット弾だ!」と訳してもよかったはず。そうはせず、何の説明もなく「RPG!」というわずか4文字の字幕を載せることでリアリティーが増しているのだからお見事としか言いようがない。(ちなみにダニー・マクナイト中佐役のトム・サイズモアも含め、本作には「RPG!」と叫ぶシーンが複数回見られる)。

そもそも本作は観客をモガディシオ市街戦の只中に放り込む作品であり、説明的なセリフはなく専門用語ばかりが飛び交う。たとえば一言でアメリカ軍といっても、作戦に参加した主なチームは第75レンジャー連隊・第1特殊作戦部隊分遣隊デルタ・第160特殊作戦航空連隊。素人には一体なにが違うのかさっぱりわからないが特段作品内で説明があるわけではなく、各キャストがどの隊に所属しているのか鑑賞中に把握するのもほぼ不可能ではないか(そのキャスト陣ですらメットやゴーグル、防弾チョッキなど似た出で立ちなので誰が誰だか見分けがつきにくい)。それだけ本作が臨場感に徹しているという、何よりの証拠でもある。

6.「一人も残すな」

司令部のガリソン少将が無線越しのマクナイトに伝えたこのセリフ。マクナイトは市街地からの撤退が迫るなか墜落したブラックホーク内の遺体収容の指揮を執るも、機体に挟まれた遺体の収容は容易ではなくどれだけ時間を要するかわからない。撤退までの時間が長引けば長引くほど、米軍側の被害が拡大しかねない状況ではあるものの、無線を握るガリソン少将が少しの間を置いて伝えたのが「一人も残すな」という指示だ。“遺体も含めて”とは言葉にこそしていないものの、その一言に集約されたのは決して誰一人残さず「全員で基地に帰還せよ」というガリソン少将の願いに他ならない。それは表面上を取り繕うものではなく、部下を死地に送り込んだ責任の重さも痛感させるセリフともいえる。のちに野戦病院で床に滴るおびただしい量の血を拭くガリソン少将の姿も合わせ、その人間性を体現してみせたサム・シェパードの深みのある演技に注目してほしい。

ちなみに「一人も残すな(No one gets left behind)」と同じ意味合いで、『ブラックホーク・ダウン』本国版のキャッチコピーとして用意されたのが「Leave no man behind」。ハンス・ジマーが手掛けたサウンドトラックの1曲にも同名タイトルがあり、そのメロディーは本作のテーマ曲として全編にわたってあちこちに顔を覗かせる。劇伴の大半でティンパニ・和太鼓・スネアドラムなど荒々しいパーカッションが鳴り響く中、「Leave no man behind」自体は一転してチェロやピアノを中心とした悲壮感漂う楽曲。ジマーいわく「戦争に向かう男たちの姿というのは今も昔も変わらない」という考えから、戦う男たちの姿を曲にしつつ“古代的な要素”を取り入れて「時を超えても変らないもの」を表現したかったという。

7.これは、観客に問いかける作品であって、答えを提供する作品ではない。

最後にご紹介するのは、リドリー・スコット監督本人による本作のオフィシャルコメント。ソマリア内戦への介入、ブラックホークの撃墜、地獄のような戦況での判断、民族間の対立など観客は本作を鑑賞しながら様々な“なぜ”を体験するはず。しかし監督が言うように明確な答えは用意されておらず、“その時なにが起きていたのか”を見届けるしか術はない。

映画につい“答え”を求めがちになってしまうからこそ、本作が問いかけるものはズシリと重い。また監督本人が「答えは提供しない」と明言しているのだから、「このシーンは○○というメッセージだ!」「あのカットは□□を示している!」と声高に主張することに意味はないだろう。そもそも本作が事実に基づいているとはいえ、作品が提示した内容を鵜呑みにするだけでなく、その先にある“実際に起きたことを知る”のも観客の役割。たとえば世界に衝撃を与えた市街地を全裸で引きずり回される米兵の遺体の描写は含まれておらず(上半身を裸にされ民衆に掲げられる引きの画にとどめられている)、またユアン・マクレガーが演じたグライムズもモデルとなった兵士がのちに性犯罪を犯したため役名が実際とは異なっている。どこまでが史実でどれが映画としての描写なのか、そのボーダーを見極めるリテラシーも求められるのだ。

監督のコメントのように『ブラックホーク・ダウン』は本編内外で名言の宝庫であり、他にも紹介すべきセリフが山のようにある。戦争映画としてそれだけの魅力を備えた作品であり、受け取り側によってどの言葉が琴線に触れるかどうかも変わってくるに違いない。気づけば製作から20年も経つ作品だが、映画を通して1993年10月のモガディシオに身を置きながら、銃弾や砲弾に紛れて飛び交う兵士たちのセリフ1つ1つに耳を傾けてみてほしい。

【関連記事】【総力紹介】ハンス・ジマー、映画音楽界の巨匠

(文:葦見川和哉)


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